最後の五日間 3
昨日と同じような感じで目が覚める。昨日と違うことと言えば、今日は僕がベッドで寝ていることだろうか。
下で寝ているアリスを見ると、一昨日僕があげたぬいぐるみを大事そうに抱きかかえていた。
そのアリスのそばには僕があげた別のぬいぐるみたちも転がっている。
そのアリスも目を覚ましたのか、目を擦って背を起こす。
「おはよ」
「ん...おはよ」
アリスはすごい眠そうだ。神様も眠たくなるんだなとふと思った。
「今日はどっか行くの?」
「う~~ん、そうだな」
僕は頭を悩ませる。
遊びに行くのもいいが、いかんせんどこに遊びに行くかがいまいち思いつかない。
「あんまり遊びに行く場所も思いつかないな」
僕の遊ぶ場所のレパートリーの少なさに我ながらビックリである。
でも、僕もアリスも結構な時間を家で過ごしている。
一番なじみの場所はアリスにとっても僕の部屋なんじゃなかろうか。
その時、アリスがふと思いついたように僕に提案してきた。
「ねぇねぇ、私一つしたいことがあったんだった。していい?」
「うん、いいよ」
何だろうと思う。正直何かは見当つかない。
「写真撮りたい。いっぱい」
「写真?」
「うん、やっぱ記録に残したいしね」
「うん、いいよ」
そう返事したものの、過去に写真撮った記憶が二年ぐらい前である。つまり僕のスマホの写真フォルダの日数は二年前で止まっている。
「早速撮ろうよ。ほら」
アリスはモニターの前に座って手招きする。
「ここでは別に撮らなくてよくない?ずっと居る場所だし」
「えぇ~、分かってないなぁ。一番居るところだからこそ記録に残す価値があるんだよ」
「そういうもんなのか」
僕はアリスの手招きにしたがってアリスの横に移動する。
そしてスマホのカメラを起動した。
インカメにし、僕とアリスがスマホの画面内に映る。
アリスがカメラに向かってピースをする。
僕もアリスに倣ってスマホをカメラにピースした。
カシャと音が鳴り、スマホの中に僕とアリスの姿が保存される。
続けて五枚ほど写真を撮った。
「見せて見せて~」
アリスが僕のスマホを手に取り、フォルダを確認する。
「顔笑ってないじゃん。もう一回撮ろうよ」
そう言われ、僕もフォルダを確認する。僕の顔は無表情だった。そんな僕とは正反対にアリスは満面の笑顔である。
「作り笑顔苦手なんだよなぁ」
そう言いながらも、先ほどと同じように写真を撮る。
続けて五枚ぐらいだ。
「いいじゃん」
アリスは嬉しそうに写真を見つめる。
僕も先ほど撮った写真を確認する。
「なんか僕の笑顔変じゃない?」
「変でいいの。変な方が印象に残りやすいかもしれなしね」
「そういうもんか」
「じゃっ、次外で撮ろうよ。今日は一日写真撮りたい」
「うんいいよ」
僕たちは外に出る準備をした。
===
「ねぇねぇ、こことかいいんじゃない?」
歩道のそばにある木の下でツーショットを撮る。だんだん笑顔も上手くなってきた。
「ねぇねぇ、私だけでも撮ってよ」
そう言われ、僕は少し下がり、アリスをカメラの内に入れてシャッターを切る。
「おぉ、いい感じ。ねぇねぇ、隼人も撮るからポーズして」
「えぇ、いいよ僕は」
「良くないよ。私隼人も撮りたいもん」
「しょうがないなぁ」
僕も木の下に立ち、ピースをして笑う。
「じゃあ撮るよ。はい、チーズ」
そう言ってアリスは連続で五枚ほど撮った。
「うん、いい感じに取れたよ」
「それは良かった」
僕たちは次の場所まで歩き始めた。
「やっぱ私たちといえばここでしょ」
一昨日行ったゲームセンターまで行ってゲームセンターの前でツーショット。そしてアリスと僕一人ずつでも撮る。
「ここの味は忘れない」
昨日行ったハンバーガー屋の前でツーショット。一人ずつでも撮る。
「改札の音好きだったなぁ」
駅の前でツーショット。一人ずつでも撮る。
移動していてよさそうな景色があればその時点で写真を撮る。
今日だけで確実に三桁枚は写真を撮っていた。
今までほとんど出番のなかった僕の写真フォルダも喜んでるだろう。
「動画も撮ってよ」
そう言われ、僕はアリスを撮影する。
「いぇーい。見てる?」
アリスはスマホのカメラを覗き込む。
移動中ずっと動画を撮る。何気ない、だが大切な一秒を記録する。
「ちょっとスマホ貸して」
「いいよ」
そう言ってアリスにスマホを手渡す。
「ちょっと目と耳塞いどいて」
「え?あ、うん。分かった」
僕は言われた通りに目を閉じて耳を塞いだ。
アリスは少し離れたところで多分何か撮影しているのだろう。
「もういいよ~」
アリスのその言葉と同時に、僕は目を開けた。
「何撮ったの?」
「秘密」
「秘密と言われたら余計気になってしまうのが人間の性」
「それでも秘密なものは秘密。私が居なくなったら見ていいよ」
「分かった。それまで楽しみにしてるよ」
「うん。それでよし」
「じゃ、次行こうか」
アリスは前を指差して歩き始めた。
===
最後は家の前で写真を撮る。もう時刻は夕方になっていた。
歩きすぎて足がパンパンである。
「行くよ。はい、チーズ」
その言葉と同時にシャッターを切る。
「一番いい感じじゃない?」
「確かに、夕日がきれい」
アリスは出来に感心して少し笑う。
「今日は付き合ってくれてありがと」
「いいよ。楽しかった僕も」
「なら良かった」
そう言って僕たちは家に入った。
部屋で遊ぶ時もずっと撮影しっぱなしだ。
アリスがはしゃいでいる姿。僕がはしゃいでいる姿がカメラの中に保存されていく。
こんな日々がずっと続けばいいのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます