第13話 ぼくはマジでやってない

「好きです。!

 付き合って下さい!」

僕、宗次そうじは体育館裏にて

クラスメートの清楚せいそ(仮名)さんから

告白を受けていた、しかし

「彼女がいるからごめんなさい。」

と断った。

「•••分かりました。」

そう言うと清楚さんは走って

行ってしまった。

桃子ももこもう出て来て良いよ。」

僕は隠れていた

幼馴染み兼彼女の桃子を呼ぶ。

「大丈夫と思っててもやっぱり

 彼氏が告られるのは嫌だな•••」

桃子は外国の血が入っているので

髪の色が明るい、見た目だけなら

ギャルと言えるかもしれない。

ただそれは見た目の話で

実際の桃子はそれほど

気が強くはない。

「ごめんね桃子。

 嫌なもの見せて。」

そう言って桃子を抱きしめる。

「フフッ。

 ありがと///」

「僕と桃子が付き合っているのは

 清楚さんも知ってるはずだから

 これは罰ゲームじゃないかな?」

そんな話をしながら僕は桃子と

手を繋いで帰宅した。


次の日、桃子と登校すると周りの人の

僕を見る目がおかしい。

嫌な予感がしていると

友達の宏太君が教えてくれた。

「宗次君、変な噂が流れてるみたいだよ。」

「変な噂?」

「うん。

 宗次君が清楚さんに振られた

 腹いせに暴言を吐いて

 乱暴しようとしたって。」

「設定ヒドくない?

 そもそも僕は彼女いるし•••」

「そうだよね•••

 僕も何でそんな話が出たのか

 不思議だったんだよね。

 朝 来たら急にそんな噂が

 聞こえてきてさ。」

「振られた腹いせは

 逆だと思うけどね•••」

「何かあったの?」

「実はさ•••」

真実を話そうとした時

「古賀(宗次苗字)はいるか?」

生徒指導の先生が入ってきた。

「はい、何でしょう?」

「すまんが生徒指導室まで

 来てくれるか。」

「分かりました。」

そう言って教室を出る時に

清楚さん達グループを見ると

取り巻き達はニヤニヤと嫌な笑みを

浮かべていたが中心にいる

清楚さんはうつむいている。

そういう演技かな?


そして生徒指導室で話となった。

「知ってるかもしれんが

 変な噂が流れててな。」

「先生はどんな噂を聞いてますか?」

「まぁお前が清楚(仮名)に振られて

 暴言を吐いて乱暴しようとしたと

 聞いてる。

 正直設定に無理が有るし

 信じる奴は馬鹿だと思うが

 まぁ聞こえてきた以上は

 話はしておかんとな。」

「話より先に見て貰いたいものが

 ありまして•••」

そうしてスマホに録画した映像を

先生に見せる。

「百聞は一見にしかずだな•••」

「はい、告白したのも振られたのも

 逆ですね。」

「そうだな•••

 なら清楚が噂を流したのか?」

「さっき教室出る時に見たんですけど

 取り巻きの人達がニヤニヤして

 ましたから清楚さんグループかと。」

「そうか•••

 ならどうするかな•••

 何か被害はあるか?

 嫌がらせされたとか。」

「被害も何もさっき聞いた話ですので•••」

「そうだよなぁ•••

 ただ見て見ぬ振りは出来んから

 噂を流した人間は3日位謹慎

 させておくか•••

 すまん、ちょっと時間をくれ。」

「分かりました。

 よろしくお願いします。」

そして教室に戻る。


「宗次!

 大丈夫だった?」

桃子が駆け寄ってくる。

「大丈夫だよ。

 噂は根も葉もない事だしね。」

「良かった!」

桃子はホッとしていた。

周りも「そりゃそうだよな。」という

空気が漂っている。

「設定に無理があり過ぎなんだよ。

 本当に僕がそんな事してたら

 今頃警察にいるはずだからね。」

その言葉に清楚さんの取り巻き達は

顔を真っ赤にして文句を言ってくる。

「ふざけないで!

 清楚は怖くて警察に

 行けなかったんだよ!」

「警察には行けないのに

 学校には来られるの?

