第11話 両国の歴史・ナセル登場
「第一次中東戦争はイスラエルの圧勝に終わって、アラブ側は惨憺たる目に遭ったのだけど、当然のように彼らはその現実を国民にはひた隠しにしたわ。『我々は本来なら勝っていたのに先進諸国が全力でイスラエルを応援したから負けてしまった』的な誤魔化しで自分達の失策を塗りつぶそうとしたのよ」
自分達の失態を認めると、王国の正統性がなくなってしまう、というわけだな。
「ただ、現地で戦っていた軍人には実態が分かるものよ。問題が相手側にあるのではなく、自分側にある、ということが」
以下のようなパターンはアフリカも含めて非常に多いんだよなぁ。
よろしくない政権が運営されている。
↓
戦場等で現実を思い知った軍が憤怒する
↓
クーデターを起こして政権を奪う
↓
義憤以外に何もないから政治力欠如を露呈し、ぐだぐだになる
↓
よろしくない政権が運営されている。
「それが繰り返されるうちについには国家というものを信用しなくなり、部族なり地縁を信用するようになるわけね。パレスチナもヨルダンもそれに近い形であるわね」
悲惨だな。
「ま、それは良いとして、ともかくエジプト軍の中で、国内をどうにかしなければならないと思うようになる人達が現れてナセルが主導する一派がクーデターを起こしたの。多少省くけれど、勢いのままにナセルはエジプトの頂点まで上り詰めたわ」
「欧米では蛇蝎の如く嫌われてしまったナセルだな」
「まあ、色々あるからね。結果論的に大きな失敗もしてしまったし。ただ、『最終的にイスラエルに勝つことが目標だけれど、その目標はアラブ世界とエジプトを良くしなければ達成できない』という当たり前のことをやろうとしたことは評価していいと思うわね」
「未だにそこにたどりついてないところが多すぎるからなぁ」
「ということで、ナセルはエジプトを改革しようとしたけれど、金欠に陥ったわ。1950年代では今ほど観光業も盛んじゃないからピラミッドやスフィンクスで人を呼び込むことも難しいし、ということで、スエズ運河を国有化することにしたのよ」
「スエズ運河はイギリスが運営していたんだっけ」
「そうよ。当然、イギリスは激怒したし、フランスもアルジェリア運営で苦労していたからナセルを警戒していたのよね。この両国がタッグを組んでイスラエルに『一緒にナセルをぶっ倒そうぜ』ともちかけたの」
「うーん、何というか」
「ナセルのエジプトに対して脅威を感じていたイスラエルもこれに乗っかって、第二次中東戦争が始まったわ。ただし、これは結果的には失敗に終わるのよ」
失敗の原因は幾つかある。
イギリスやフランスの行動は第二次世界大戦以降、嫌われていた帝国主義的発想によるものとされた。だからアメリカは大反対した。
ナセルの改革は社会主義的だったから、ソ連も基本的にはエジプト寄りだった。だから、アメリカに従った。
米ソ二大巨大パワーを敵に回した英仏とイスラエルには引き下がるしかなかった、というわけだ。
「誤魔化していたとしても、20世紀頭からアラブはイスラエルに負け続きだったわ。だから、ナセルがイスラエルに勝利したことは画期的な出来事だったのよ。ナセルの人気は更に高騰したわ」
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