別々3

暗い雰囲気のまま、僕たちは家に着いた。

会話は少なかった。僕が謝るか、アリスが謝るか。それが会話の五割を占めた。


そんな雰囲気を打開したくて、明るい話題を振ったがアリスは返事を返さなかった。

家に帰ったら何しようかとか、ハンバーガー食べに行こうとか、格闘ゲームの再戦しようとかそんなアリスと僕の今までの日常の話題。

だが、アリスは一言も返してくれなかった。


そんな雰囲気じゃないことぐらい、分かっていた。

僕たちのせいで、災害が起きてしまったのだ。

僕だっで破裂しそうなくらいに胸が苦しいのに、アリスはそれの比じゃないのだろう。


僕たちは、笑える立場じゃないのだ。

アリスは僕の部屋に入るなり、口を開いた。


「私を殺して」


「え?」


「だから、私を殺して欲しいの」


「それは...」


そして僕は一拍置いて言う。


「それは...まだできない」


「でも、そうじゃないとまた被害が広がっちゃう。それは嫌だ」


「でも、そうしたらアリスが死んじゃうじゃないか」


「私はそもそも後一か月後には死なないといけない運命なの」


アリスの言葉に息が詰まる。

そうだ、そもそも僕は後一か月後には必ずアリスを殺さなくてはならないのだ。


「でも、僕にはまだ...覚悟がつかないよ」


そう言うと、アリスは少し間を置いてから僕に告げる。


「私ね、時間を操る神の弟子なの」


急に何の話かと思いビックリする。だが、そんな僕の態度を気にすることなく、アリスは言葉を続ける。


「まだまだ未熟だけどね」


僕は何を言えばいいか分からず、黙ったままだ。


「でも、この世界の時間を四か月戻すことぐらいは、できる」


「じゃあ問題ないじゃないか」


安心する。つまり時が戻ってしまえば、地震は発生しないことになるのだ。


「でも、四か月も戻すとなると、代償が発生するの」


「代償って?」


「一人、神に近い力を持つ人間を生贄にすること」


その言葉の真意は、僕にも読み取れた。

つまり、生贄に捧げられる人は、僕だ。


僕に親しい友人は居ない。親とも今となっては疎遠だ。

だが、この世から離れるのには抵抗がある。


「だけど、百日ぐらいなら私が犠牲になるだけで済む...まぁ私は元々犠牲になる運命だけどね 」


「じゃあ何も気に病むことないじゃないか」


「でも、これ以上この世界に影響を与えてしまったら、時間を戻しても、影響が残るかもしれないの」


「もう離れない。そうしたらまだ一緒に居れるじゃないか」


「でも、時間を戻す代償として、いや、当然と言えば当然なんだけど...私と関わった人の中での記憶で私の存在はなくなる。つまり私はみんなの記憶から居なくなっちゃうの」


アリスは下を向いた。


「隼人の記憶に、私が...残らなくなっちゃう」


ぽたぽたとアリスの手の甲に水滴が落ちる。それはアリスの涙だろう。


「でも今なら...今なら隼人の記憶にだけ私の記憶を残すことを出来るの...隼人には私を覚えてて欲しい...」


「僕は...僕は」


僕は次の言葉を探す。僕としてはまだ一緒にアリスと居たい。一緒に遊びたい。


「アリスともっと居たい。期間を延ばすことは出来ないのか?」


「五日なら出来る。出来るけど...隼人の記憶に私を残す代わりに、隼人は死んだあと...神になる」


その言葉があまりにも現実離れしすぎて、一瞬脳がフリーズする?


「それってあれか?つまり僕が神になるってことか?」


「うん、そういうこと」


「じゃあ神にだって何にだってなるよ」


僕は自分の気持ちをそのまま告げる。

だが、アリスは首を振った。


「神の生活は、そんな生易しい生活じゃないよ。上の位の神様に気を使って、一生仕える。そんな生活が300年、500年、1000年だって続くことがある。


「それを聞いても、僕の思いは変わらない。僕は神様にだって何にだってなるよ。アリスと長く暮らすためなら」


「なんでそんなに私のことを...」


僕は心の奥に秘めていた胸の内を明かす。


「アリスのことが好きなんだ」


そして一拍置いてもう一言告げる。


「だから僕と、残りの五日を過ごしてください」


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