 そっちの方が恐くない?」

「うるさい!

 大事おおごとにしたくなかったんだよ!

 この犯罪者!

 さっさと清楚に謝れよ!」

「謝るような事してないから。」

「ふざけんな!

 男らしく謝れよ!」

「男らしくって•••

 そもそも噂みたいな事

 やってないから。」

「言い訳すんな!

 謝れよ!」

困った。

話にならない。

どうしたものかと思っていると

先生が教室に入ってくる。

「何してるんだ。

 早く席に付け。」

その場は一旦収まった。


その後も休み時間の度に

取り巻き達はやって来て

僕に罵詈雑言と謝罪を要求した。

そして昼休み

「やってもない事で

 謝るのはおかしいでしょ?

 そもそも何を根拠に

 そんな事言ってるの?」

「清楚が言ったんだよ!

 襲われそうになったって!」

「清楚さんこの人達の言ってる事に

 間違いは無いですか?」

すると取り巻き達は清楚さんを

守るように立ち

「ふざけんな!

 直接声をかけるな!」

「怖がってんの分かれよ!」

「最低男!」

すると周りで見てた宏太君達が

「あのさ宗次君がやった

 証拠とか無いの?

 ちょっと一方的過ぎると言うか•••」

「片方の言い分を鵜呑みにして

 もう片方の言い分を無視するなんて

 馬鹿のやる事だぜ。」

「こういうのイジメじゃないかな?」

その言葉に

「何よあんた達!

