第18話 FIELD OF GREEN 田舎の花嫁 後編

あれから私は無事に女の子を出産しました。

出産の前に大空を飛ぶ鳥の夢を見たと

ひろしさんに話したら娘の名前は

飛鳥あすか】となりました。

ひろしさんは勿論ですが

初孫はつまご初曾孫はつひまごということで

家族かぞくみんながお祭り騒ぎです。

義父とうさんは原付バイクで

走り回っていました。


私も娘も体調の問題は無く

退院してからの顔見せでは夕子ゆうこさん家族や

ダンおじさんジョウおじさんも

来てくれました。

弥生やよいちゃんおめでとう。

 弥生ちゃんも飛鳥ちゃんも健康で

 良かったよ。」

「「おめでとうございます!!

  赤ちゃん見に来ました!!」」

「ありがとうございます。

 •••空君そらくんはどこですか?」

「今おじさん達が抱っこしてるよ。」

夕子さんの視線の先にニコニコ顔で

空君を抱っこするダンおじさんと

ガックリと肩を落としトボトボ歩く

ジョウおじさんがいました。

歩けるようになっても抱っこが

大好きな空君をダンおじさんと

ジョウおじさんはよく取り合いを

しているそうで

「さっきジャンケンしてたから。」

「結果は一目瞭然いちもくりょうぜんですね•••」


眠たくなった空君をあやす為に

夕子さんは離れました。

ベビーベッドの飛鳥を柚子ゆずちゃんと

美柑みかんちゃんはキラキラした目で

見ています。

「仲良くしてあげてね。」

「「うん!!」」

「おじさん達もうちの飛鳥を

 よろしくお願いします。」

勿論もちろんだよ。」

「フフフ•••

 三番目のおじいちゃんはこの

 ジョウにおまかせを。

 サード•ジィ•ジョウです。」

「何がサード•ジィだよ。

 ハード•ゲイの間違いだろ

 この不潔ヒゲオヤジ。」

「テメェ!

 なんて事言いやがる!

 ひげもトリートメントしてるっつうの!」

 「飛鳥ちゃんがビックリするから

 喧嘩したら駄目でしょ!

 めっ!」

「めっ!」

「ごめんよ•••

 このダサメガネオヤジがヒドいんだ•••」

「サラッと悪口言うな!

 •••ごめんね反省してます•••」

「ごめんなさいは飛鳥ちゃんにでしょ!」

「そうだよ!」

「そ、そうでした•••

 ごめんなさい•••」

「飛鳥ちゃんごめんなさい•••」

あやまられた飛鳥はキャッキャッと

楽しそうに笑っていました。

生後一ヶ月でも飛鳥は良く笑います。


その後もダンおじさんに対抗して

ジョウおじさんが大型バスタイプの

キャンピングカーを買おうとしたり

張り切ったお義父とうさんが庭にプールを

つくろうとするのをめながらバタバタと

時間は過ぎ飛鳥あすかは3歳になりました。

その間、私達には2人目が生まれ

男の子で名前は【安住あんじゅう】の【土地とち】という

意味を込めて【安土やすと】と名付けました。

先日無事に1歳の誕生日を迎えました。


そんな平和な毎日を過ごす私達ですが

今、広さんの車に乗ってある場所を

目指して移動しています。

お義父さんと飛鳥が散歩に出かけたまま

戻ってないのです。

散歩と言いながらお義父さんの車が

無かったので心配よりも

「またか•••」という

気持ちで私と広さんは車に乗っています。

着いた場所は街のショッピングモール

そして予想通りガチャガチャコーナーに

二人がいました。


「じぃじ見て見て!

 【刺青いれずみおじさん】が出たよ!」

「ついにシークレットが出たね!

 これでコンプリートだ!」

「やったぁ!

 家に帰って遊ぼう!」

「もういのかい?

