真央 ―最後の別れ―
観覧車が頂上にたどり着く前に真子は眠りについた。よっぽど楽しかったのだろう。気力の続く限り頑張ったのがよくわかる。
電池の切れたおもちゃの様に動きが鈍くなったかと思うと、コテっとシートの上に横になるとそのまま動かなくなり、静かな寝息を立て出した。
「真子は寝ちゃったのか」
事前に決めた順番に従い次は私の番となる。
瞼を開けると舜と視線が合った。ゆっくりと両腕を広げる。
「真央はどうする?」
真子が体力を全部使ってしまったので回復するまでは一人で起き上がることも出来そうにない。
素直に舜に甘える。
「起こして欲しいな」
「はい、どうぞ。丁度いいタイミング。もう少しでてっぺんだよ」
「真子は残念だったね。もう少しだったのに」
「仕方がないよ。あれだけ色んな乗り物を楽しんだんだから。満足してると思うよ」
「そうよね。きっとそうだわ」
対面に座っていた舜の手が私の脇に差し入れられると、ゆっくりと上半身が起こされた。そして舜はそのまま私の身体を支える様に肩に手を回すと私の左隣に腰を下ろした。
観覧車から見下ろす夕映えに染まった街並みはとても美しく、視界の端から少しづつ夜の暗闇に溶けて消えていく。
私たちも真名の中で溶けて消えていく存在だ。それでも見えなくなるだけで、そこには在るのだ。いつか舜にも笑って会える日が来るだろう。
明けない夜はないのだから。
「本当に綺麗ね。私、初めて見たかもしれない」
「見ていると、訳もなく物悲しくなるから僕は苦手だな。どうしてなんだろう?」
「舜にも苦手なものがあったんだね。幼馴染として付き合いは長いけど、意外な一面を発見」
舜の首を傾げる様子がおかしくて笑いが溢れた。
そのまま肩を預けてもたれ掛かる。
「このままずっと時間が止まればいいのに」
「そんな事言ってても実際にゴンドラが止まったら慌てふためく気がするけどね」
「そんな事ないよ。舜とならここで暮らしてもいいくらいだよ」
「それは光栄だね。すっかり外から丸見えな事を忘れてるようだけど、周り中カップルだらけだから溶け込んで、逆に目立たないから問題ないのかな?」
「ふふふ、きちんとカップルに見えているかな?」
「そりゃあ、まあね」
「じゃあ、はい! 寒くなって来たし暖めて欲しいな」
私は空いている右手を広げてハグを要求する。
左手が右脇に差し込まれ、右手が腰に回されるとそのまま引き寄せられ、舜の膝の上に座る形で抱きしめられた。
観覧車が地上に降りるまでの数分の間、無言のまま舜の温もりを精一杯に感じ取る。最後のご褒美――
***
観覧車を最後に帰路についた。途中、ファストフード店で軽い夕食を食べて、少し遅い時間になったけれど、無意識にラッシュの時間帯を避けるのは舜らしいと思う。
同じ家とはいえ我が家玄関までの送迎を受けた後、部屋着に着替えて舜の部屋に押し掛けた。
例え呼んだとしても舜は彼氏のいる女の子の部屋には来ないだろうし、何といっても『真名』によってすっかりと様変わりしてしまった室内を舜には見せたくなかった。
「どうしたの?」
「時間までまだまだ話足りないし、それに――」
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