別々1
今日は、アリスと出会ってちょうど三か月になる日だ。
「ねぇ、これってどこに行ってるの?」
「ちょっと欲しい物があって、行く街の店に売ってるんだ」
外では、騒がしい都会の様子が窓越しに移されていた。
ガタ、ゴトと定期的に車両が揺れる。
僕とアリスは電車に揺られながら出かけていた。
「次は~~~」
車両アナウンスが目指している駅の名前を告げる。
ほどなくして電車は止まり、ドアが開いた。
「ここだよ」
僕とアリスは人混みに紛れながら降りた。
「何かあるの?」
「うん、ちょっと買いたいものがあって」
僕はアリスの手を引っ張りながら迷いなく目的の場所に歩いていく。
はぐれてしまうと連絡も取れない上に、大変なことになるらしいので何があっても手を繋ぐことにした。三か月目にして、初めてである。
アリスの手は思ったよりも冷たかった。
女の子と手を繋いだことがない身なので、何せ手汗がやばい。
アリスが手汗に気づいていないか、気にしていないことを願うばかりである。
「手汗凄いね」
全然気づいてた。
「ご、ごめんね」
慌てて手を放し、服で手を拭く。
そしてもう一度手を繋ぐ。
「ううん、気にしてないよ」
そう言って、アリスがニコリと微笑む。ぱっちりと大きな瞳が閉じられ、うっすらとピンクの唇の両端が僅かに上がる。
そんな一瞬の仕草に、心がドキッとした。
心臓の鼓動が少し早くなる。
それに伴って歩く速度も速くなる。
隣を手を繋いで仲良さそうにしているカップルが通っていった。
これって傍から見たらデートみたいだよな。
そんな思いが脳裏をよぎり、心臓の鼓動がまた少し早くなる。
いやいやいや、相手は神様なんだ。あり得ないあり得ない。
そうこうしていると、目的の場所に着いた。
「何の場所?」
「う~~ん、いろんなものとか売ってるところかな」
僕たちに反応して自動ドアが開き、中の冷房の冷気が外に流れ出す。
少しひんやりするほど、中は冷房が効いていた。
僕は迷いなく、フロアの角にある階段を目指して歩き、階段を登る。
「あったあった」
そして二階のフロアの隅に目的のものを発見した。
「可愛い」
後ろからそんな声が聞こえる。
その言葉に僕は激しくうなずく。
商品を手に取り、レジまで歩き、清算を済ます。
買ったのは、とあるゲームのマスコットキャラクターのぬいぐるみである。
SNSでこの店が入荷したことを知り、はるばる電車に乗ってやってきたのだ。
店から出て、外の熱気を感じた時、ぐ~と、僕の腹から情けのない音が出た。
「ちょっと何か食べてこうか」
「うん」
ここの店ぐらいしか分からないぐらいにはここでの土地勘が無いので、スマホを使って近くのご飯屋さんを調べる。
「何か食べたいのない?」
「う~~ん、私は何でもいいよ」
「う~~ん」
近くのご飯屋さんで検索したが、どこらかしこにもご飯屋さんがあり、優柔不断な性格が影響してか、決めるに決めれなかった。
「う~~ん、選べないから何か食べたいものないの?」
そう聞くと、アリスは手を顎に当てて、上を向いて考え始めた。空は快晴で太陽が熱く僕たちを照らしており、僕は額の汗を拭った。
その時、アリスは「あっ!」と声を上げ、僕の方へ振り返った。
「唐揚げ!唐揚げ食べてみたい!」
===
僕たちは検索した感じ一番近い定食屋さんに来ていた。
僕もアリスも唐揚げ定食である。
「それにしてもなんで唐揚げなんだ?」
「天から見てた時にみんな美味しそうに食べてたから」
「そっか、そういえばアリスはずっと天から見てたのか」
その時、僕は一個の疑問が浮かんだ。
「あれ?そう言えばアリスって何歳なの?」
