第9話 国語教師と風紀委員ちゃん

私の名前は永井風助と言います。

忍術と空手を合わせた武術は使えませんが

日本拳法の道場には通っていました。

現在は高校で現代文を教えています。

年齢はもうすぐ30です。

私の職場は少し前に体育教師が女子生徒を

脅迫して逮捕されるという恥ずべき事件が

起こりましたが、他の先生達は生徒思いの

素晴らしい方達ばかりです。

今日も校門前で風紀チェックとは

名ばかりの挨拶運動が行われています。

一緒にいる教頭先生も

「スカートを短くし過ぎると風邪を

 引くから程々にしておきなさい。」

「はーい!」

といった軽い感じで接しています。

「押さえ付けても反発するだけでしょう?

 自分達がそうだったんだから。」

「スイマセン•••

 教頭先生に先入観を持っていました。

 てっきり

 【衣服の乱れは生活の乱れ】等と

 仰る方かと•••」

「流石に北○の拳のヒャッハーの様な

 ファッションをしていたらすぐに止めて

 何があったか聞きますが

 スカート丈が膝から何㎝でその人の

 何が分かると言うんです?」

「確かにそうですね。」

「もう時代が違うんです。

 本当の意味でゆとりが必要なんですよ。」

「素晴らしい考え方です。」

そんな会話をしていると

風紀委員の村山 みなとさんが

「教頭先生!

 永井先生!

 挨拶運動楽しいですね!」

と朗らかに笑う。

世間一般が思う風紀委員とはかけ離れた

天真爛漫な生徒です。

教頭先生は

「一応、風紀チェックとして

 やっていますので•••

 まぁ挨拶運動でも間違いはないですから

 楽しいなら良かったですが•••」

と少し困ったように笑っています。

その後も朝の風紀チェック(仮)が終わり

教室に戻る道中で村山さんに聞いてみました

「そう言えば村山さんはどうして

 風紀委員になったんですか?」

「はい!

 先生の名前と同じ【風】が入って

 いたからです!」

「そ、そうですか•••」

実は村山さんには想いを

寄せていただいてます。

以前「永井先生!大好きです!」と

告白されてから、ずっとこんな感じです。

告白の後

「お気持ちは嬉しいのですが•••

 私達は教師と生徒ですので•••」

「なら私が卒業したら大丈夫って

 事ですよね!」

「いや•••まぁ•••

 そうですね•••」

「やったぁ!

 皆、聞いてた?」

そう言って村山さんが振り向くと

隠れていた村山さんの友達が

ゾロゾロと出て来た。

隠れているのは分かっていたので

罰ゲームの告白かと思っていたのですが•••

「聞いた聞いた!」

「おめでとう!」

「やったね!」

「告白成功って拡散しちゃおう!」

「いや•••拡散はちょっと•••」

そう言いかけたのですが

女子高生の勢いは凄まじく

あっという間に拡散してしまいました•••

そして学校中に広まりすぐに校長室に

呼び出されて校長先生から

「節度を持ったお付き合いを

 お願いしますよ。」

と忠告されました。

「そ、それだけですか?」

と答えると、校長先生の隣にいた教頭先生が

「動画は我々も確認しました。

 永井先生はキチンと対応していたと

 思いますよ。」

そして後ろにいた学年主任の先生が

「この場合、無理に引き離そうとすると

 余計に燃え上がってしまうと思うので

 良い感じの対応をお願いします。」

と注文され

「い、良い感じと言われましても•••」

「まぁ、あの体育教師の様な愚行に

 走らなければ大丈夫ですよ。」

と校長先生が最後に仰いました。

まぁ確かに手を出さなければ大丈夫か•••

そう思っていましたが次の日から

お弁当やお菓子を作ってきて

一緒にお昼休みに食べましょうと

迫ってきたり

休日デートに誘ってきたり(行ってません)

今回も風紀委員に立候補したり

本当に積極的です。

そんな毎日を送っていて

私が同世代の男子なら舞い上がって

いたでしょうが•••


ある日の昼休み村山さんが職員室の

私の元へ走ってきました。

「どうしました?

