『真名』 ―あなたの愛は私のもの―
「私の体で変な事しないかと警戒していたけど、ヘタレなあなたにはやっぱり無理だったようね。まあ、もし変な事してたら無理矢理中断してそれまでだったから命拾いしたわけだけど。もう少しぐらいなら目をつぶっていてあげたのに」
冷たい言葉を舜に投げかけていながらも心の奥底では真名を含む彼女たち別人格に嫉妬していた。
彼女たちは舜から愚直に愛されて大事にされている。はたからは馬鹿に見えるほどに。
私も徹から同じように大事に愛されていたのなら今ここに存在したのだろうか?
自己の存在を否定する疑問が頭をよぎる。
あからさまな嫌悪の表情を隠そうとしない舜の部屋から出ると自分の部屋に戻った。
私と『彼女たち』は相反する存在だ。元のように一つに戻る事はできない。
徹を肯定し、徹を愛する事で存在している私が『彼女たち』と再び混ざる事は決してありえない。
『彼女たち』は徹を受け入れれない。だからこそ私たちは分裂したのだ。
隔離しているとはいえ『彼女たち』の消滅がいつになるのかは誰にもわからない。もしかしたら一生掛かっても消えないのかもしれないい。
私たちはお互いの存在を憎んでいるわけでも嫌っているわけでもない、ただ同時に同じ身体の中に存在しえないというだけなのだ。
今の私にできるのは『彼女たち』の
『彼女たち』が移動する事を嫌がるかもしれない――
***
「舜の事は口に出さないでくれる? 私たち二人の邪魔になりそうだから、きちんとお話しして縁切りしたの」
「分かったよ。今まで真名を守ってくれた事には感謝するけど、これからは俺が代わりに真名を守る。舜はお役御免だ!」
「しっかりと守ってね、徹。あなたに捨てられたら生きていけないもの、私」
「ああ、安心しろ!」
「さすが徹だわ。ふふふ」
徹の腕に胸を押し付け、耳元で囁くと徹の大事な部分が反応した。
「あら、私で欲情したのかしら?」
「仕方ないだろ? 真名は嫌なのか?」
「あら? 私が嫌がってるように見えて? 私はあなたのものよ。徹の好きにしていいのよ。ただ――」
徹には立派なパパになって貰わないといけない。
『彼女たち』との話は済んでいる。
アフターピルを飲んでいる事になっているので最近の徹は積極的に避妊していない。そのゴムなしの快楽に徹は狂った猿のようになっていた。
「返品は不可能よ。徹に捨てられたら私生きていけないもの」
「安心しろ、俺が真名を手放すわけがないだろう!」
「私たちは一心同体。私から離れるなんて絶対に許さないんだから――」
***
「徹にしちゃあ、長続きしてる方だよね。今回の彼女さん、そんなに気に入ってるの?」
「まあな」
「ふーん、興味深いなぁ、今度一度会わせてよ。幼馴染のよしみとしてさ」
教室を移動中の徹を探していると、妙に距離感の怪しい女と話している徹を見つけた。
昔からの幼馴染というよりは、すでに男女の関係を済ませた馴れ馴れしい態度に思える。
こちらには気付いてないようなので私から声を掛けた。
「あら、どなた? 徹、紹介してくれるかしら?」
「あ、こんにちは、徹の彼女さん! 今ちょうど話をしていたところなんだ。私は徹の幼馴染の竹本未来、徹が鼻をたらしていた幼稚園時代からの悪友だよ。よろしくね」
「真鍋真名です、よろしく。色々と徹の小さかった頃の事を教えて欲しいわ」
「いいよ、喜んで教えてあげる。まずね、今はこんななりしてるけど小学二年までオネショしてたでしょう。他には――」
こちらから聞いたとはいえ、いきなりマウント大会が始まった。
徹の過去の女関係については気にはならない。気にしても仕方ないから。
私が好きになった徹は過去の全てを含めてなのだから。
ただし、今これからについては違う。まだ他の女と繋がっているようなら適切に対応しなくてはいけない。
未来の話を聞きながら二人の様子を伺うのだった。
***
「免許取り立てなんだから気をつけてね、あなた」
「海まで行くだけなんだから心配いらないさ」
産まれて半年の娘、
高校在学中に妊娠という事で両家でひと騒動あったけれど、結局は出産と婚姻が認められた。
石狩家としては卒業間際に女の子を妊娠させて、捨てるという対外的な醜聞を避けたのかもしれない。
『二、三年して性格の不一致として別れればいいさ。娘なんてまだ愛着湧いてないからあちらに押し付ければいいしね』
徹のスマホに仕込んでいた盗聴アプリから聞こえてきた内容に心臓が止まるかと思った。
『そもそも子供が出来たから結婚しただけで愛しているわけでもないし』
睦言を交わす男女の会話を額面どおりに受け止めるのは無意味だと分かっていても衝撃が心に突き刺さった。
私は徹を愛する為に生まれ、徹からの愛が注がれる限り私は存在出来る。
なら徹からの愛がなくなれば?
「やめろよ、危ないだろ!」
「あら? しばらくご無沙汰してるから我慢できなくなっちゃったの。いいでしょう?」
徹の下半身をまさぐると直ぐに反応してくる。私はシートベルトを外し身軽になると、そのまま徹のジーンズのチャックを下ろした。
「こんなになっちゃってるのに、本当にやめていいの?」
「仕方ないな。あんまり激しくするなよ」
「ふふふ、素直になったわね」
徹の肩から力が抜けた瞬間を見計らってハンドルに飛びつくと思いっきり左に回した。
「な、何をする――」
ガシャン! 激しい衝撃と共に車がガードレールを突き破り崖に飛び出した。下は海。泳げない徹と私は――
春の海の中で、もうすでに暴れる事をやめ大人しくなった徹の頭を優しく引き寄せると抱きしめた。
――いつまでも一緒だよ。死が二人を分つとしてもずっと愛してる。ねえ、そうでしょう、徹?
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