最後の五日間 4
今日は一日部屋で遊ぶ予定だ。
そもそも結構な時間をこの部屋で過ごしたのだから、無理して違うところに遊びに行く必要はない。
「くぁああ。これで僕何連敗中?」
「20ぐらいじゃない」
「まじで!?もうそんなに負けてたのか」
「どうする?再戦は何回でも受けてたつよ」
アリスが不敵な笑みを浮かべる。
「じゃもう一回!次こそは絶対に勝つ!」
「ふふ、私も絶対負けないんだから」
そうしてもう一度、再戦のボタンを押した。
===
「ちょっと休憩」
そう言って床に寝転がる。
ゲームは三十連敗したあたりだ。何回やっても勝てる気がしない。才能の塊を相手にしている気分だ。いやまぁ才能の塊を相手にしてるんだが。
「次は協力ゲームもしてみたいな」
「おっしゃ。じゃあやるか」
休憩とは言ってみたものの、やる気になればすぐに行動できる。
僕はゲームソフトから協力ゲームを探し、セットする。
僕がセットすると、ゲームは起動し始めた。
「私これやるの始めてかも」
「初めてのやつ選んだからな。これちょー面白いよ」
「隼人がそういうなら楽しみ」
アリスがコントローラーを握りながらにこやかに笑う。
そんなアリスの姿を見て僕の頬も少し綻ぶ。
壮大なBGMと共にオープニングが始まった。
===
「これちょー面白かった!名作だよ名作」
アリスが鼻息荒く僕に感想を語りかけてくる。
「そうだろ?中学校の時に一回友達とやったんだけど面白かったのを今日思い出したんだよ」
好きなソフトを褒められて嬉しくなる。
「あそこのボス戦半端なかったね!」
アリスの語りはまだまだ終わらない。超楽しそうに語るアリスを見て僕もより楽しい気分になる。
外をちらりと見るともう夕方になっていた。
ふと、明日アリスが居なくなることを思い出した。
そのせいで悲しい気分が胸の内を襲う。
アリスはまだ楽しそうに語っている。僕も相槌を打ったりして話を聞く。
だめだ。まだ一日以上あるのに悲しい雰囲気を悟らせてはいけない。
最後まで楽しく過ごすんだ。一緒に。
そう思い、さっき思ったことは無理やり忘れることにした。
「まだなんかないの?超面白いソフト」
「しょうがない。僕が個人的に好きな秘蔵のシューティングゲーを披露しよう」
「やった!楽しみ」
そう言って僕は段ボールの中から目的のソフトを探しだし、セットする。
ゲームが起動した。
===
「やった!やっと倒せた!」
「ラスボス強敵だったな」
「そうだね、私たち何回負けたんだろう」
「軽く十回は行ってるよな」
「疲れたね」
そう言ってアリスは床に寝転がる。
僕もアリスの横に同じように寝転がった。
横を向くとアリスと目が合う。
二人でニコリと笑いあう。
外を見るともう夜中である。
流石に一日中ゲームをやりっぱなしだったからか、腰が痛い。
「そろそろ寝るか」
「そうだね」
風呂も済ませているので、もう寝るだけである。
今日は僕がベッドで寝る日である。
クッションとタオルケットを用意して、アリスがカーペットの上で横になる。
僕もベッドに横たわって、リモコンで電気を消す。
「おやすみ」
「おやすみ」
お決まりの挨拶をして、お互いに目を瞑り、眠りにつく。
だが、僕はなかなか眠りに就けないでいた。
明日で最後と考えると、悲しみやもやもやした気持ちで、脳がなかなか寝かせてくれない。
目を瞑って三十分ぐらい経ったが、一向に寝れそうにない。
「起きてる?」
アリスに聞いてみた。
アリスの眠りに就くスピードは異常なので、起きてないと思いながらなのでダメもとである。
だが意外なことにアリスから返事が返ってきた。
「起きてるよ」
「意外だな。アリスはすぐ寝れるイメージがあったから」
「今日はちょっとね、なかなか寝れなくて」
やはりアリスも明日が最後なことを気にしているのだろうか。
気にしていないはずがないか。
なんせアリスにとっては本当に最後の日になってしまうのだから。
「奇遇だな。僕もなかなか寝れなくて」
「ふふ、一緒だね」
そう言うと、アリスは下から僕の手を握ってきた。
「どうしたの?」
「いや、なんか握ったら安心して寝れる気がして」
「確かに、僕もこれなら寝れそう」
僕はもう一度目を瞑る。
不思議と安心する。
人と触れ合いながら寝るというのはこんなに安心できるものだったのか。
気が付くと、するりとアリスの手が僕から離れてカーペットの上に落ちた。
多分眠ってしまったのだろう。
だが、そんなことを考えているうちに、僕も眠りに落ちていた。
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