 そんなに慌てて。」

と私が問うと村山さんは

「永井先生!

 ごめんなさい!

 ごめんなさい!

 ごめんなさい!」

と泣きながら何度も謝ってきました。

「どうしたんです?

 まずは落ち着いて

 説明してくれますか?」

と何とか落ち着かせ話を聞くと

同じクラスのクズ山(仮名)に

脅迫されたと言うのです。

実は以前、村山さんに抱きつかれた事が

ありまして、その時クズ山が写真を

撮っていたそうで

[この写真を教育委員会に送ったら

 お前の大好きな永井先生は

 教師をクビになるぞ。

 それが嫌なら俺の言う事を聞けよ。]

と脅したそうなのですが

村山さんは私がクビになると聞いて

慌てて職員室に走ってきたそうです。

「そうでしたか•••

 よく相談してくれましたね。

 あとは先生達が片付けますから

 心配しなくて大丈夫ですよ。」

「でも•••

 永井先生•••」

「大丈夫ですよ。

 スイマセン村山さんを保健室に

 お願いします。」

近くにいた女性の先生に村山さんを

お願いして行動を開始しました。

と言っても話を聞いていた

学年主任の先生によってクズ山は既に

生徒指導室に呼び出されていました。


そして生徒指導室にて

「自分が何をやったか

 分かっているのか!!!

 あの体育教師と同じ犯罪者に

 なったんだぞ!!!」

「ズビバベンでじだぁ!!!」

学年主任の先生と生徒指導の先生に

怒られてクズ山は号泣していた。

「親御さんにも今 来て貰ってるから

 到着されたら校長室に行くぞ!」

「いやだぁ!

 もうじまぜんからゆるじでぐだざぁい!」

「謝るくらいなら最初からするなっ!

 お前もあのクズ体育教師も!」

先生達の仰る通りですね。


生徒指導室を後にして校長室に向かい

校長先生と教頭先生にある許可を

貰いました。

そして保健室の村山さんの元へ向かいます。


保健室に行った後の村山さんは

お友達が沢山駆け付けて保健室が

人で溢れていました。

話を聞いたお友達は激怒して

クズ山の事を拡散して学校中が

敵になってしまったので

クズ山はこれからの学校に

居場所は無いでしょう。

私を見た村山さんは

「ごめんなさい!

 永井先生、私のせいで!

 ごめんなさい!

 ごめんなさ」

「村山さん今週末デートしませんか?」

「へっ?!」

「嫌ですか?」

「嫌じゃないです!

 •••でもいつもデートは

 断られてたから•••」

「学校外で会うのは問題が

 有りますからね。

 今、校長先生と教頭先生に

 許可を貰ってきました。

 デートと言っても一緒に

 公園に行く位ですけど。」

「それでも良いです!

 嬉しいです!」

「ではまた今週末に。」

「はい!」

この間、周りのお友達はこのデート情報を

仲間内に拡散していました。

どうせバレると思って皆の前で

言いましたけども•••

拡散するの好きですね•••


その後、到着したクズ山のお母さんは

泣きながら土下座していました。

「私がシングルマザーで教育がしっかり

 出来てなかったんです!

 本当に申し訳ありませんでした!」

それを聞いた校長先生は

「クズ山(仮名)さんシングルマザーは

 関係ありませんよ。

 母子家庭でも父子家庭でもちゃんと

 している人がほとんどです。

 貴女も頑張ってこられたのでしょうが

 残念ながら息子さんには通じてなかった

 みたいですね。」

「ワァーーーッ!!!!」

クズ山のお母さんは大きい声を上げて

泣いておられました。

ですがもしかしたら泣いていたのが

村山さんや村山さんの家族だったかも

しれないのですから可哀想ですが

因果応報と言うべきでしょう。

そして校長先生はクズ山に顔を向け

「君がした事が分かったかい?」

「ズビバベンベジダァ!」

「残念だけど君には退学か転校か

 選んで貰うよ。

 被害者と加害者を一緒にしておく訳には

 いかないからね。

 私としては転校先でまた悪さをすると

 いけないから退学して貰いたい。」

「いやだぁ!

