真名 ―頼りない幼馴染からの卒業―
相変わらずに唐突な事を言い出すところは舜らしい。長い付き合いだと言うくせに、たまに名前を呼び間違える。本当にありえないし、信じられない。
舜の愛しい人かと勘繰って調べてみたけれど『マオ』『マコ』『マホ』『マリ』
言い間違えた名前に該当する女子は舜の交友関係にはいなかった。
そんなおっちょこちょいの所も舜らしいと言えば舜らしいし、もう少し頼り甲斐があってもいいのにと残念に思うのも仕方ない事だ。
第一、舜に好きだと言われたのは小学校に入学する以前で、それ以後に言われた記憶はない。
普段から私に気のあるような素振りを見せた事も無い。
そんな舜の口から私の事が好きだと言うセリフが飛び出したのには本当にビックリした。
嬉しいのか嬉しくないのか、どちらなのかといえば正直なところ嬉しかった。
でもそれはあくまでも幼馴染としてであって、異性としてではない。
一緒に行動して舜の行為に喜びを感じる事はあってもトキメキを感じる事はないのだ。
一方で徹君に前髪を触られるだけで胸がドキドキして止まらなくなる。この胸の高鳴りこそが恋。
「お待たせ!」
「は、はい! 全然待ってません!」
呼びかけと同時に後ろから肩に置かれた徹君の手を感じて心臓が口から飛び出しそうになった。
「そう?よかった! あれ、舜はどうしたの?」
「一人で先に帰りました」
「そっか。別に気を使わなくてもいいのに。じゃあ、帰ろうか」
差し出された手を取り握り返すだけで嬉しさと恥ずかしさで全身が真っ赤に染まる気がした。
「時計、付けてくれてるんだ。嬉しいよ」
「は、はい。当然です」
緊張して受け答えが片言になってしまう。もっと気の利いた台詞があるはずのなのに出てこなくなってしまう。
左腕に誕生日プレゼントに贈られた腕時計をしているのに気付いて貰えたことも嬉しくて仕方がない。
普段使いとして袖に隠して目立たなく出来る腕時計はお気に入りのアイテムだ。
それに比べて長年の付き合いなのに私の好みすら正確に把握していない舜からの誕生日プレゼントは残念の一言。
数を贈ればいいと思っているのか、いつも5種類。恒例の絵本に髪留め、化粧道具にオモチャの指輪、それとミサンガだった。
手首が寂しいと暗に腕時計を要求していたのに蓋を開ければミサンガ。この女心を全く理解していない朴念仁に恋愛は無理だと思う。
腐れ縁ゆえにお互いにいい人が見つからなければ将来は、などと考えた事もあるけれど、残念ながら私には彼氏が出来たのでもう無理だ。舜の今後の健闘を祈っておこう。
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