 どっちの味方なのよ!」

「男同士庇ってるんでしょ!」

「最低!」

すると教室の扉が開き生徒指導の

先生が入ってきた。

「清楚(仮名)。

 ちょっと生徒指導室まで来てくれ。」

そして清楚さんは連れていかれ

その後も1人ずつ生徒指導室に行き

昼休みの後も戻ってこなかった。


ただもう清楚さんグループは

どうでも良い。

許せない事が起こった。

桃子がクラスメートの

クズ谷(仮名)に傷付けられたのだ

昼休みクズ谷は桃子に近付き

「あんな奴捨てて俺と付き合おうぜ。」

と言ってきたそうだ。

相手にしなかった桃子に

腹を立てたクズ谷は

「ヤ○マンのくせに

 調子のってんじゃねえ!」

と暴言を吐いたそうだ。

桃子は髪の色もそうだが

目の色も少し違う

そのせいで小さい頃から

イジメにあっていたのだ。

それを僕は必死に守ってきた。

中学生になると体の発育も良くなり

男子に告白される事も多かったが

小学校の卒業式に桃子に

告白して恋人同士になっていたので

当然全て断っていた。

しかし振られた腹いせに

「アイツはヤリマンだ!」

と言い触らす奴も出て来て

桃子は心に深い傷を負っていた。


昼休み遅れて昼食に来た

桃子はうつむいていた。

そして一連の出来事を話し

「私、宗次としか した事ないよ•••」

と涙を流した。

怒りで目の前が真っ赤になった。

まずは泣いてる桃子を保健室に

連れて行き、その後教室に戻った。

クズ谷とのやり取りは教室で

あったらしくクラスメート達は

事情を知っていた。

友達の良平君が

「手伝おうか?」

と聞いてくれたが

「ありがとう。

 もしもの時はよろしくね。」

と返した。

クズ谷はニヤニヤと笑っていた。


その日、桃子は早退した。

桃子のお母さんが車で

迎えに来てくれて良かった。

「ちょっと言われたくらいで

 メンタル雑魚だな!」

クズ谷はわざと聞こえるように

話していた。

今夜片付ける。

もう腹は決まっていた。


下校してそのまま桃子のお見舞いに行く。

桃子は大分弱っていた。

「ごめんね。

 久し振りだったから•••」

「気にしないでゆっくり休んでね。

 明日は休みだから良くなったら

 散歩でも行こうね。」

「宗次、ありがと。」

桃子の頭を撫でると部屋を後にする。

桃子のお母さんに挨拶をして

外に出ると頭の中は復讐に燃えていた。


家に帰ると親には早く休むと言って

部屋に籠もった。

そして夜、部屋から抜け出す。

クズ谷が仲間と溜まっている

公園を目指す。

着いた時クズ谷は1人で

帰っている所だった。


【この先、暴力表現が有ります。】


目出し帽を被り

周りを確認し襲いかかる。

桃子を守る為にボクシングジムに

通い鍛えてきた。

鉛入りの特殊なグローブを付けた

一撃はクズ谷の顔の真ん中を

打ち抜き戦意喪失させた。

だがそれが始まりだ。

馬乗りになり殴り続ける。

恐怖で声も出さず

クズ谷は涙を流しながら

時折こちらに向かって手を出す。

それは辞めてくれという

ポーズだろう。

だが話は聞いてるぞ。

お前は辞めてくれと言われて

辞めたのか?

辞めなかったよな?

笑いながら続けたよな?

お前だけじゃない

イジメをやる奴は皆そうだ。

遊びだった。

冗談だった。

いじりだった。

そんな理屈で

やられる方の気持ちなんて

考えずに傷付け踏みにじ

桃子は髪や目の色が少し違うだけで

ずっと傷付けられてきた。

やられる方にも問題が有るなら

お前にも問題が有るんだよな?