 やめだぐなぁい!」

「君も3年生になって進路を考える時期に

 全てを棒に振る事をしたんだ

 自業自得だよ。

 お母様も納得して下さい。」

「はい•••

 全て私達が悪いです•••」

「いやだぁ!!!」

そしてクズ山は退学していきました。

聞いた話ではお母様の地元に帰り

山奥の農業施設で一生働かせるそうです。

山奥の農業施設•••

闇が深いですね•••


そして週末になりました。

村山さんがお弁当を作ってくれると言う事で

公園に11:30待ち合わせとなりました。

11:00には到着して本でも読んで

待っていよう思っていたら村山さんは

もう到着していました。

「スイマセン。

 待たせてしまいましたね。」

「いえ!

 私が楽しみ過ぎて早く来ただけです!」

「楽しみにしてくれて良かった。

 では行きましょう。

 その前に荷物お持ちしますよ。」

「ありがとうございます。」

お弁当だと思われる大きな荷物を持ち

2人で公園を歩きます。

「どこか座れる所を探しましょう。」

「私、シート持ってきましたよ。」

「準備が良いですね。

 ありがとうございます。」

そしてピクニックシートを広げ

お弁当を並べました。

「凄いですね!

 大変だったでしょう?」

「前日から仕込んでました。

 でも楽しかったですよ

 凄く楽しみでしたから。」

そしてまたいつもの天真爛漫な

笑顔を見せてくれます。

「またその笑顔が見られて良かった。

 早速いただきますよ。」

「どうぞ召し上がれ!」

「•••凄く美味しい!」

「良かった!」


それからお弁当を食べながら

お話をしました。

「永井先生迷惑をかけて

 ごめんなさい•••」

「謝る必要はありませんよ。

 悪いのはクズ山ですから。」

「でも私が近くにいると

 また永井先生に迷惑が•••」

「そんな事気にしなくて

 良いんですよ。」

「私が近くにいるのは

 迷惑じゃないですか?」

「まさか!

 •••まぁ本音を言えば最初は

 かなり戸惑っていましたが

 今は一緒にいるのが

 とても楽しいですよ。」

「本当ですか!

 これからも近くにいて

 良いんですか!」

「勿論です。

 ただ•••

 村山さんの事はいとしく

 思っていますが•••

 今はまだ1人の女性というより

 幼い女の子としてしか見られません。」

「それで良いですよ。

 って言いましたから

 大人の女性になれるように

 これからも頑張ります!」

「その頃には私は今よりも

 オジサンですから村山さんには

 他に好きな人がいるかもしれませんね。」

「そんな事言わないで下さい!」

「それでも良いんですよ。

 村山さんが幸せならね。」

「もう!」


食後のお茶をいただきながら

「先生聞いても良いですか?」

「何でしょう?」

「先生の過去の恋人の事を。

 先生が持ってる物に女性から

 貰ったんだろうなぁって

 思う物がいくつかあったので•••」

「凄い観察力ですね•••

 仰る通り過去に1人だけ

 恋人がいました。

 中学二年生から教師になって

 1年目まで付き合っていました。」

「•••どうして別れたのか

 聞いても大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ。

 と言ってもそんな大した話では

 ないですよ。

 浮気されて修羅場になって別れたとか

 病気や事故で亡くなったとか

 そんな事はなくて

 ただお互いに何となく冷めてしまった

 だけですよ。

 十年も一緒にいると、ときめきも何も

 無くなってましたから。

 別に一緒にいるのが苦痛と言う訳では

 なかったのですが•••

 私も教師1年目、向こうも社会人に

 なったばかりでお互い忙しくてまぁ

 別れようかとなっただけですよ。」

「そうだったんですか•••」

「何となく好きになったなら

 何となく好きじゃなくなる事も

 ありますからね。」

「そうなんですね•••

 私は男の人を好きになったのは

 永井先生が初めてなので•••」

「そうでしたか•••

 村山さんは人気があるので

 意外ですね。」

「男の人を好きになる気持ちが

 分からなくて 

 でも永井先生の近くにいると

 凄くドキドキして

 友達に相談したら

 [告白しちゃおう!]

