海2

アリスと共に砂浜に寝転がる。


正確には寝転がっているのは僕だけだが。

アリスは起き上がり、僕の腕を引っ張って海を指差す。

何も言っていないが、たぶん早く海に入りたいのであろう。


逆に僕は後ちょっとだけは勘弁してほしい気持ちだった。

鼻に思いっきり海水が入り、喉まで行って胃に入る感覚。

これほど気持ち悪い感覚は日常生活では結構少ない。

しかも大量である。


そもそも、僕は泳げないんだった。

そのことをすっかり忘れていた。


「アリスって泳げるの?」


「うん」


「なんで?だって海とか行ったことないんでしょ?」


「見たら大体できるから」


なるほど、天才タイプである。流石神様。


「僕は泳げないからなぁ...ここから見てるよ」


「でも...五メートル以上離れられないから一緒に泳ごうよ」


アリスは濡れた前髪を後ろに手でどかしながらぐいぐいと引っ張ってくる。

ここまで押しが強いアリスは初めてな気がする。


「しゃーないなぁ」


泳げないが、もしかしたらどうにかなるだろう。そんな思いで僕も起き上がる。


見たらできる。僕にもそんな才能があることを信じて海に飛び込んだ。

アリスがこんなにしたそうにすることもなかなか無いし、叶えてやりたい。


「よっしゃひと泳ぎするか!」


===


「足着かない!ムリムリやっぱ泳げない」


「泳げるよ~~~。ほらこうやって」


アリスは背泳ぎのような感じで僕の手を引っ張る。

その顔は満面の笑みが浮かんでいる。


「ほらこう...浮くような感じでさ」


「もっと分かりやすくして!お願い!」


「大丈夫任せて、私が居るから」


初めて泳ぐ人に泳ぎ方を乞うという人生で初めての体験だ。

だが、不思議と安心感があった。


「フフッ、ハハハハ」


アリスから笑い声が漏れる。


「楽しい?」


「うん。とっても」


「そりゃ良かっ...ゲホッゲホ」


喉の中に海水が流れ込んでくる。

アリスが僕の肩のしたに腕を入れて泳ぐ。まるでラッコが貝を持って泳ぐように。

僕を抱えているにも関わらず、すいすいと進んで行く。


「凄いね。ほんとに何でもできるんじゃない?」


そう言うとアリスはフフッと笑った後


「そう褒められたら、なんでも出来るような気がしてくるかも」


と少し恥ずかしそうな表情をしながらアリスは言った。

上を向くと、雲一つない空が広がっていて、太陽が眩しい。


その時、あることに気づいた。


「あれ?アリス...浮き輪って」


「あ...」


二人で辺りを見渡すと、波に流されて僕たちの後ろに流されていた。

半分ぐらいまでしか空気を入れてないのに、ギリギリ浮いている。


「離れないでよ」


そう言ってアリスはすいすいと泳ぐスピードを上げる。

アリスが泳ぐたびに、浮き輪にへと近づいていく。


そして三十秒ほどしたら、浮き輪を追い越してしまった。


そして僕は浮き輪を手に取った。

そして浮き輪の中に手を通す。


「アリスってもしかして驚異的な身体能力してない?」


「まぁ人と比べたらそうかもね」


「そっか...たしかに女神さまだもんな」


「ハハ、そうだね」


アリスは一瞬だけ悲しい顔をしたが、またすぐに満面の笑みを浮かべた。


===


一旦砂浜まで戻ってきた。あることをするために。


「よ~~しするか!」


僕の足元には海の家で買ったみずみずしいスイカ。

そして僕の前には棒を持ち目隠しをしたアリスが立っていた。

周りに人が居ないおかげで広々と出来る。


「右右、もうちょっと右に回って」


「ウソ!?私の感覚だったらもうちょっと左なんだけど」


「ホントだよホント、信じて信じて」


僕がそう言うと、アリスはしぶしぶ右に回った。


「もうちょっともうちょっと、そうそうそこらへん」


「いける?」


「うん、いけるいける。ベストポジション」


僕がそう言うと、アリスは思いっきり棒を振ったが、その棒は空を切った。


「あれ!?」


アリスは左目だけ目隠しを外すと、驚きの声を上げた。


「ない...ない!?」


アリスは僕をちらっと見た。うらめしげに。

その時、僕は砂浜に座って笑っていた。


「ハハハハハッッッ」


漫画とかで一回見たことがあるシチュエーション。一回やってみたかったシチュエーションである。個人的に海といえばこれだ。海と言えばスイカ割りである。


「ん」


アリスはしぶしぶ僕に目隠しと棒を渡してくる。

僕はアリスと同じように目隠しをして棒を持った。


そして適当な位置に立つ。


ブンブンと棒を素振りする。

まあ上段で素振りしているからこのままじゃスイカには当たらないが。


棒を砂浜に突いてぐるぐるバッドと同じようにアリスにストップと言われるまで回る。


「ストップ」


僕はよろよろしながら立ち上がる。



「右右、もうちょっと右」


とアリスが僕に指示を出す。

だが、先ほど僕が騙したことを考えに入れると、アリスは反対方向に指示を出している可能性が高い。


つまり回るべきは左である。


「右だよ?右」


そんなアリスの言葉を無視して、僕は左に回る。

細かい方向は分からないが、恐らくここらへんな気がする。


「おりゃっ!」


だが、僕が思いっきり振った棒は空を切った。


「あれ?」


とさっきのアリスと同じ言葉を呟きながら僕は左目の目隠しをどけた。

前を見渡すが、スイカは無かった。

首を後ろに回転させると、そこにスイカはあった。


アリスの方を見ると、右手で口を押さえながらくすくすと僕の方を見ながら笑っていた。


「フフッ、すると思った」


「あれ?ホントのこと言ってたのか。絶対騙してると思ってたのに」


「隼人なら絶対反対方向に回ると思った」


アリスは笑いながら言う。

アリスに僕の性格を見透かされていたっていうことだ。

一本取られたって感じだ。


「はい」


そう言って僕はアリスに取った目隠しと棒をアリスに渡す。


「騙さないよね?」


「僕のオペレーションに間違いなし」


「信用できない...」


アリスはじっと僕を見ながらそう言って、目隠しを着けた。


「右右!!...そうそうそこ!割っちゃえ!」


僕がそう言うと、アリスは思いっきり棒を振るった。

その棒は置いてあったスイカにクリーンヒットし、スイカはきれいに真っ二つに割れた。


それは本当、棒で割ったとは言えないぐらいにきれいにだ。


「やったぁぁ!!!」


アリスの嬉しそうな声が、砂浜に響いた。





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