お出かけ
次の日になった。
「おはよ」
眠い目を擦りながらそう言ってクローゼットを開けた。
アリスはまだ眠たそうな顔で横になっている。
僕の部屋の床に布団を敷いても良かったのだが、アリスがどうしてもと言うのでアリスの寝床はクローゼットとなった。
「僕今から出かけるんだけど、ついて来る?」
「う~~~ん」
アリスは眠たそうな声を出しながらも起き上がった。
腰まで伸びている白い髪には寝癖が立っている。
着替えの服が無かったのでしょうがなく僕の服を貸したが、なんかぶかぶかだ。
だが、ぶかぶかのおかげで何かゆるキャラ感が出て可愛い。いやマジで可愛い。
愛でたい。元が可愛いおかげでめっちゃ可愛い。
「分かった。用意する」
「ゆっくりでいいよ」
僕はアリスからスマホに視線を移した。
===
僕とアリスは外に出た。
ちらっと横を見る。僕が高校生の平均的な身長で、アリスが女子高校生の身長の平均より少し低めなので、結構身長差があるように思える。
アリスの神は腰の前ほどまで伸びていた。
アリスがこっちを向いて来たので、僕は慌てて目を逸らした。
僕とアリスの間に無言の時間が流れる。
人と比べてもかなり人と話すのが苦手な僕だが、この空間には少々会話を発生させたかった。
なぜか、アリスとは話したい気がした。
何か会話を持ちかけようとするが、なんせ会話の話題がない。
チラッとアリスの方を見てみるが、アリスは俯いたまま僕についてくるばかりだ。
僕は一つ会話の話題を思いつき、話を振る。
「そういえば神様の世界ってどんな感じなの?やっぱ雲の上にあるみたいな感じなの?あらゆる娯楽が揃ってたりするの?」
「上下社会だよ。私みたいなのは上の下働き。つまんない世界だよ」
「へぇ、そうなんだ。なんか夢ないね」
会話が終わってしまった。
これはただ単に僕のコミュニケーション能力不足なのかもしれないが、アリスに会話を続ける気がないような気がする。
凄く、気まずい雰囲気が流れる。アリスが会話を避けている気がする。
何とも言えないような気分だ。
「神様の世界でもなんか楽しいこととかなかったの?」
「う~~ん、そうだね」
アリスは顎に手を添えて考える仕草を取る。
「やっぱ人間の世界を眺めてた時が一番楽しかったかな」
「へぇ、なんで?」
「人間だってドラマとか観て楽しみでしょ?多分それと同じような感覚だよ。遠い世界に思いを馳せる的な?」
「そういうもんなのか」
アリスがなんだか少し饒舌になった気がする。やはり楽しいことを話すとなると舌が回るようになるのは神様も同じなのかな。
そうこうしていると目的の場所に辿り着いた。
僕とアリスは店内に入る。
「騒々しい」
「まぁ、ゲーセンだからな。うるささは付き物だよ」
僕は日課のためにゲーセンへと来ていた。まぁ日課と言っても今日で五日目なのだが。
僕は急いで目的の台へと向かう。
それに着いてくるアリスも早歩きだ。
そして僕が辿り着いたのは一つのクレーンゲームの台だ。
早速台に硬貨を投入する。
目的は白熊のような見た目をした動物のぬいぐるみだ。
大ヒットしたアニメのペットだ。その可愛い見た目からか、人気投票では主人公を抜いて一位という快挙だ。
僕のレバーの操作に合わせてクレーンが動き出す。
そしてボタンを押し、クレーンが下がっていくが、僕の予測が外れ、クレーンは空を切った。
後ろを見るとアリスが目を輝かせて台を見つめていた。
「一回やってみるか?」
そう聞くと、アリスは慌てて目を逸らした。
「いや、別にいいよ」
アリスはそう言ったものの、チラチラと目を上げて台を見ている。
僕はアリスの後ろに回り込み、アリスの背中を押して無理やりレバーを持たせる。
「ほら、一回やってみなって」
僕にそう言われると、アリスは戸惑ったような顔をしながらもレバーを操作し始めた。
レバーの動きに合わせてクレーンが動き、ボタンを押すとクレーンが下がり始めてそしてそのクレームはぬいぐるみを掴み、そして持ち上げる。
