第12話 僕は勇者達と旅に出た

※今回は異世界の話です。長いです。



【この世界に魔王という存在が出現した】

 という噂が流れて一年が経つ。

昔から各地で魔物は暴れていたが

魔王が現れてから人間の国への

被害が

原因が分からず魔王が魔物を集めて

軍団を作っているのではないか?等と

噂が飛び交い人間の国は不穏な空気に

包まれていた。

その事を調査する為に王様は異世界から

勇者を召喚すると発表した。

最初は調査団を結成する予定だったが

兵士がゴッソリ減るのは防衛面で

不安が有るという話になり

この国で信仰されている女神様の導きにより

異世界からの勇者が召喚された。

名前はマエダ•ショーゴ。

ショーゴが名前らしい。

王様は

「向こうで生活があった者を無理矢理

 連れて来たのではないだろうな?

 恨まれてはかなわんぞ?」

と心配していたが神官達は

「大丈夫です。

 女神様の話では若くして

 やまいで亡くなった少年らしいです。

 清らかな心を持っていたので

 強い体と力を与えてこの世界に

 転生させたそうです。」

「そうか、ならいが•••」

そしてその少年は転生したのち

女神様から聖剣を与えられ勇者となった。


そして勇者と共に旅をする

戦士•賢者•聖女が選ばれた。

選ばれる方法は女神様から与えられた

斧•杖•首飾りが持ち主を決めるという事で

その聖女の首飾りに王都から遠く離れた

このルーナ村に住む僕ローランの幼馴染み

ディオナが選ばれた。

理由は全く分からない。

僕とディオナは幼馴染みであり

婚約者でもある。

今は二人共15で来年の16で結婚式を

挙げる予定だった。

本来なら名誉な事なのだろうが

村では何とも言えない空気が漂っていた。

ディオナもハッキリと

「行きたくない!」

と言っていた。

国からは手厚い保障が出るらしいが•••

正直僕も婚約者だし行って欲しくはない。

なので勇者ショーゴ様に

「僕も一緒に付いて行っても

 構わないでしょうか?

 下働きでも何でもしますから。」

と聞いてみると

「勿論!

 むしろ付いて来て欲しいよ•••

 婚約中の女性なんて色々と気を遣うし•••」

と言ってくれたので僕も一緒に

付いて行く事でディオナは

渋々旅に出る事を了承した。


一緒に旅に出るメンバーは

勇者ショーゴと

斧に選ばれ戦士となった

農夫のギンガさん

杖に選ばれ賢者となった

貴族のブランドールさん

そして僕達を合わせた5人だ。


旅が始まり、すぐに

「ローランとディオナは僕と

 同い年なんだね。

 なら僕の事はショーゴって呼んでよ。」

「そんな呼び捨てなんて•••」

「良いから良いから。

 これから一緒に旅をする

 仲間なんだから。」

「分かったわショーゴ。」

「ディ、ディオナ•••」

「ほらローランも。」

「ショ、ショーゴ•••

 よろしくお願いします。」

「敬語もいらないよ。

 よろしくね。」

本当に気さくな勇者様だ。


ギンガさんは僕達のルーナ村から

王都を挟んで反対側にある

ギムン村の出身だ。

筋骨隆々の逞しい体で豪快な人だ。

「おう!

 お前達も俺と同じ農民か!

 いきなり参るよなぁ!

 こんな事になってよぉ!

 まぁ平和の為なら仕方がないけどな。

 斧は木を切ったり薪割ったりでは

 使ってたけどよぉ•••

 まさか戦士になるとはなぁ•••」

「ギンガさん結婚してるんですよね?」

「そうなんだよ!

 お前らと同じ幼馴染みってヤツよ。

 結婚して子供はもうすぐ

 1歳だったんだぜ?

 祝いたかったなぁ•••

 そういやお前らも結婚式は

 来年つってたな?

