第22話 こっちを見ないのは
花火が始まる8時前には、さっきよりも人が増えていた。
「少し、離れたところから見るのでもいいですか?人に酔いそうです。」
颯太が言った。
「いいよ。あっちの河原の方まで行ったら少し人が少ないかも。」
「すみません。」
いつになく殊勝な態度。
「これは誰が送ったんですか?」
颯太が自分のスマホを見せて聞いてきた。
莉子が送った「お礼に何でもします」のことだ。
「それ?」
「優衣さんじゃないですよね?」
「何で?」
「優衣さんはこんなことは書かないでしょ。」
颯太は、わたしのことをどんな風に思ってるんだろう…
颯太が思っているわたしと本当のわたしは違うかもしれない。
「思ってたのと違う」かもしれない。
返事をしないでいると、
「わかってて、それに乗っかりましたけど。」
そう言われて、立ち止まってしまう。
颯太は、振り向かなかったけれど、わたしを待っていてくれた。
わたしは颯太を追いかけて言った。
「颯太から見たわたしって…どんな人なの?」
颯太は最初黙っていたけれど、少しして話し始めた。
「びっくりするくらい運動音痴。」
それは、当たってる。
「だから先輩たち、優衣さんの方にボールが飛んで行ったら、試合中でも全力で止めに行ってました。『ほっといたら、あいつはまじで顔でボール受ける』って。」
「嘘…」
「最初は『そんなことありえないだろ?』って信じてなかったんですけど、球技大会の時、顔でボール受ける優衣さんを見て、本当なんだって知りました。」
颯太はバカにする風でもなく、楽しそうに言っていた。
「みんながその辺に置きっぱなしにしてるもの黙って片付けてくれる。」
「それはマネの仕事だから。」
「今のマネはやりません。」
「きれいなスコアを書く。試合見ながらスコア書いてるのすごいって、他校の先生も褒めてました。優衣さんは、選手のことよく見ててくれた。練習中、何も言わないのに、ぶつけたの気が付いて氷を持ってきてくれたり…」
颯太はそれっきりしばらく黙り込んでしまった。
「…自分が…可愛いって自覚が足らない。」
心臓がドクンと鳴った。
「浴衣…似合ってて、困ってます。」
颯太がずっとこっちを見ないのは…
「真っ直ぐ見れません。」
だから、ずっとそっぽ向いてるの?
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