別々2
「それにしてもホントに飽きないね、人間の世界は。歩いてるだけで楽しいよ」
駅構内を歩きながら、アリスがこちらを向きながら言う。
「神様の世界から見てたから見慣れてるもんじゃないの?」
「いやぁ~、やっぱ違うところで見るのと生で感じるのとでは全然違うよ」
「そういうもんなのか」
コンサートみたいな感じかな。と一人で納得する。
そしてスマホをかざして改札を抜ける。アリスの僕に続いて改札内に切符を入れて通る。
「おぉ~」
アリスは改札を通るのがお気に召しているようで、目がキラキラとさせながら通った後も、改札を見つめている。
一回離してしまった手を、もう一回繋ぎ直す。
ずっと手を繋いでいるせいか、最初は冷たいと感じていたアリスの手も、冷たいと感じなくなってきた。
そしてほどなくしてホームにへとたどり着く。
電車がもう来ていた。次の電車まで待ってもいいのだが、さすがに待つのは面倒くさいので小走りになる。
「やばいやばいやばい」
そして電車に駆け込む瞬間、不意にアリスとの手が離れた。
後ろでアリスは音を立てて転んでいた。
「え」
「あ」
「「ちょ、待って。やば」」
僕とアリスの声が重なる。
アリスは顔を上げた後、急いで身体を起こしたが、アリスが立ち上がった瞬間、ドアは閉まってしまった。
アリスの顔が不安と焦りでなのか泣きそうになる。
ドア越しに何か言っているのだろうか。口は動いているが何を言っているのかは分からない。
とりあえず僕はジェスチャーでそこに留まるように合図する。
不安だったが、アリスはジェスチャーの意味を理解したようで、コクコクと頷いた。
電車が出発する。ガタンゴトンと揺れる度に、ドアの窓越しに移るアリスの姿が遠くなる。
電車内でアナウンスが流れるが、今は耳に入らない。
ちゃんと待ってるかなとか考えるが、一番の心配はアリスが僕の五メートルから離れたということだ。
アリス曰くアリスの力を僕の力で打ち消してるとかそんな話をしていた。
「もうちょっと詳しく聞いとけばよかったなぁ」
と誰にも聞こえないような小さな声で呟く。
五メートル以上離れてはいけないとは聞いていたが、離れた場合どんなことになるかは聞いたことなかった。
もしかしてとんでもないことが起きるんではなかろうか。
考えるだけで不安に襲われるので、その不安を落ち着かせるためにスマホを開く。
スマホを開いた瞬間、インストールしているニュースアプリの通知が飛んできた。
通知には少し信じ難い...いや、信じたくないようなことが書いていた。
「北海道、中国、ヨーロッパで地震..?」
【速報】と書かれた横の文を見て思わず声が漏れる。
発生したのは、電車が出発してから三十秒後ぐらいのことだ。
偶然だろうか。アリスと離れたことが引き金ではない。
そう思いたいが、そんな偶然はおそらくありえないだろう。
アリスの力でこうなっている。信じたくないがそれが地震の原因になっているのだろう。
アリスがとんでもないような存在に思えてしまう。
そしてそれと同時に自責の念が生まれる。
僕がちゃんと注意していれば、僕が急がなければ、僕が手を離さなければあんなことにはならなかったんだ。ちゃんと後ろを確認していれば。
考えれば考えるだけ、後悔が生まれる。
この地震の原因の責任が僕にあると思うと、申し訳なくなる。
アナウンスと共に、ドアが開く。
僕は急いで電車から飛び降りた。
早めに降りても、遅めに降りても次の電車まで待たないといけないのだから早めに出る必要はないのだが、僕の気持ちが僕の足取りを早くさせた。
スマホの通知が鳴る。
僕の心がその通知の内容を見るのを拒否してしまう。
だが、その内容を確かめたくなる気持ちを抑えられず、通知の内容を見る。
だが、その通知の内容はインストールしているゲームで今の僕にとっては心底どうでもいいないようだった。
だが、その内容は僕を少し安心させた。もしかしたらあの地震はアリスに関係ないかもしれない。数少ない可能性に縋らせてくれるものだった。
その時、嫌な通知が僕の目に飛び込んできた。
【速報】という文字の横には地震発生と言う文字が書かれていた。
自分のメンタルに悪いような感じがして、スマホをポケットにしまって次の電車のためのホームに向かって歩き出す。
その時、隣の男子高校生二人組の会話が僕の耳に入った。
「こんな地震ばっか起きるっておかしいよな」
「な」
二人はスマホを見ながら歩いていく。
「なんか神様が怒ってんのかな?」
「あー、漫画とかで見るやつ?」
「そそ、そんな感じ」
アリスの顔が浮かぶ。
僕が浮かべる神様は怒っておらず、悲しんでいた。
アナウンスと共に、アリスが居た駅に向かう電車がホームにへとやっと来る。
電車の扉がゆっくりと開く。その一秒一秒が惜しい。
余裕があるのにも関わらず、足早に電車に乗り込んだ。
ぞろぞろと人が入ってきて、少しするとドアが閉まり、電車が走りだす。
ガタンゴトン、ガタンゴトンと電車が走る。
普段はこんなことを思わないが、今はもっと速く走って欲しいと無理な願いを思い浮かべる。
気持ちを落ち着かせるためにドアの窓越しに外を眺める。
人生で一番長い電車だったように、錯覚した。
===
元居た駅に着くと、アリスはそこで待っていた。
今にも泣きそうな顔でだ。
僕が電車から降りた瞬間、アリスは僕の手をぎゅっと握った。
僕もアリスの手を握り返す。
そして次の電車を待つ。アリスは何も喋らない。
「ごめ...」
僕の謝罪をかき消すように、アリスが僕に質問する。
「...何か起こった?」
「何か起こったって?」
「悪いこと。例えば...地震とか」
本当のことを言おうか迷う。ここで本当のことを言ってしまえばアリスはもっと傷ついてしまうだろう。
だが、隠してもいつかはばれる気がする。ここで嘘をついても良い結果は生まない気がした。
だから僕は本当のことを話すことにした。
「うん、起きたよ。地震。」
「そう...やっぱり」
アリスはより一層泣きそうになり、顔を伏せた。
かける言葉が思いつかない。大丈夫だから、安心してとは言えなかった。
かける言葉を見つけられない代わりに、ぎゅっと手を握って背中を叩く。
待っていた電車が来た。
「帰ろうか」
「...うん」
アリスは小さな声で返事を返し、僕と一緒に電車に乗った。
電車内では二人とも無言だった。
大丈夫だよと声をかけてあげたい。だが、それは無意味だと僕は心の奥で気づいていた。
なんたって、事実は消えないんだから。
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