 ならちゃっちゃと終わらせて

 さっさと帰ろうぜ!」

「はい!」

「そのつもりよ!」


ブランドールさんはギンガさんの住む

ギムン村辺り一帯を治める領主様の

御子息様だ。

穏やかでとても優しく偉ぶる事の無い

素敵な方だ。

ギンガさんとは幼馴染みらしい。

「小さい頃からギンガ君とは

 遊んでましたからね。

 ギムン村では一緒に農作業も

 やっていたんですよ。」

「貴族様なのに農作業を

 されてたんですか?」

「様なんて付けなくて良いですよ。

 これから一緒に旅をする訳ですから

 もっと気楽で良いんですよ。

 農作業は私の父の教えでしてね

 自分達が食べていけるのも

 農民達が働いてくれているからだとね。

 その事を忘れてはいけないって

 昔から言われててお前も泥にまみれて

 作業してみろって暫くギムン村で

 暮らしてたんですよ。」

「素晴らしいお方ですね。」

「父も若い頃は農作業したり旅に出たり

 してたみたいですよ。

 頭でっかちの貴族はつまらん!が

 口癖の人ですから。

 母も貴族じゃなく商人の家の出ですしね。

 ギンガ君は結婚してるから旅に出るの

 嫌がってましたけど僕はまだ独身ですし

 旅に出たかったので

 ちょっとだけ嬉しかったんですよね。

 魔物相手の命懸けの旅なんですけど。」

「色んな考え方が有るんですね。」

「こんな事言ったらギンガ君に

 怒られますかね?」

そう言ってギンガさんを見ると

「まぁブランらしいんじゃね?」

と笑っていた。


僕達は魔王が現れたと言われる方角に

向かい旅をした。

噂程度の情報しかないので

情報収集も旅の目的だ。

途中魔物にも遭遇したが皆の強さは

凄まじく僕も回復役のディオナも

ただ見てるだけで良かった。

なので僕はそれ以外で役に立とうと

頑張っていた。

「ローランいつも野営の準備や片付け

 してくれてありがとう。」

「お前の作る飯美味いよな。

 良い旦那になるぜ。

 ありがとよ。」

「街に着く頃には宿の手配も

 してくれてますからね。

 やはりベッドで寝るのは

 疲れの取れ方が違いますよ。

 いつもありがとうございます。」

「ローランが付いてきてくれて良かった。

 ありがとね。」

他にも旅費の受け取り

国への情報や近況の報告

皆の家族への手紙を送ったり

手紙を受け取ったり様々な仕事を

こなしながら旅を続けた。

僕達の旅は順調だった。


魔王の勢力圏に近付いてきた。

明らかに魔物の強さが上がってきている。

ディオナの回復の仕事も増えた。

そんな中で辿り着いた村は女神様とは

また違うの御加護で魔物が近付けない

安全地帯の村だった。

この村で僕とディオナは結婚式を挙げた。

ショーゴの提案だった。

「正直これから先どうなるか分からない。

 旅が終わった後、村に戻って2人は

 結婚式を挙げると言ってたけど

 無事に帰れる保証はどこにも無いから•••」

「良いと思うぜ。

 いつ死ぬか分からねぇ状況だしな。」

「勿論2人の気持ち次第ですが•••」

そう問われて

「僕は結婚式を挙げたいけどディオナは?」

「勿論したいわよ!」

と言う事で辿り着いたこの村で

結婚式を挙げる事になった。


僕達のルーナ村と同じで

とても裕福には見えない村だが

村人達は優しく僕達の結婚式の

準備をしてくれた。

「アタシが結婚式の時に

 被ったベールまだ有ったよ!」

「神父様がウチの村に滞在してくれてて

 良かったよ。」

「勇者様達が男達と狩りをしてくれて

 肉が沢山集まったね。

 こりゃ結婚式だけじゃ食べきれないよ

 保存食にも回そう。」

そんな感じで準備は進んでいった。


そして僕とディオナは皆に祝福されて

結婚式を挙げた。

僕も嬉しかったが、いつも気の強い

ディオナが泣いていた。

「ディオナ•••」

「本当に嬉しい•••

 けどお父さんお母さんにも

 見て欲しかった••••••

 •••••••

 必ず生きて帰るわよ。

 そしてルーナ村でもう一度

 結婚式を挙げるんだから。」

「そうだね。」