「レディーに年齢を聞くなんて失礼だよ」
アリスがむすーとし、頬をぷっくらと膨らませながら、こちらを睨みつける。
「ごめんごめん。神様の世界にもそういうのあるんだな」
そう言うと、アリスは少し笑った。
「フフ、ないよ、神の世界には。ちょっと見たことあったから真似してみただけ」
「無いんかい」
二人で笑いあう。
先ほど見せてくれた微笑むとは違う、笑っている顔だ。
口を手で押さえ身体を上下させながら震えている。
そしてこちらを向く。
「何歳に見える?」
アリスはにっこりと微笑みながら聞いてくる。
「それもまた神様の世界から見たことあるの?」
「正解」
僕は上を向き、手を顎に当てて考える。
上は先ほどまでの太陽とは違い、木目調の屋根でLEDライトが点いている。
先ほどまでの暑さと違い、店内のエアコンが聞いていて涼しい。額の汗は乾いてしまった。
そしてじっとアリスの顔を見つめる。
「う~~ん」
見た目的には同い年ぐらいに見える。16や17ぐらいだろうか。
いやでも、神様ってことを加味すると50とか100とか行っててもおかしくないのだろうか。神様が年取るってイメージないもんな。
「ねぇねぇ早く~」
アリスが急かしてくる。
「じゃあ50歳。50歳で!神様だからね」
僕がそう言うと、アリスが明らかに不機嫌そうな顔になる。先ほどみたいな頬ぷっくり膨らませて睨みつけてくるとかじゃない。睨みつけられてるのは一緒だが、雰囲気が明らかに違う。
「あれ?もしかして違った?」
恐る恐る聞いてみると、アリスはぷいっと横を向き、はぁ~と長いため息を吐いた。
「16だよ16歳。なんで50歳に見えるのさ。失礼過ぎない?」
「神様って年とっても見た目変わらないのかなぁって思って」
「確かに年とっても見た目全然変わらないけどさ。ほらこう...雰囲気とかで分かるものじゃない?」
そしてもう一度、アリスははぁ~と長いため息を吐いた。
「なんか落ち込んじゃうなぁ」
そしてアリスは俯いてしまった。
「ごめん。ほらこう...大人っぽい雰囲気を醸し出してたからさ」
僕は必死に弁明となるような言葉を捻りだす。
今回は人間の世界の真似とかじゃなく、ガチで落ち込んでいるような感じだ。
次の弁明の言葉を考えていたその時、店員さんが唐揚げ定食を二つ、僕たちの机の上に置き、伝票を丸い筒に置き、去っていった。
唐揚げ定食に目を落としてから、もう一度アリスの方を見てみると、先ほどまでとは全く違う表情をしていた。
先ほどまでの落ち込んでいる様子は消えており、目をキラキラさせながら唐揚げ定食を見つめていた。
「食べていい?」
早口で僕にそう聞いてくる。このまま止めておけばよだれが溢れだしそうな感じである。
「うん。いいよ」
そう言うと、アリスは勢いよく食べていく。その食べっぷりは圧巻で、見てる側も気持ちが良い。
「これ滅茶苦茶美味しいね!やばいよこれ」
アリスが興奮冷めやらぬ感じで僕に感想を伝える。
「ふふ、良かった」
その食べっぷり僕も唐揚げ定食を食べ始めた。
===
結局アリスはあの後、一気に二つの唐揚げ定食を頼み、一瞬で食い尽くしてしまった。
僕とアリスは手を繋ぎながら、帰路に就いていた。
アリスの足取りはルンルンである。満腹で気分が良いのだろう。
「今度また食べたい」
アリスが上目遣いで見てくる。この顔にこの表情で、そしてこの可愛い声にそう言われ、断れる男は居るのだろうか。と言う感じだ。
「うん。また行こうね」
そう約束した。
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