 百円玉は持ってきたから

 まだまだ回せるよ。」

「えぇーどうしようかなぁー」

そんな話をしている二人に近付くと

お義父さんの背中越しに飛鳥と

目が合いました。

飛鳥はビクッとなります。

「飛鳥たん、どうしたの?」

たずねるお義父さんの肩にポンと

手を置きます。

「お義父さん、ダメって言いましたよね?」

「や、弥生ちゃん•••

 こ、これはその•••」

「分かってますよ。

 この子がまたワガママを

 言ったんですよね?」

「い、いや違うんだ•••

 悪いのは俺で•••」

「近所のかたが見てたそうですよ。

 この子が

 【私とお母さんとばぁば

  誰が一番好きなの!】

 って言ってるのを見たって。

 どこでそんな言葉を

 おぼえてきたんでしょう?」

「いやぁ•••

 そう言われると弱くて•••

 【飛鳥たんに決まってるじゃない!】

 って答えました•••

 本当にすいません•••」

「まぁ弱味につけ込むこの子が

 悪いんですけど•••

 とにかく帰りましょう。」

そう言うと飛鳥がお義父さんの

手を引っ張ります。

「ダメ!

 まだじぃじと遊ぶの!」

私も反射的にお義父さんの

手を引っ張ります。

「ダメ!

 お祖父じいちゃんは帰るの!」

二人でお義父さんを取り合うような

かたちになります。

とうのお義父さんは

「ウヘヘ♡

 グへへへへ♡」

と嬉しそうです。

なんだよ親父おやじの顔•••

 気持ちわりぃな•••」

広さんはそう言いながら撮影しています。

「あんまりワガママ言うとお祖父ちゃんと

 お出かけ禁止にするよ!」

「ヒィィィィィィィ!

 それだけは許して下さい!」

なんでお義父さんがあやまるんですか•••

 とにかく帰りましょう、広さん。」

「分かった。」

そう言って飛鳥を抱っこします。

「イヤァーまだ遊ぶのぉ!」

「飛鳥たん、今日はもう帰ろう•••

 ケーキ買ってあげるから•••ね?」

「うぅぅ•••

 分かった•••

 じぃじの車に乗る•••」

しぶしぶ飛鳥は帰る事になりました。


飛鳥がお義父さんの車に乗っているので

帰りはまた広さんと二人です。

安土やすとをお義母さんにまかせっぱなし

 ですから、早く戻りましょう。」

「そうだね•••

 なぁ飛鳥はおじさんが好きなのかな?

 今日のガチャガチャ•••

 【サウナのおじさん】ってなんだよ•••」

「【働くおじさんシリーズ】の【番外編】

 らしいです。

 少し前は【農家のおじさん編】を

 あつめてましたよ。」

「心配だ•••」

「まぁおじさん達に可愛がって

 貰ってますから。

 それより私はおねだりの仕方しかた

 心配ですよ•••

 いた○き女子とかにならないで

 欲しいです•••」

そんな話をしながら帰ります。

家に帰ったお義父さんはお義母さんから

こってりとしぼられていました。

飛鳥のせいなのに、ごめんなさい。


「お義父さんには申し訳ないです•••」

「まぁお義母さんの気持ちも

 分かるけどね。

 自分は我慢してるのにって。」

「そうなんですよね。

 飛鳥は広さんにも似てますけど

 離れて暮らす法子のりこさん(ひろしいもうと)に

 そっくりですからお義母さんも

 可愛くて仕方ないんですよね。

 ただ甘やかしてばかりは

 いけませんから•••」

「ダンおじさんとジョウおじさんも

 ありがたいけど心配になるよ•••

 大型キャンピングカーは止めたけど

 結局、軽トラックタイプの

 キャンピングカーは買っちゃったから•••

 子供達は可愛いって大喜びしてるけど。」

「二人共、個人では頭も切れる

 実力者って話ですけど張り合うと

 ダメになるって奥さん達も言って

 ましたからね。」

「面白い人達だよね(笑)」

そんな話をしている今日は夏祭りです。

子供達は大人達に囲まれて御満悦ごまんえつです。

私と夕子さんは会場から離れた

静かな神社でお話をしています。

「でも天川ここに来て良かったです。

 本当に幸せです。」

「私もそう思う。

 旦那が亡くなって落ち込んでたけど

 私も子供達もここに来て楽しく

 過ごせているのはありがたいよ。」

「毎日、にぎやかですからね(笑)」

そんな話をしていると

「こんばんは~」

と言いながらガラの悪い男の人達が

近付いてきました。

なんですか、貴方あなたたちは?」

夕子さんのいに答えず男の人達は

ニヤニヤと近付いてきます。

「街で見かけた美人さんと

 かわい子ちゃんが一緒にいるのは

 ラッキーだね♪」

「狙ってたからこんな人気の無い場所に

 来てくれてありがとう♡」

「もしかして期待して

 いたのかな?」

そう言いながら近付いてきます。

夕子さんは私を隠しながら小さい声で

「スマホ持ってきてる?

