最後の五日間 1
「うん、私も好き」
アリスは恥ずかしそうに言う。
その言葉は、僕の心を躍らせた。
===
だが、アリスはまだ暗かった。
戻れると言っても、災害を起こしてしまったという事実は変わらない。全てが戻るとしても、心に来るものがあるだろう。
そして、この世界に居れる時間も短くなり、そしてこんなことになってしまったという事実が、アリスを苦しめているのだろう。
だから、アリスは駅から暗いのだろう。
そりゃそうだ。僕だって心に来るものがあるし、気分が暗くなる。
「なぁ、アリス」
「ん、なに?」
「一緒にゲームしようぜ、僕の再戦受けてくれよ」
「そんな気分じゃな...」
「最後の五日が、こんな悲しい気分のまま終わるなんて嫌だよ」
アリスがたじろぐ。そして小さく口を開いて言う。
「分かった。またボコボコにするよ」
僕のことを他人の気持ちを考えられないと言う人も居るかもしれない。
だが、アリスとの記憶を楽しい記憶で埋めたかった。
最後の五日間を。
約一か月ぐらい早まってしまった残りの時間は、濃い時間を過ごしたかった。
「楽しく行こうぜ。ラスト五日間」
===
「痛い痛い。ちょっとコンボやめて死んじゃう死んじゃう」
僕のそんな言葉を無視して、アリスはコンボを続ける。
そして僕のキャラはあっさりと地面に伏してしまった。
コンボに関する知識をインプットしてないはずなのに、自らコンボを発明して実践してしまうという恐ろしい天才肌である。
「ふぅ~、ちょっと疲れたから休憩~」
そう言って床に仰向けで寝転がった。
アリスも僕と同じように、横で寝転がった。
「どこか行きたいところってあったりする?」
そう言うとアリスは天井を見ながらん~と声を出しながら悩む。
「私はどこでもいいよ」
「う~~ん、そうだなぁ」
いろいろと案は出るが、ここだ!というところは思いつかない。
「散歩にでも行かないか?」
「散歩?」
「うん、歩いてれば面白そうなところの一個や二個ぐらい見つかるだろ」
そう言って僕は身体を起こす。
アリスも僕に続いて身体を起こした。
「じゃ、行くか!」
===
「ここ懐かしいなぁ」
「懐かしいってほど時間経ってないでしょ」
アリスはそう言って小さく笑う。
僕たちが一番最初に来たのは、アリスと僕が一番最初に訪れた店...そう、ゲームセンターである。
「どうせだし、中でなんかするか」
「うん!」
僕とアリスは手を繋ぎながら店に入った。
店内は流石に前来た時とあんまり内装は変わっていない。
何も思わなかったゲームの機体一つ一つが、最初に出来たアリスとの思い出と考えると、印象深く思える。
「あっ!」
アリスはそう声を上げると、隣のクレーンゲームを指差した。
「色違い出てる!」
アリスが指差したクレーンゲームの中には、一番最初に上げたアリスへのプレゼントのぬいぐるみの色違いが中に入っていた。
アリスの目がだんだんとキラキラと輝き始める。
「欲しい?」
「うん...そりゃ欲しいか欲しくないかで言われたらそりゃ欲しいけど...」
アリスはクレーンゲームを見つめているが、少し遠慮気味にである。
だが、そんなことをお構いなしに僕は袖をまくってクレーンゲームの台にへと向かった。
「ちょっと張り切っちゃうか」
そう言ってクレーンゲームの台に硬貨を投入する。
アームはぬいぐるみの真上に来ると、ゆっくりと落下していく。
そしてアームはきっちりとぬいぐるみを掴むと、ゆっくりと持ち上げていく。
アリスは期待の表情で台を見つめていた。
そしてぬいぐるみは見事に、台の穴にへと落下した。
僕は屈み、ぬいぐるみを回収する。
そしてアリスにへと手渡した。
「ほら」
アリスは僕からぬいぐるみを受け取ると、一度ぬいぐるみを見つめてから、僕の顔を見つめてニコリと微笑んで「ありがと」と言った。
僕も「うん」と返事をする。
「じゃあ次はあれするか!」
僕が次に指差したのは、格闘ゲームの台である。
「うん!」
アリスは返事をして、腕まくりをして言う。
「絶対負けないから」
===
「完敗です」
僕はアリスにそう言った。六回ほど対戦したが、一勝もできず、全敗である。アリスの才能、恐るべし。
その後も僕たちはゲームセンターを探索した。
協力ゲームで一緒にボスを倒したり、シューティングゲームで一緒にゾンビを倒したり、そして僕はふと心の中で思う。
こんな日々が終わってしまうなんて、残酷だな。と
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