第21話 見ているもの

駐車場のところで莉子たちと別れて、颯太との待ち合わせ場所に歩いて向かう。

思ってた以上に人がいた。


颯太に


『着いたよ』


とメッセージを送ると、


『目の前』


と返事が返ってきたので、顔をあげると、少し離れたところに颯太の姿を見つけることができた。

できるだけ急いで颯太のとこまで駆け寄っている間、颯太はずっとこちらを見ていた。すぐ目の前で行って

「この前は…本当にありがとう。お礼が遅くなってごめんなさい。」

そう言って頭を下げた。

颯太は

「本当に浴衣で来たんですね。」

とだけ言ってそっぽを向いてしまった。


怒ってる?

でも怒ってないような気もする。



颯太は前を向いたまま、こちらを見ずに言った。

「花火大会を近くで見るのは初めてで、こんなに人が多いとは思ってませんでした。浴衣歩きにくくないですか?」

「大丈夫だよ。うち、母親が着物好きで、子供の頃からイベントとかいつも着物着てたから。草履で歩くのも慣れてる。」

「それで、優衣さんは歩き方綺麗なんですね。」

「え?」

「着慣れてないと、ほら、あの人みたいに服着てる時みたいに歩いて、裾がはだける。」


そんなとこ見てるんだ…



もっと、颯太のことを知るにはどうしたらいいんだろう?


横を歩く颯太の顔を見ながら、そう思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る