ごはん 

僕たち二人はひどく悩んでいた。


いや、アリスはあんまり悩んでなさそうなので正確に言えば僕一人かもしれない。

僕たち二人はベッドの上で議題について頭を悩ませる。

議題はそう。


「家族にアリスのことどう説明すればいいんだよ...」


そうだ。アリスが一緒に住むとなると流石にいつかはアリスの存在がバレる。

親に女神が突然現れて、一緒に住むことになったからよろしくとは流石に言えない。最悪アリスが警察に連行されて終わりだ。


頭を悩ませる僕とは対照的にアリスは楽観視しているようだ。


「私を殺せば、解決」


さっきからアリスはそうとしか言わない。確かにそうだ。そうなのだが...


「それはごめんだけど無理、まだ覚悟も何も決まらないよ」


「そう...」


アリスの顔に悲しさが落ちる。

殺す勇気はまだ湧かない。しかも...


僕の頭に浮かぶのは昨日のアリスの姿だ。

何もかもが楽しそうに見えて目を輝かせるアリス。

四か月の間、この世界を楽しんで欲しかった。


そこで僕の頭に一つの名案が思い付く。


「透明で居たらバレないじゃん!」


僕がそう言うと、アリスは申し訳なさそうな顔をしながら僕の案を否定する。


「あれ...体力消費激しすぎて、一日合計で3時間しか持たないんだ」


「三時間越えちゃったらどうなるんだ?」


「ちょっと世界中で地震が起きるぐらい」


「ちょっとで済むレベルじゃなくね?」


普通に大災害である。


だが三時間持つという言葉を聞いて僕は安心する。


「大丈夫だよ。親にバレそうな時だけそれ発動すればいいんだから」


「確かに...」


アリスは納得したような顔を見せた。


===


「そういえばさ」


僕は自分の勉強机の椅子に座ってぐるぐる回りながら尋ねる。

ちなみにアリスは仰向けで僕のベッドに座って足をバタバタさせていた。


「神様って食事取らなくても大丈夫なの?」


「取らなくても大丈夫。神様の世界でも取ったことないよ」


「へぇ、そうなんだ。じゃあ味覚はあるの?」


「味は感じ取れるけど、そもそも食事をする習慣がないから...神様の世界じゃそもそも私みたいな低い位の神じゃそもそも食べ物すら見たことないよ」


「大変な世界だな」


そう聞いて一つの案が浮かんだ。

次に遊びに行く場所だ。


「よし、出かけないか?」


そう言われるとアリスはベッドから降りた。


「まぁ、ついていくしかないけど」


そうして僕たちは家を出た。


===


向かう先は家から徒歩十五分ぐらいで着くハンバーガーチェーン店だ。

神様の舌に合うかは分からないが、まぁ多分合うだろう。感覚人間に近そうだし。


雲一つない明るい空の下を二人で歩き、目的の店にへと到着した。


店内にへと入り、アリスにメニュー表を見せる。


「どれにする?」


そう言うとアリスは首を振った。


「私は食べなくても大丈夫だから」


そう言うアリスに僕は手を合わせてお願いする。


「一回、一回だけでいいから食べてみて?」


アリスは迷う素振りを見せながらも


「分かった...」


最終的には了承してくれた。


「まじで!?ありがと」


「私はこれにしようかな」


そう言ってアリスは指差したのは、チーズバーガーだ。

僕もチーズバーガーにすることにし、タブレットで注文を完了した。



それとほぼ同時に後ろからカランカランと入店を知らせる鈴の音が鳴った。

後ろを見てみると、そこには見慣れた顔たちがあった。

入店してきた人物たちの内の一人が僕たちに気づいたようでこちらの席にへと歩いてい来る。


「よっ!久しぶり隼人」


手を挙げて声をかけられる。


「うん、久しぶり駿介君」


僕も手を挙げて返事をする。

その時、僕の前に座っている見知らぬ顔をに興味を持ったのか、じろじろ見つめてから言う。


「その子、隼人の彼女?」


「ハハッ、違うよ。ただの友達」


そう言って誤魔化す。流石に家に居候している女神様だとは言えないからな。


「...こんにちは」


アリスが軽くお辞儀をする。


「じゃ、俺そろそろ行くわ。友達待たせてるし」


「じゃあな~」


駿介は手を振りながら去っていった。


「お友達?」


珍しくアリスは駿介たちが着席した席を見つめながら問いかけてくる。