 って事になってそれで•••」

「あの告白ですね•••

 申し訳無いですが

 お友達が沢山隠れていたので

 最初は罰ゲームの告白だと

 思ってしまいましたよ。」

「皆は心配してくれていたんです。

 襲われないようにって。」

「まぁその位、警戒した方が

 良いと思いますよ。

 クズ山の様な人間もいますし。

 •••今日もお友達は何処かから

 見てるんですよね?」

「はい•••

 心配で着いてきてくれてます。」

「ではお友達を呼んでくれますか?」

「?

 分かりました。」

そしてお友達が集まります。

結構多いですね•••

その内の1人に

「私達のデートはここまでです。

 この後は皆でお茶でも飲んで下さい。」

そう言ってお金を渡します。

生徒にお金を渡すのは

本来良くない事でしょうが

今までもお弁当の材料費を

受け取ってくれていませんので

「先生そんな!」

「今までの材料費の代わりですよ。

 このまま遊びに行っても良いですが

 あまり遅くならないように。」

「「「「「はーい!」」」」」

「では村山さん皆さん。

 また学校で。」

「はい。

 先生、今日はありがとうございました。」

「「「「「先生さようなら!」」」」」

「はい、さようなら。」

そして私は公園を後にしました。



私、村山湊には学生の頃から

好きな人がいます。

高校の先生で永井風助さんです。

小さい頃から男の人を好きになった事が

無かった私が初めて好きになった人です。

先生なので当然知性的ですし

何より本当に優しかったです。

友達に背中を押され告白してから

先生に猛アタックしました。

先生はいつも大人の対応をしてくれて

それでますます好きになりました。

我慢出来ずに抱きついてしまった時

それを写真に撮った男子に脅迫された

事もありましたが先生や友達が

助けてくれました。

そして落ち込む私に先生は初めて

デートに誘ってくれました。

公園で一緒にお弁当を食べただけですが

今でも大切な初デートの思い出です。

その後、皆でカラオケに行ったのも

懐かしいです。

本当に青春していました。

高校を卒業して正式なお付き合いになって

呼び方も「湊さん」「風助さん」に

なりましたが先生は変わらず

優しく紳士で初めて抱いてくれたのは

二十歳になってからでした。

罪悪感を感じる様な顔をしていたので

「そんな顔しないで下さい。

 初めてを好きな人にあげたんですから

 本当に幸せですよ。」

「なら良いのですが•••」

そんな会話をしていました。


さらに時が経ち

私達は無事結婚式を挙げました。

友達の他に当時の校長先生や教頭先生達も

駆け付けてくれました。

「まさか結婚までするとは

 永井先生、貴方は凄い!」

「自分でも驚いています。」

校長先生に肩を叩かれ照れくさそうに

している顔を今でも憶えています。


そして今、2人の間には3歳の娘と

お腹の中にもう一人がいます。

「いや~

 やっと寝ましたよ。

 あの子は【ね○いこだ○だ】が

 本当に好きですねぇ。」

そんな事を言いながら風助さんが

寝室から出て来ます。

恋が愛に変われば男女は大丈夫と聞きます。

今、私は夫として子供達の父親として

間違い無く愛しています。

ですが

「永井先生。」

そう呼ぶ私に驚いた顔をした後

「どうしました?

 村山さん。」

そう言ってあの頃と変わらない

微笑みをくれます。

「フフッ。

 何でも無いです///」

私の初恋はまだ終わっていません。


         完

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