第17話 最後に隣にいた

ちょっとだけ座ろう、そう思って道の端によってビルの壁に寄りかかった時、


「大丈夫?」

誰かに声をかけられた。

見ると、コンパの時に執拗にお酒を勧めてきた、あの男だった。


なんでここにいるの?


「大丈夫です。」

そう言って、歩こうとするけれど、うまく歩けない。

これ、やばいやつだ。

頭ははっきりしてるのに、体がついていかない。

思ってるように動けない。


「どっかで休んで行った方がいいよ。タクシー拾ってくるから。」

男がタクシーを探しに行った。


まずい。

どうしよう…


その時、スマホが鳴った。

手に持ったままだったので無意識に応答ボタンをタップしていた。

「なんかありましたよね?位置情報すぐに送ってください。行きますから。」

電話は颯太からだった。

「でも、颯太…」


高校生に、受験生に助けなんて求められない。


「いいから送って!」

LIMEの位置情報を知らせるボタンをなんとか押した。


「土曜日だからか、タクシーがなかなかつかまらなくて。」

しばらくして男が帰ってきた。

わたしの腕を掴むと、どこかに向かって歩き始める。


「ちょっと…気持ち悪いです。」

吐きそうなふりをして立ち止まらせる。

男はイライラした素振りを見せたが、自分に吐かれるのは嫌らしく、わたしを待っている。


颯太…


そう思った時、

「何やってるんですか?」

颯太の声がした。

「何、お前?」

言い返す男を颯太がスマホで撮った。

「写真、撮りましたから。」

男が颯太のスマホを奪おうとする。

「無駄です。クラウドにあがってるんで、スマホから消しても写真は残ります。それにここ、あそこの店の防犯カメラにバッチリ映ってますよ。よく見たら、社章つけてますね。これ、SNSで拡散しましょうか?」

「俺は、気分の悪くなったこの子を介抱してただけで…」

「そうですか。もう結構ですから行ってください。」

それでもその場を立ち去ろうとしない男に、颯太が怒った。

「行けってんだろ?聞こえねーのかよ!」

男はぶつぶつ言いながら去って行った。


男が見えなくなると、颯太はわたしの前にしゃがんで、

「バカですね。」

と言った。


座り込んでいる、わたしの横に颯太が座った。


「こんな時間に家の人は…」

「オレ、信頼されてるんで何も言われません。」

「そう…なんだ…」

「一体何やってるんですか。」


颯太の言うとおりだ。


何やってるんだろう…


わたしはバカだ…


それでも颯太は、ずっと側にいてくれた。


「優衣さん、覚えておいて。今日、最後に隣にいたのはオレだよ。」


それで、安心して、わたしはそのまま眠ってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る