第12話 両国の歴史・水資源を巡って
「第二次中東戦争で名をあげたナセルは、その勢いに乗ってアラブの大同連合結成を企て、まずシリアしたわ。これはシリアの歴史のところでも話をしたわね」
『それはちょっと調子に乗り過ぎじゃない?』
確かに。
外交的に成果を出したとはいえ、エジプト自体はまだまだ問題の多い国だ。
「そうね。しかも、この連合も失敗するわ。共同国と言いつつも、エジプト側が贔屓されているのは明らかだったから、シリア側の不満が募って結局数年で離脱ということになったのよ。ナセルとエジプトは失敗したと認めたくないから、シリアの悪口を言い始めて、かえって仲が悪くなる結果を招いてしまったわね」
『ダメ過ぎる……』
「一方、イスラエルはというと、負けは負けだけど、イギリスやフランスほど深刻には受け取っていなかったわ。元々、ナセルのエジプトがヤバイんじゃないかという危機感からくっついたけど、戦場では優勢だったからね。ナセルがシリア問題で躓いたこともあって、この時期は表向きの敵対行動は少なめだったわ」
「表向きはということは、裏では何かあったのか?」
「ヨルダン川の水資源を巡る問題で、アラブ側と問題を引き起こしたのよ」
水資源か。
人口増加が続いている現代の地球で、食糧以上に問題になりそうな話だな。
「そうね。中国がメコン川上流で水資源を独占しようとしているという話があるし、トルコもユーフラテス川で似たようなことをしているし、色々問題になっているわね。それは別の話なのでおいておくとして、とにかくこの時期、イスラエルは国内に水が行き渡るようにするべく、水利事業を行うことにしたのよ」
『それで問題になったの?』
「そうね。イスラエルのやり方が多少強引なのはあったけれども、アラブ側が過剰反応を起こして、ついでに国内政策の失敗も重なって、それを糊塗するためにこの問題がどんどん大きくなっていったのよ。特にエジプトに反発するようになったシリアがこの問題を大きくしていったわね」
この時期というと、イラクとシリアでバース党による革命が起こって、エジプトから離脱したシリアが一転してイラクと連合するのではないかという話もあったわけだな。
「そうなの。離脱されたシリアがイラクと連合国を結んだら、エジプトとナセルにとっては極めて痛い話になる。ということで、水利問題で主導権を取ろうと参加してきたわけ」
「どちらが良い悪いは別にして、この問題に関しては歴史・宗教というより生活に、メンツが絡んできておかしくなった感じだな」
「ただし、この段階ではイスラエルの水利計画は国際社会の知るところでもあり、その承認も得ていたわ。この時代は穏健派が政権をとっていたし。だから、『止めようとするなら武力行使も辞さない』という構えで実際に二度ほど武力行使を行ったのよ」
『穏健派でも武力行使の準備はするのね』
「それが中東というものよ。で、ナセルはさすがにこの問題で戦争までするべきではないと考えて、引き上げたんだけど、これがイスラエルに変な自信を与えてしまったのね」
『あぁ、武力行使したら、あいつらビビったぜ、となったのね』
「そういうことよ。交渉より武力行使の方が良いぜ、と思う面々が多いのはこの辺りも影響していると言われているわ。良いか悪いかは別として。こんな状況下で第三次中東戦争に向けて進んでいったのよ」
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