家
「僕のキャラ死んじゃう。コンボ繋がりすぎじゃない?初めてだよね」
僕とアリスは二人でコントローラーをガチャガチャさせてビデオゲームをしていた。
やっているのは家庭向けの格闘ゲームだ。ゲームセンターにあった格闘ゲームの家庭用ハードソフト版だ。
流石に今日初めてしたアリスには負けないだろうと高を括っていたが、一戦目にしてピンチである。
僕の操作しているキャラがアリスの操作しているキャラに背中を見せてステージの端まで逃げる。
アリスのキャラはこれを好機と見て僕のキャラに一気に距離を詰めてくる。
そしてアリスのキャラが背中を見せている僕のキャラに向けて技を撃とうとした瞬間、僕のキャラが必殺技をアリスのキャラに向けて放つ。
これがアリスのキャラにクリーンヒット。
アリスのキャラのHPゲージがゼロになった。
気持ちよく作戦がハマリ、思わず笑みがこぼれながらアリスの方を見ると、頬をぷくっと膨らませてこちらを睨んでいる。
「もう一回!もう一回!」
人差し指を立てながら抗議してくる。
僕は再戦のボタンを押した。
「僕に勝つには十年早かったね」
「もう一回!もう一回!次こそはいける気がするの」
「しょうがないなぁ」
ゲームがもう一度始まった。
「やっと勝てたぁ」
アリスは満足そうにコントローラーを床に置いて大の字に寝転がった。
そんなアリスに対して僕は先ほどのアリスと同じ行動をする。
人差し指を立ててアリスに再戦を申し込む。
「もう一回いこ!もう一回。次は勝つ!」
「しょうがないなぁ」
アリスは座り直してコントローラーを握る。
===
「やっぱ協力すべきだよな。対戦なんてそんな物騒なことは良くないよ」
今僕とアリスがやっているゲームは二人協力が可能な協力ゲーだ。
さっきまでやっていた格闘ゲームはあの後から負け続けた、僕の心が折れたところで終わりとなった。
協力ゲーなら僕の心がへし折られることもないし、なんと精神的に優しいことだろうか。
===
精神的に優しい...そんなことはなかった。
僕とアリスは床にコントローラーを放って寝転がっていた。
ラスボスが強すぎたのだ。
体力の半分も削れず、もう何回トライしたか分からない。
「ああ、大攻撃が来る...避けなきゃ...避けなきゃ」
アリスに至っては目を瞑っているのにも関わらず、ボスの攻撃に怯えながらぶるぶる震えている。
きっと閉じられている瞼の中ではボスとの激闘が映し出されているのだろう。
「一旦休憩しよう。精神的にこのままだと僕らはボスに殺されちゃう」
「なんであんなアホみたいな恰好のボスに...ああ大攻撃が...大攻撃が~~」
アリスはまだぶるぶると震えている。
「アリス?だいじょぶ?」
「小攻撃やめて...じわじわ削られちゃう...小攻撃で体力半分削られるのおかしいよ」
「帰ってこ~~~い」
アリスの肩をぶんぶんと揺する。
「はっ、今までなにを...」
「悪い夢を見てたんだよきっと...な?」
「そ、そうだよね。悪い夢に決まってる」
そう言ってアリスは床をゴロゴロと転がりだした。
「え?きゅ、急にどうしたの?」
「こうやってしたら気を紛らわせれるの」
「なんか、独特な方法だね」
「ぐへぇ」
ベッドの脚に激突して、アリスのゴロゴロは終わりを迎えた。
「いたぁ」
アリスは額をさする。
「ふ、ははははは」
思わず笑い声が漏れた。
アリスがじっとした目で僕を睨む。
「そんな睨まないでよ。だってぇww仕方ないじゃんww...ふはははは」
「むぅ」
アリスは口を尖らせた。
「それにしても、アリスって思ってた以上に感情表情豊かだよな」
「え?」
「だってゴロゴロ転がって頭ぶつける人とか、見たことないよ。最初のイメージから想像つかない」
「そ、それは...隠してたから」
「え?なんで?」
「隠さないと後々...大変になるから」
アリスは俯いて少し、悲しそうな表情をする。
そんなアリスの態度とは反対に、僕は嬉しい気持ちだった。
「つまり、やっと僕に素を見せてくれたってこと?」
「え?」
アリスが顔をあげる。
「素が見れて、嬉しいよ」
僕は笑う。アリスはまた俯いてしまった。
素を見せてくれたってことは、それだけ心の距離が近づいたってことだ。
今まであった心の壁が、だんだんと無くなってきているように感じる。
素を見せてくれたってことは、アリスが今の状況を楽しんでるってことだ。
それが、嬉しい。
「よっしゃぁ。今度こそあのボスにリベンジを果たすか!」
僕はコントローラーを握る。
「な?」
「う、うん」
アリスも慌てたようにコントローラーを握った。
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