クズ谷の顔は原型が分からない程に

変形しイビキをかいていた。

人の声が聞こえたので

すぐに現場を後にする。

暫くして後ろから悲鳴が聞こえた。


クズ谷は病院に運ばれ

警察も動く事になったが

僕よりも他に怪しい人間が

沢山いて、クズ谷自身の

罪も出て来たので警察の

捜査はなあなあになったそうだ。

捜査は難航している等と

報道されるのはこういう事で

警察はそんなものらしい。


次の日は回復した桃子と

公園(前日とは違う)や河川敷を

手を繋ぎゆっくりと散歩した。

「宗次いつもごめんね•••

 私も強くならなくちゃね•••」

「桃子そんな事、考えなくて良いよ。

 嫌な事は嫌、辛い事は辛いと

 言って良いんだよ。

 それに強さなんて

 あやふやなものだよ。

 中学の時の女教師覚えてる?」

「2年生の時の担任だよね?」

「そうそう。

 【本当の強さ】とか

 言っておきながら

 あんな事になってさ•••」


2人が中学2年生の時の担任は

日教○の40代女教師だった。

この令和の時代に桃子の髪や目の色を

写真を見せても生まれつきだと信じず

桃子へのイジメをただの遊びだと言い

そして傷付いた桃子に

「本当に強い人は許せる人です。

 過ちを犯した人を許せる

 本当の強さを持ちなさい。」

と言った。

僕はすぐに行動を開始した。

女教師の家族を調べ

夫を勤め先から尾行し

女の人と話している場面を

写真に撮り拡大して

女教師の家のポストに入れておいた。

夫とその女性はたまたま会って

話をしてただけみたいですぐに

離れていたから浮気不倫しているとも

書かずに

しかし女教師は

発狂し夫を包丁で刺したと

テレビニュースになっていた。

夫は一命を取り留めたが重傷で

女教師は刑務所ではなく

精神病院に行ったと聞いた。


「強くなりたいと思うのは良いけど

 無理に強くなろうとは

 思わなくて良いよ。

 あの女教師みたいに自分は

 強くなったと勘違いするよ。」

「そうだね•••

 ありがとう。」

「これからも僕は隣にいるから

 一緒に強くなっていこう。」

「宗次はもう強い人だよ•••

 清楚さん達のグループから

 あんなに言われても平然と

 言い返してたし•••

 私は宗次が言われてるのを

 見るだけで胸が苦しくなるよ•••」

「ごめん桃子。

 嫌な思いさせて。」

正直、清楚さん達の事など

全く頭に無かった。

もし逆で桃子が罵詈雑言を

浴びせられていたら僕も

間違いなく嫌な気持ちに

なっていただろうから•••

いや怒り狂ってるな。

これは心から反省。

「月曜日からはまた平和な学校生活が

 始まるから大丈夫だよ。

 帰りに甘い物でも食べて帰ろう。」

「うん♡」

恋人繋ぎから腕組みに変わった。


休み明け学校に来ると

清楚さん達は謹慎になっていた。

僕はクラスメートにスマホの

動画を見せた。

クラスメート達はそもそも噂は

半信半疑•••と言うよりかなり

疑わしいと思っていたようだ。

「いや振られたから乱暴って•••

 そんな奴警察案件だろ•••」

「宗次君やってないって

 言ってたしね。」

「この前も言ったけど

 片方の言い分だけ鵜呑みにして

 もう片方の言い分を無視するとか

 馬鹿のやる事だぜ。」

「古賀君を悪者にしようって

 感じが凄い嫌だったんだよね。」

この学校は一部を除けば

まともな生徒ばかりだ。


3日間の謹慎が明けて

教室に戻ってきた清楚さんグループは

居場所を無くしていた。

と言っても無視されるとかではなく

何となく距離を取られるように

なっていた。

痴漢冤罪をしようとした人達と

仲良くしたいとは思わないよな。

清楚さんグループは仲間割れを

起こした後バラバラになった。

転校する者、存在感を消して過ごす者

他のグループに取り入ろうとする者

様々だ。


当の清楚さんも転校する事になった。

その前に僕と桃子に謝罪したいと

申し出があった。

またスマホで録画しながら

桃子と一緒に清楚さんと

放課後の教室で話をする。

「迷惑をかけて本当に

 すいませんでした。」

本当に謝罪だった。

「謝罪は受け取るけど

 色々聞いて良いかな?」

「はい•••」

「まず最初に何で告白したの?

 僕と桃子が付き合ってるのは

 知ってたよね?

 罰ゲーム?」

「古賀君が好きな気持ちは本当でした•••

 星田(桃子苗字)さんと仲良くしてる

 姿を見て羨ましいと思ってました。

 •••今思えば好意と言うより

 憧れだったのかも知れません•••」

「それで告白して私から

 宗次を奪うつもりだったの?」

桃子が質問する。

「奪えるとは思っていませんでした•••

 古賀君は星田さんを大切に

 してましたから•••」

「じゃあなんで告白したの?」

「周りから告白してみなよって

 言われて流されてしまいました•••

 浮かれていたのかも知れません•••」

「何それ•••

 じゃあなんで宗次に痴漢冤罪を

 かけたの?」

桃子は少しずつ怒ってきている。

当然か•••

「私は振られるのは当然と

 思っていたんですが

 皆は怒ってて•••

 何故か古賀君を懲らしめようって

 事になって•••」

「何でそれで痴漢冤罪になるのよ!

 もしかしたら宗次はイジメられたり

 退学になってたかもしれないんだよ!」

「本当にごめんなさい•••

 最初は誰かが言った冗談が

 いつの間にか止まらなくなって•••

 私も止められなくなって•••

 ごめんなさい私が弱いのが

 悪いんです•••

 ごめんなさい•••」

「何よそれ•••」

集団心理の恐さだ•••

人数が増えるほど罪悪感は

減るからな•••

あの時うつむいていたのは

演技じゃなかったのか•••

「桃子ありがとう。

 もう大丈夫だよ。」

「宗次•••」

「清楚さん僕は怒っていませんから

 転校先でもお元気で。」

「はい•••

 ありがとうございます•••

 本当にすいませんでした•••」

最後にもう一度清楚さんは

頭を下げ転校していった。


帰り道、桃子は

「さっきは怒ってたけど•••

 もし立場が違ったら私が清楚さんと

 同じ事してたかもしれないよね•••

 私は隣に宗次がいてくれたけど

 清楚さんは•••」

「どうかな•••

 同調圧力は恐いからね•••

 絶対無い!とは

 言い切れないよね•••」

「これからも隣にいてくれる?」

「そのつもりだよ。」

繋いだ手に力を込めた。


宗次と桃子は年齢を重ねても手を繋いだ。

恋愛感情だけではなく

その手を離すと自分の中の何かを

無くしてしまうような恐怖を

お互いに感じていたからだ。


         完

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