新たなる人格『真名』
主人格である真名が身体の支配権を手放した。徹の私への愛が信じられないという。
なんて愚かな女なんだろう?
徹が愛してもいない女に手を出すはずがない。
しかし、他人に触れる事が出来ない真名にとっては荷が重かったようだ、後のことは私が引き受けるから、昔の様に引きこもって隅に引っ込んでいればいいのだ。
ましてや、他の徹を愛してもいない副人格たちに徹からの寵愛を一身に浴びる大事な役目を任せるわけにはいかない。
愛される事に浮かれていてもあくまでも冷静に。物事に確認は必要である。
翌日、学校で顔を合わせた瞬間に徹に問いかけた。
「私の事どう思ってるの? ちゃんと好きなの?」
「もちろん、決まってるだろ? 真名が一番好きさ」
「うふふ、そうよね。私も徹が大好きよ」
放課後、そのまま徹の家に押し掛けて可愛がってもらった。
まだ痛みしか感じないけれど、徹の愛はしっかりと感じ取れて女として幸せだった。
一番最後に分裂した私が真名に一番近くて一番の影響力を持っている。真名自ら閉じこもっている現状では私が『真名』と言っても過言ではない。
というか、今後は私が『真名』として過ごす。
周りの人たちに私と真名の入れ替わりがバレない様に、怪しまれない様に、徹以外の対人距離は徐々に縮めて行き、対人恐怖症の症状が改善した事にする予定。今のところ順調だ。
真名の近くにずっといただけに、そのまま何もせずに放置しておくと後々面倒になりそうなので幼馴染の舜にはきちんと釘を刺しておいた。
「徹のおかげで男性恐怖症も治ったの。今まで本当にありがとう。でも、徹に浮気を疑われるのも嫌なのでこれから近づかないで欲しいの。勿論、こちらからは一切近付かないので安心してね。朝食の時間もズラすわ」
「――ああ、わかった。徹と仲良くしてくれ」
「勿論よ。じゃあ、舜も早くいい子が見つかるといいわね」
最初は目を白黒させていたけどきちんと納得してくれたようだった。
悪い子ではないけれど押しが弱いのが欠点だと思う。優しいだけでは欲しい物は手に入らないのよ。
幼馴染とはいえ、近寄らせなければ入れ替わりがバレる事は永遠にない。今では私が『真名』なのだから。
あと面倒になりそうなのは真名の副人格たちだ。
普段から真名の隙を狙って、チョロチョロと姿を現していた他の副人格たちが、今までと同様に私が気を抜いた瞬間を狙って出現する事もあり得るのだ。
それはあまりいい傾向ではない。タイミングによっては非常に不味い。
彼女たちは舜が好きなので、自由に動けるようになると舜に接近する可能性が高い。せっかく縁を切ったのに改めて舜に近付かれるのは不味いのだ。
まして、最愛の徹の前で舜の事を話されるのも誤解の種にしかならない。
ここは腹を割って彼女たちと話すしかない。同じ『真名』として――
***
彼女たち『真名』との協議の結果はあっけないものだった。
主人格の真名が殻に閉じこもり身体の支配を手放した事。
私の支配力が絶対的なものである事。
私は徹を愛している事。
私が舜に興味がない事。
そして、彼女たちが大事に思っている舜の将来の事。
それらを総合して、生まれ変わった『真名』が舜に近付かない事、それが一番舜の将来の為になるとの判断だった。
『以後、表に現れない代わりに最後のお別れをさせて欲しい』
それが彼女たちの願いだった。
当然、彼女たちの願いを受け入れてあげた。
自重して二度と舜の前に現れない。その事に対しては、同じ『真名』として思う事がないわけでもない。
それでも私から徹への愛情の方が優っていた。私は徹を愛する為に生まれたのだから当然と言えば当然だ。
徹からの愛が注がれる限り私は存在出来るし、存在していいのだ。
そもそも、身体の主導権はこちらにある。万が一、彼女たちが私の予想外の行動を取ったとしてもきちんと監視さえしていれば、直ぐに彼女たちの意識を追い出して身体の主導権を取り戻せるのだ。何も問題はない――
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