そしてそのままぬいぐるみは、取り出し口に落ちた。
「えっ、やば。すご」
思わず驚きの声が漏れた。
僕が30回以上チャレンジして一度も成功しなかったのに、まさかの一発成功だ。
アリスはしゃがんで、取り出し口からぬいぐるみを取り出し、僕に渡そうとする。
僕はその行動に対して手を振る。
「上げるよ。それ」
そう言うとアリスは一度ぬいぐるみに視線を移してからもう一度僕を見て、
「いや、やっぱいいよ。お金払ったの隼人だし。申し訳ないよ」
「でも取ったのアリスだから。いいよ」
そう言うと、アリスはにこやかに笑って言った。
「ありがと」
その目はキラキラ輝いている。
流石にその目をしている人からそれをもらうことは出来なかった。
ぎゅっとアリスはぬいぐるみを抱きしめた。
人間の僕が言うのはおこがましいかもしれないが。
神様は、超かわいい。
===
用が済んだので帰宅しようとしたのだが、チラッとアリスを見てみると、目を輝かせて店内を眺めていた。
「ちょっと遊んでくか?」
そう聞くと、アリスは少し迷う素振りを見せたが、結局こくりと小さくうなずいた。
まず僕たちがやってきたのは、格闘ゲーの台だ。
僕が二つの台に硬貨を入れると、画面がオープニング画面からキャラ選択画面へと切り替わった。
「ほら。座って座って」
その僕の言葉に従ってアリスは椅子に座る。
そして僕も隣の台の椅子にへと腰を下ろした。
どちらともキャラを選択を終え、ゲームがスタートした。
レバーとボタンをカチャカチャと鳴らし、スキルを連発する。
ちなみにこのゲームは初めてである。このスキルを出したいと思ってボタンを押しているのではなく、このボタンを押したらなんかスキルが出てきたと言った方が正しいだろう。
だが何とかノーダメでアリスのHPを半分まで削ることに成功した。
チラッと隣を見てみると、アリスは今まで見たことのないような真剣な眼差しで操作している。
集中しているのか、だんだんと顔が画面に近づいていき、白いキレイな肌がネオン色に光っている画面の光を反射しているかのようだった。
よそ見をしてたせいでアリスのキャラに懐へ入られ、スキルを連発される。
「やば」
僕もやっと覚えたスキルを連発して間合いを取った。
そして最終的には、僅差で僕が勝利を収めた。
隣を見るとアリスがこちらを向いて、無言で人差し指を立てている。
「しょうがないなぁ」
もう一回硬貨を入れると、ゲームがスタートした。
結果としては、アリスの圧勝だった。
神様の上達スピード、恐るべし。
アリスは、ニヤニヤと嬉しそうに笑っていた。
そんな顔を見ると、僕の頬も自然と緩んだ。
===
小一時間ほど遊んでから、僕たちは帰路に着くことにした。
俯きながらアリスがぼそっと呟くかのように言った。
「あの...今日はありがと」
「こっちこそ付き合ってくれてありがと」
会話が終わって沈黙の時間が流れる。
そしてまたぼそりと呟くような声が聞こえた。
「こっちのほうが礼を言わなくちゃ。今日はその...楽しかったから」
「僕も久しぶりに人と遊べて楽しかった」
「一応...女神なんだけど...」
「ハハッ、確かにそうだったな」
そして僕はさっきまでの出来事を思い出す。
「神様でも、楽しそうにゲームするんだな。なんかビックリ」
僕がそう言うと、アリスは真っ白な頬を赤くさせながら恥ずかしそうに言った。
「神の世界じゃ、あんな楽しいこと出来なかったから。見てるだけだったから」
「だからあんなに目輝かせてたんだな。ビックリした。5歳ぐらいの甥っ子と同じ目してたぜ」
「う、うるさい!しょうがないでしょ...」
より一層頬が赤くなった。
「まぁ、せっかくここに来たんだから楽しくいこうぜ」
そう言うと、アリスは不安げな雰囲気を顔に出す。
だがお構いなしに言葉を続ける。
「四か月、一緒にな」
そう言って笑った。
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