徹 ―こんなはずでは―
真名の様子が変だ。対人恐怖症だったはずなのに真名の方から俺の体に触ってくるようになった。
嘘のようにスッキリと治ったという。俺以外の人間はまだ苦手だけれども俺相手には全く問題ないという。
嬉しいような誇らしいような気持ちになるが、そんなものなのだろうか?
***
初めて事に及んだ翌日、顔を合わせると真名は突然、妙な事を言い出した。
「私の事どう思ってるの? ちゃんと好きなの?」
「もちろん、決まってるだろ? 真名が一番好きさ」
「うふふ、そうよね。私も徹が大好きよ」
少し強引に迫ったので気分を損ねていても仕方ないと思っていたが、かなり上機嫌の様子。
昨日までは確かに徹くんと呼んでいた。男女の仲になり突然呼び方を変える女は過去に付き合った中にも何人かはいたが、何より唇に赤いリップをつけて妖艶に微笑む姿には驚かされた。
制服の着こなしも一晩で見違えるように改善されている。別人と言ってもいいぐらいに野暮ったさが消えて、艶やかに花開いた女に変わっていた。
そして、昨日までは手を繋ぐのですら顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしていた真名の方から腕を絡めてくると俺に体を預けてきた。
「人目があるから嫌かしら? 私は気にしないわよ。だって幸せだもの」
「俺だって幸せだよ。人目なんて気にしても仕方ないさ」
「うふふ、さすがは徹ね。それとね、今日は徹の部屋に行きたいわ。今日も愛してくれるんでしょう? 可愛がってね」
「少し遠いけど大丈夫かな?」
「大丈夫よ! だって徹が守ってくれるんでしょう? 何があっても守ってくれるって信じているわよ」
「もちろん、当然だろ! 俺を誰だと思ってるんだ」
昨日の嫌がる様子は演技だったのか?
それともハマったのか?
どちらにしろ気に入ってくれたのなら幸いだ。
放課後、真名を俺の家に連れ込んで時間の許す限り可愛がった。
***
「舜の事は口に出さないでくれる? 私たち二人の邪魔になりそうだから、きちんとお話しして縁切りしたの」
ふふふと笑う真名の目は笑っていなかった。本気で幼馴染の舜を切り捨てたようだ。俺も真名の為に舜の親友のポジションを捨てなければならない。
「分かったよ。今まで真名を守ってくれた事には感謝するけど、これからは俺が代わりに真名を守る。舜はお役御免だ!」
「しっかりと守ってね、徹。あなたに捨てられたら生きていけないもの、私」
「ああ、安心しろ!」
「さすが徹だわ。ふふふ」
二人で組んでいる腕に真名の柔らかい胸がグイグイと押し付けられた。耳元で吐息のような囁きと妖艶な唇が俺を誘う。
俺の健全な男の部分が反応した。
「あら、私で欲情したのかしら?」
「仕方ないだろ? 真名は嫌なのか?」
「あら? 私が嫌がってるように見えて? 私はあなたのものよ。徹の好きにしていいのよ。ただ――」
一度言葉を中断すると、真名の方からむさぶるような口付けをしてきた。
「返品は不可能よ。徹に捨てられたら私生きていけないもの」
「安心しろ、俺が真名を手放すわけがないだろう!」
「私たちは一心同体。私から離れるなんて絶対に許さないんだから――」
***
「徹にしちゃあ、長続きしてる方だよね。今回の彼女さん、そんなに気に入ってるの?」
「まあな」
「ふーん、興味深いなぁ、今度一度会わせてよ。幼馴染のよしみとしてさ」
教室を移動中に久しぶりに出会った幼稚園時代からの腐れ縁の竹本未来に捕まっていた。口が軽いのがたまに傷で、それ以外はさっぱりとした男らしい性格で俺は嫌いではない。
それなのでたまにストレス発散にも付き合ってもらっている関係だ。
「あら、どなた? 徹、紹介してくれるかしら?」
「あ、こんにちは、徹の彼女さん! 今ちょうど話をしていたところなんだ。私は徹の幼馴染の竹本未来、徹が鼻をたらしていた幼稚園時代からの悪友だよ。よろしくね」
「真鍋真名です、よろしく。色々と徹の小さかった頃の事を教えて欲しいわ」
「いいよ、喜んで教えてあげる。まずね、今はこんななりしてるけど小学二年までオネショしてたでしょう。他には――」
廊下の陰から現れた真名は自己紹介を終えると未来と仲良く会話を始めた。ニコニコ微笑みながらほぼ一方的に喋っている未来の話に耳を傾けているがその目の奥は笑っていない。
直接口には出さないが、俺が他の女と喋っているのが気に入らないらしく、そんな時はほぼ同じ状態だ。
なので最近は特に束縛がキツく感じる。
***
「こんな事してて大丈夫?」
「何だよ、いまさら。お前だって気持ちよかったんだろ?」
「まあね。久しぶりだったから。私たち、体の相性だけはいいよね」
「お互いにストレス発散。他に意味はないだろ?」
「それについては異論はない。他の男の子だと束縛がキツそうで――って徹は大丈夫なの? 彼女さん、かなり束縛してくるでしょう? バレたら修羅場に巻き込まれそうで嫌なんですけど。とばっちりはゴメンだよ!」
「やった後に言われてもな。そもそも拒否する気無かっただろ?」
「えへへ、バレてた」
未来との肉体的関係は中二の時に興味本位で始めてから、お互い恋人にふられた後など慰めが必要な時、定期試験後のストレス発散などに行われてきた。
真名の束縛がキツくて他の女の子と遊べない現状では身近なこいつでストレス発散するしかなかった。
「でもさ、今更だけど――彼女さんにうちらの関係バレてると思うよ。女の勘って怖いんだから」
「な、何言ってるんだよ。脅かしたって無駄だからな」
「そうだと良いんだけどね。いずれ徹にもわかるよ」
脱ぎ散らかした服を一つ一つ身にまといながら、未来が意味深な事を言った。
***
「初めまして、真鍋真名です。徹さんとお付き合いさせて頂いてます」
「まあ、可愛らしいお嬢さんね。ゆっくりしていってね」
「徹から彼女を紹介されるなんて珍しいな」
両親に会いたいとせがまれ設けた席で真名が爆弾を落とした。
「今、三ヶ月なんです。もちろん、徹さんとの子供ですよ。産んでもよいのか許可をいただきたいと思いまして。あ、もちろん私は産むつもりですよ」
穏やかにお腹をさする真名の発言に場が凍りついた。
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