第6話 質問の意味
中央図書館の自習室は、わたしも受験生の時よく利用した。
周りが勉強している姿を見ると、1人でやるよりモチベーションが上がるから。
自習室への階段を登り、自動ドアから中に入ると、何だか張り詰めたような空気が漂っている。
高校3年生の夏はそれだけ大変。
室内を見渡すと、すぐに颯太は見つかった。
近くまで行って小声で名前を呼ぶ。
「颯太。」
颯太がノートから顔を上げてこちらを見た。
「暇だったから寄ってみた。LIME見てないんだね。」
そう言うと、颯太はリュックの中からスマホを取り出して確認した。
「気がつきませんでした。」
「どこかわからないとこある?」
「ないです。」
見ると、颯太が開いているのは通称黒チャートと呼ばれる問題集の、医学部入試数学だった。
これをわからないとこないって、じゃあ教えられることなんて何もない。
「もうちょっと待っててください。キリのいいとこまで終わらせます。」
まるでわたしの方が用があるみたいな言い方…
少しすると、颯太は机に広げていたものをリュックに入れて、
「出ましょう。」
と言った。
自習室を出たので、もう声の大きさを気にしないで済む。
「数学教えて、って言ってたけど、わからないとこなんてないんじゃない?」
「あるかと思ったんですけど、なかったみたいです。」
あれ?
そう言えば…
「ねぇ、この前会った時、部活行くって言ってたけど、高3の夏にまだ引退してないの?」
「部活と受験勉強両立できてるんで続けてます。」
そう言うと、リュックから1枚の紙を出して見せてくれた。
全国模試の結果だった。
希望校は全てA判定。偏差値平均84。
こんな頭がいい子に何かを教えるなんて無理。
わたしが模試の結果を返すと、それをリュックに入れながら颯太が言った。
「受験を理由にいろんなこと諦めたくないですから。やらないといけないことはちゃんとやってます。」
それを聞いて、かっこいいな、ってちょっと思ってしまった。
「恋愛も受験に影響を与えないって自信あります。」
颯太が真っすぐにわたしを見て言った。
「あ、そうなんだ。」
何だか間抜けな返答をしてしまう。
「優衣さんは、彼氏欲しくないんですか?」
「え?欲しいよ。」
そう答えると、颯太が言った。
「何歳下までいけますか?」
今の質問…意味があったりする?
それとも単に会話の流れ的な?
「もしかして、質問の意味わからないですか?」
「あ、どうかな?」
やばい。また間抜けな返答をしてしまった…
「オレのこと思い出しながら考えてください。」
颯太は、そう言ってにっこり微笑んだ。
「バイトの時間いいんですか?」
颯太にそう言われて時計をみる。
「そうだね、もう行かないと。」
「じゃあ、また。」
「うん、バイバイ。」
別れてから気がついた。
今日バイトって話したっけ?
どこかで話したのかな。
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