「う~ん。友達かぁ」


僕は考える。友達の定義もあいまいなので、友達と言えば友達なのかもしれないが、僕のイメージでいえば友達というより、元クラスメートという感じだ。


そもそも僕の考えでいう友達は三人ぐらいしかいない。それぐらい僕の交友関係は狭いのだ。


「友達と言えば友達だし、友達じゃないと言えば友達じゃないかも」


「なるほど」


アリスの視線がメニュー表にへと移った。


少しの間、沈黙の時間が流れる。


先に口を開いたのは、またも珍しくアリスだった。


「私は隼人にとってなんなの?」


アリスがこっちを見つめてくる。

なんだそんな彼女が彼氏にするような質問は。


「う~~ん」


顎に手を当てて考える。友達...といえば友達とも言える。

神と信者...ではないな。そもそも僕は元々無神論者である。まぁアリスが現れたせいで神が居ないというのは否定されたわけだが。

適切な言葉を脳の中から抽出する。


「同居人かな?」


「同居人?」


「うん、同居人。一緒に住んでるし、間違ってないでしょ」


「うん。まぁそうだね」


その時、店員が僕たちが頼んだハンバーガーを乗せたトレーを持ってきた。


「こちら、ご注文の品になります」


丁寧な動作で机の上にトレーを二つ置き、お辞儀をして去っていった。


最初は興味無さそうな感じを出していたアリスだが、チーズバーガーを見ているその瞳は、ランランと輝いている。


「いただきまーす」


僕はチーズバーガーにかぶりつく。


「ウマ」


「....いただきます」


アリスは小さく一口、チーズバーガーにかぶりついた。


「ンフッ」


アリスから変な笑い声が漏れた。

その顔には笑顔が浮かんでいて、口の左側にはチーズバーガーのソースが付いていた。


「あー口にソース付いている」


トレーの上に乗っている紙ナプキンをアリスに手渡す。

アリスは恥ずかしそうにしながら紙ナプキンを受けとって右の口回りを拭いてトレーの上に置いた。

でも残念ながらソースが付いているのは左側である。ソースは何一つ取れてない。

トレーに置かれた紙ナプキンを見てみると、何一つ汚れていなかった。


「左側についてるから、まったく取れてないから」


そう言われると、アリスは慌ててもう一度、今度はちゃんと左側を拭いた。

きちんと紙ナプキンにもソースの汚れが付いている。


恥ずかしかったのか、アリスの耳は赤だ。


もう一度、アリスはハンバーガーを口に運ぶ。

そしてハンバーガーを噛む度に口回りにソースの汚れる。

ただそんなことを気にする素振りすら見せず、アリスは勢いよくハンバーガーを食べていく。


あっという間にハンバーガーがアリスの胃の中に消えていった。

アリスの視線は僕の持っているハンバーガーに釘付けだ。


「もう一個食べる?」


「うん!」


聞いたのと同時に返事が飛んできた。

もう一度ハンバーガーをタブレットで注文する。


「それにしても凄い食べっぷりだね」


「そ、そう?」


アリスは俯いてしまった。耳はまたしても真っ赤である。


「神の世界じゃ食べ物なんて食べたことなかったから」


「思ったよりおいしかった?」


「う~~ん、思ったよりもっていうか新世界って感じ!今まで味わったことのない感覚だから」


そうこう話していると、二つ目のハンバーガーが運ばれてきた。

アリスの目がランランと輝いた。


二つ目もまた、光のような速さで意に吸い込まれた。


「もう一個食べる?」


「うん!」


僕は財布のことを考えながらもう一度ハンバーガーを注文した。


===


帰路に着いても、太陽はサンサンと照っていた。

アリスはあの調子で行くと何個でも食べそうな勢いだったが、そろそろ財布に入っているお金じゃ払えなくなるあたりで勘弁してもらった。


「ご、ごめんね...いっぱい食べちゃって。お金も有限なのに」


「全然大丈夫だよ。アリスの食べっぷり見てて気持ちよかったし。

初めて見たよ。あんなに美味しそうに食べる人」


「はは、ありがと」


アリスの耳が真っ赤である。今日何回見たか分からない。

だが、耳を真っ赤にして照れている顔をしているアリスが、愛おしく見えた。











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