第1話 そもそも最悪の隣人なのか?

 現代の女神がパレスチナ問題が難しすぎてキレて暴れている。

 制止を任せられた俺は、従妹の奥洲郁子おうしゅう いくこを連れて女神の前にやってきた。


『グギャアァァオー!』

「落ち着け、俺達がパレスチナ問題について説明するから! まず、そもそも論として……、そもそも論として……、郁子、交代だ」

「えぇぇぇっ!? 一体何を説明しろというのよ?」

『ギャオー!』

「あーれー!」


 うわあ! 郁子が「ビッグフラーイ、オオタニサーン!」のムーンショットのように打ち飛ばされてしまった!

 フィクションでなければ死んでいるぞ!

 まあ、死んだから天界にいるんだけど。


「……やれやれ」

「に、新居千瑛。助けてくれ」

「仕方ないわね。まずは誤解されている部分から始めようかしら。パレスチナにとってイスラエルはどういう存在なのだと思う?」

『……』

 おっ、巨大化して暴れていたのが、普通の女神らしいシルエットに戻ったぞ。

『やっぱり、最悪ってゆーかー、チョベリバって感じ?』

 女神のくせに言葉が死語!?


「その認識が根本的に誤解なのよ。基本的にはパレスチナにとってイスラエルよりいい隣人はいないのよ」

『マジ!?』

「そうよ。イスラエルとパレスチナの隣人を考えてみなさい」


直接隣接

レバノン:元日産社長ゴーン氏とヒズボラで有名。元々の政治機構が弱いうえに難民が大量に逃げてきたのでまともな統治ができていない(だからヒズボラが)。

シリア:専横政治の大統領に過激派に米ロトルコが絡んで大混乱。弱いレバノンにすら大量に難民を送り込む世界最悪地域の一つ。

ヨルダン:中東ではまあまあマシでパレスチナ系住民も多いが、シリアからの難民が以下略。

エジプト:ピラミッドとナイル川とクレオパトラの国。この地域ではマシな方になるが、大体軍が支配していて、過激派も強い。腐敗もはびこりディオもいる。


近くにいる

サウジアラビア:中国と並ぶ最強クラスの死刑実施国。強固な王制でガチガチの宗教という二重束縛が待っている。

イラク:アメリカが変に手を出してバラバラになった。現在はほぼイランの子分。

イラン:中東のボス。イスラエルが大嫌い。

リビア:かつて元帥より偉い大佐が支配していて世界有数の危険だった存在。今はバラバラになって、良くも悪くも影響力が無くなった。

トルコ:大昔は管理していた。今は他人のふりをしている。


「あー、並んだら確かにイスラエルがまともに見えるかも……。でも、ニュースなどを見ているとイスラエルが酷いように見えるけどな」

「それはイスラエルが西側諸国側にいて、報道の自由が担保されているからでしょうね。あとは、アルジャジーラなど中東系メディアはもちろん、他のところもイスラエルの問題は喜んで報道するというのがあるかしらね。イランやシリアでは市民がどうなっているかなんて報道自体されないわ。日本人がパレスチナで死んだら一大事だけど、イランやシリアで死ぬのは不思議なことではないからね。どちらがマシかしら?」

 確かに、知らない=平和というわけではないからな。

「後々詳しく見ていくけど、パレスチナは経済状態も良くなくて、イスラエルへの出稼ぎも多いというわ。経済でもかなり依存しているのよ。隣国事情も考えればイスラエルがいなければ、シリアからの難民が大量にやってきてレバノン以上に悲惨なことになるかもしれないわね。極論すると、パレスチナ市民はもちろん、ハマスですら、イスラエルがいる方が得と言えるのよ」

『……じゃあ、イスラエルが正しいわけ?』

「そこまでは言わないわ。だから何をやってもいいわけではないし。ただ、パレスチナが国家としてテロ組織という回答しか持っていない以上、イスラエルとしても黙ってやられるわけにはいかないでしょ。そして、イスラエル以外でより良い解決策が見つかるかというと、周辺地域を考えたらはなはだ心もとないわね」


 イスラエルは良くない答えだろうが、他はもっと酷いというわけか。

 中東やバルカンあるあるだなぁ。

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