女神を殺す物語
@kekumie
対面
「私のせいで、無くなっちゃう。世界が」
僕の脳内にそんな言葉が流れてきた。声は女の声だ。囁くようで心地がいいような声質をしている。
一瞬誰かが僕に向けて言ったのかと思ったが、部屋中を見渡してもこの部屋には僕以外の人物はいなかった。
「私はこの世界が好き。無くなっちゃうのはいや」
また脳内に言葉が流れ込んでくる。
再度周りを見渡すも、やはり誰もいない。
「だから協力してほしい」
近くに置いてあったイヤホンを手に取り、耳に付ける。
だが、効果はなかったようだ。
「世界を救うために。そしてこれはあなたにしかできないことなの」
怖くなって耳を塞ぐ。
「世界を救うために」
一拍置いてから、その謎の声は告げた。
「私を殺して」
僕の身体が徐々に重くなる。
体調が悪いわけじゃない。物理的に重くなった。
寝転がっている俺の上に、白髪の女が座っていた。
===
僕はビックリしすぎて壁に頭を打つ。
「イッタ...」
「落ち着いて」
女が心配そうな声で僕に言う。
「落ち着くも誰もお前誰なんだよ。一体どうやって急に僕の上に」
「一回落ち着いて。そして私の話を聞いてほしいの」
「お前の話を聞く前にまず俺の話を聞いてくれよ。なんで急に僕の上に」
女は少し考えるような仕草をしてから、何かを思いついたように言った。
「私、神なの。要するに女神なの」
僕を見つめる黒い瞳は至って真剣そうだ。
女がぐっど顔を近づけてくる。長い白いまつ毛が触れそうなぐらいに近い。
不意にドキドキしてしまったのか、心臓の鼓動が早くなる。
いや、おそらく別の意味でドキドキしているのだろう。
僕は必死に馬乗りになられている状況から抜け出そうと必死に暴れるが、この状況から脱出できそうにない。
そして僕は方針を切り替える。
「お願いします。命だけは勘弁してください」
命乞いだ。今僕の表情はどうなっているのだろうか。多分すげぇ泣きそうな顔をしていることだろう。
「殺すなんてしないよ。むしろ殺してほしんだ」
その時女は、また何かを思いついたような顔をした。
そしてその瞬間、女が消えていく。言葉の通り消えていく。俺の身体は徐々に軽くなる。
そして透明になった。
僕は訳が分からなさ過ぎて驚きのあまり口が開いたままになる。
そしてまた身体が重くなった。
それと同時にまたその女が現れた。
「どう?信じてくれた?」
女は笑った。
===
女は僕の上から降り、僕の勉強机の椅子に腰かけてまた会話が再開する。
僕はベッドに腰かける状態になる。
「急に神とか言われてもわけわかんねぇよ」
「その気持ちも分かるわ。でも私には信じてもらうしかないの」
「まぁ信じるっていうのも難しいけど...でもあんなの見せられちゃったら信じるしかないよな」
「ありがと」
そう言って白髪の女は一回目線を下げてから、そしてもう一回僕に向き直って言った。
「頼みがあるの」
「あんたを殺すってやつか?」
「そう。だからお願い。私を殺して」
「殺すって言ってもなんで僕なんだよ。他に適材なんてたくさん居るんじゃないのか?」
「あなたじゃないといけない理由があるの。でもそれを言うとあなた、混乱すると思うよ」
「じゃあやめときます」
この状況にまず頭が追いつかないぐらい混乱してるのにこれ以上混乱するようなこと言われたらたまったものじゃない。
「それって今やらないといけないのか?」
「四か月以内までならいいけど、今の方が絶対にいい」
「なんでだよ。そんないきなり言われたって決心つかないよ」
「早くやった方がいい。後回しにすると絶対にあなたは後悔する」
「なんでだよ」
「後回しにすればするほど、あなたは辛くなる」
「辛い...辛いかぁ」
言葉を復唱するが、たとえ今後辛くなるとしても、ただの一高校生に今人を殺せというのは酷な話である。
「でも無理だ。さすがに後回しにさせて欲しい」
「そう...分かったわ」
白髪の女は複雑そうな顔をしている。焦っているような、そんなような顔だ。
「あ、そうそう。私もこの家に泊まるから」
「え?」
女は衝撃の言葉を残した。
===
「なんで僕の家に泊まるんだよ?そう...ほら、ホテルとかあるじゃん」
「あっ、言い忘れてたんだけど」
一拍置いてから女は続けて言った。
「私、あなたから五メートル以上離れられないの」
「ん?」
僕の頭にはてなマークが浮かぶ。それが顔に出ていたのだろう。女が先の言葉の説明を付け足す。
「私の力を、君の力で打ち消してるからね」
説明を加えられても、僕には少々理解が難しかったようだ。
===
沈黙の空間が三分ほどに流れてから、女が口を開いた。
「えっと、あなたに質問があるんだけど」
「隼人、角田隼人。それが名前」
「私はアリス、それが私の名前よ」
「で、質問って一体何なんだ?」
「私、どこに寝たらいい?」
そう言われ、僕は普通にベッドでという考えが頭に浮かんだが生憎この部屋にはシングルベッド一つしかない。
布団を引こうにも部屋は物に溢れすぎて布団を引けるスペースがない。
「どうしよ...」
そう、ポツリと言葉が漏れた。
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