 助けを呼んで。」

ささやき私がスマホを取り出すと

「はいそこまで~」

と言いながら暗闇から広さんが出てきます。

私はホッとして

「広さん!」

さけび、広さんは私と夕子さんの前に

立ちます。

男の人達はそれでもニヤニヤと

「お兄さん格好かっこく出てきたけど

 一人でしょ?」

「こっちの数、分かる?」

「逃げた方が良くない?」

と余裕の表情です。

ですが広さんは気にせず

「1•2•3•4•5•6•7全員いるね。

 それではお願いします!」

と叫ぶとおじさん達があらわれます。

お義父さんやダンおじさんにジョウおじさん

近所のおじさん達がくわ大鎌おおかま大木槌おおきづち

なたおのなどを持って出てきました。

いつもお肉をくれる猟友会のおじさんは

猟銃りょうじゅうかついでいます。

そして皆がです。

いつものニコニコ顔ではなく冷たい目です。

さすがに男の人達も30人以上の

おじさん達に囲まれて恐怖に顔を

らせます。

「な、なんだテメェら•••」

最初に声をかけてきたリーダーらしい

男の人がそうらします。

「さ、行こうか。」

そう言って私と夕子さんを連れて

広さんが歩き出します。

「おい待てよテメうわっ!」

言い終わる前に鹿しかいのしし捕獲ほかくする時に使う

投げあみが男の人達にかぶせられ

次の瞬間おじさん達がおそいかかります。

「ごめんね二人共怖い思いさせて。」

「いえ、助けに来てくれて良かったです。

 どうして私達のピンチが

 分かったんですか?」

他所よそから人が入ってきたら

 すぐに分かるよ。

 ましてやあんなガラの悪い男達が

 入ってきたら警戒するさ。

 そんなやからが二人に近付いたら

 当然とうぜんこうなるよね。」

「ありがとうございます。

 夕子さんもかばってくれて

 ありがとうございます。」

「私も今、足がガクガクになってきた•••

 ありがとうございます。」

「まぁおれいはおじさん達に。

 あと子供達はおばさん達が

 見てくれてるよ。

 •••••今のおじさん達、こわかったよね?

 二人を助けるためだから•••」

「いいえ恐くなかったですよ。

 男の人達は恐かったですけど

 助けてくれたおじさん達は

 味方ですから恐くないです。」

「私も弥生ちゃんも、もうこの集落の

 一員いちいんですから大丈夫ですよ。」

「良かった•••

 おじさん達も恐がられるのを

 心配してたから•••」

広さんはホッとしてました。

そして後ろから

「ウワァァァ!助けてくれー!」

「俺のうでがー!」

「やめてぇぇぇ!」

「ギャアアア!足が!足が!」

「ふしゅー!ふしゅー!」

「もうしましぇん!もうしましぇんから!」

「アギャググェ!」

と聞こえてきました。

「人に危害をくわえるつもりなら

 反撃もあるだろうに馬鹿だね•••

 今まで「やめて下さい」って

 言われてもやめなかっただろうに•••」

神社の方を見ながら広さんがつぶやきます。

「二人はさたとえるなら【女王蜂じょうおうばち】や

 【女王蟻じょうおうあり】みたいな存在そんざいなんだよ。」

「女王だなんて広さん大袈裟おおげさです(笑)」

「いやいや本当だよ。

 二人と子供達はこの集落で一番

 とうとい存在だから、危害を加えようと

 するなら【はたらばち】や【はたらあり】が

 だまってないよね。

 今は【兵隊へいたいばち】や【兵隊へいたいあり】に

 なってるけどね(笑)」

そうはなしている後ろで銃声じゅうせい

聞こえてきました。

夕子さんが

「警察とか大丈夫なんですか?」

と聞くと

「まぁ色々と【田舎いなかやみ】って

 やつですよね(笑)

 今度 くわしく話しますね。

 さ、子供達が待ってますよ。」

「そうですね、行きましょう。」

私達は断末魔だんまつまに歩きます。


後日、私と夕子さんは広さんと

大きな根元ねもとにある

立派りっぱほこらの前にいました。

「この集落では百年に一度いちどくらい間隔かんかく

 皆から愛される人が突然亡くなる事が

 あったそうです。

 そしてその人はこの地域の【まもがみ】に

 なると言われています。」

「うちの旦那がそうだと?」

「信じるかどうかは夕子さん次第しだい

 ですけどね。」

「•••••信じます。

 くなったのは悲しくて

 やりきれないですけど•••

 【守り神】になったと思えば

 また少し気持ちが軽くなります。

 今度子供達も連れて来たいと思います。」

「今までもこれからも見守っていると

 伝えてあげて下さい。

 そして二人に見せたいのが

 もう一つありまして•••

 そっちは子供達には見せられない

 ですけど•••」

そうして次に連れていってくれた場所には

沢山たくさんのお地蔵じぞうさまがいました。

「広さんここは?」

「ここは今まで悪さをした人間が

 お地蔵様になると言われる場所だよ。」

「••••もしかして今までの人達も?」

「前に言っただろ【田舎の闇】って

 まぁ色々な力が働いてるんだよ。

 【人柱ひとばしら】って聞いた事あるかな?

 昔から罪人ざいにんささものとして

 さっきの【守り神様】とは別の

 【土地の神様】におそなえするんだよ。

 そしてここ天川あまかわは長く繁栄はんえい

 してきたんだよ。

 ここにいるお地蔵様はその人柱の

 生まれ変わりとして建立こんりゅうされるんだ。

 道端みちばたにいるお地蔵様とは

 少し違うね•••

 この話を聞いて二人はどう思います?」

それを聞いた夕子さんは

「街にいた頃なら恐い話と思いますけど

 今はもうすっかりここの住人じゅうにんですから

 恐怖は無いですね。

 弥生ちゃんは?」

「私も無いです。

 れってすごいですね。」

「良かった。

 もう二人なら話しても大丈夫だと

 思ってたけど、やっぱり恐いかな?って

 心配だったから。

 あっ、それと罪人って言っても

 昔話むかしばなしの【きじかずば】みたいな

 胸糞むなくそばなしは無いから。

 この前のやからみたいな生きてるだけで

 がいになるような奴だけだよ。」

「大丈夫ですよ。

 皆さんを見てれば分かりますから(笑)」

「心配ばかりですね(笑)」

「いやー良かった良かった。

 二人に天川ここの秘密を話せて

 胸のつかえが取れたよ。

 あらためてよろしくお願いします。」

「はい。

 よろしくお願いします。」

「よろしくお願いします。

 人柱の話は出来ないですけど

 お父さんは【守り神様】になったんだよは

 帰ってすぐ子供達に聞かせたいと

 思います。」

「きっと喜びますよ。

 お父さんは君達の事をずっと守って

 いるんだって。」

そんな話をしながら私達は

家路いえじにつきました。


あれから色々な事が起こりましたが

皆で力を合わせて平和に暮らしています。

子供達は大きくなり柚子ゆずちゃんと

美柑みかんちゃんは高校生になって

この辺りでは美人姉妹として有名です。

私の娘の飛鳥も大きくなりそら君と

安土やすとと一緒に小学校にかよっています。

ダンおじさんとジョウおじさんが

子供達の送り迎えをしてくれるので

私達は安心です。

そして今日は私の3人目の子供の1歳の

お誕生日です。

男の子で名前は【和成かずなり】です。

元気に育ってくれているので

何も言う事はありません。


その誕生日のお祝いバーベキューを

しているのですが柚子ちゃんと美柑ちゃんの

元気がありません。

ダンおじさんとジョウおじさんを

筆頭ひっとうに皆が心配をしていると

二人がポツポツと話し出します。

どうも二人の通う高校に素行の悪い

男子生徒がいて二人にちょっかいを

かけてくるそうです。

街の不良グループともつながっていて

まだ直接的な被害は無いそうですが

二人はとても恐い思いをしているそうです。

話を聞いておじさん達もおばさん達も

冷たいになります。

今は隣にいる夕子さんも

しています。

そしておそらく私も

していると思います。

「大丈夫。

 その不良グループ丸ごといなくなるから

 心配しないで。」

お義父さんがのまま

優しく二人に話しかけます。

またお地蔵様が増えそうです。


         完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る