僕達は改めて決意を固めた。


その夜、村の人達が空き家を

貸してくれて僕達は初夜を迎えた。

ディオナは泣いていた。

僕も泣いていた。

お互いに純潔を捧げて

言葉に出来ない想いが

あふれてきて涙となってこぼれた。


目が覚めるとまだ夜明け頃だった。

隣で寝ているディオナを起こさないように

着替えてからそっと部屋を出て

そのまま何となく家を出て散歩をする。

上手く説明出来ないけど世界が少し

違って見えた。

暫く歩くとショーゴが大きい石に腰掛け

朝日を見ていた。

「ショーゴおはよう。」

「やぁ。

 おはようローラン。

 幸せそうだね。」

「お陰様でね。

 隣良いかな?」

「勿論!」

僕はショーゴの隣に腰掛ける。

「本当にありがとうショーゴ。

 何だか心が軽くなったよ。」

「それは良かった。

 死ぬつもりも死なせるつもりも

 ないけど何が有るか分からないからね。

 未練は少しでも無い方が良いよ。」

「•••ショーゴ聞いて良いかな?

 答えたくないなら答えなくて

 良いからさ。」

「何かな?」

「ショーゴは違う世界から来たんだよね?

 何か未練を残してこっちに来たの?

 •••••ゴメンこんな質問•••

 忘れて•••」

「いや別に良いよ。

 今更だし。

 僕は一度病気で死んでこっちに

 来たのは知ってるよね?」

「うん•••」

「実は僕にもローランと同じで

 仲の良い幼馴染みがいたんだよ。」

「そうだったの•••」

「僕はそもそも好きとも伝えて

 なかったけどね•••

 伝えておけば良かったと未練が

 少しだけ•••

 でも伝えてたら伝えてたで

 彼女を苦しめていたかも知れないし

 これで良かったとも思うけどね。」

「ショーゴ•••

 君は本当に凄いな•••

 思い半ばで死んでしまったのに

 そのまま異世界に来て

 勇者になれなんて•••

 そんな運命を受け入れる事

 僕には無理だ•••」

「まぁ死んじゃったのは

 仕方ないしね。

 転生して体も健康になったし

 冒険の旅も悪くないよ。

 •••命懸けだけどね。」

そう言ってショーゴは笑っていた。

彼が何故勇者に選ばれたのか

分かった気がした。


2人で戻ってくるとディオナが

カンカンに怒っていた。

「新婚の花嫁を置いて行くなんて

 何考えてるのよ!」

「ゴメンゴメン。

 良く寝てたから。」

「まったくもう!」

ディオナは頬を膨らませていた。

隣で見ていたギンガさんが

「寂しかったってよ。

 こういうの早く挽回しとかねぇと

 後が怖いぞ。」

「挽回ってどうやれば?」

「抱き締めてやりゃあ良いんだよ!」

「分かりました!」

そう言って強く抱き締める。

「まったくもう♡」

「ゴメンゴメン。」

そんな僕達を見てギンガさんと

ブランドールさんは

「羨ましいねぇ。

 俺も早くナーム(ギンガ妻)を抱きたいぜ。

 まぁ今は妊娠中だけどよ。」

「もうお腹もソシィちゃん(ギンガ娘)も

 大きくなっているでしょうね。」

「旅が始まってもう半年は経つか•••

 あっという間だなぁ•••」

ギンガさんは手紙で奥さんの妊娠を知った。

「旅立ちの前日だろうなぁ•••」

と感慨深そうだった。

「早くこの旅を終わらせよう。」

ショーゴの言葉に全員が頷いた。


村の人達に御礼をしてまた旅が始まる。

魔王勢力圏に近付くほど魔物が強くなるが

何故か穏やかな魔物も増えている。

そして立ち寄る村はどこも

結婚式を挙げた村と同じで

守られている。

どういう事だろう?


そしてとうとう魔王の住む城にやってきた。

元々は人間の国が有ったそうだが

その国は滅び城だけが残っていた。

とても魔王が住む城とは思えない

ボロボロの城だった。

「魔物は沢山いたが魔王からの刺客は

 何も来なかったな。」

ギンガさんの呟きに

「そうだね。

 魔王に敵意が無いのか

 僕達に興味が無いのか•••」

ショーゴが答える。

「城を探索魔法で調べましたが

 罠も何も無いようですね。

 •••ただ元の王の間が有った部屋に

 五名の人影が有りますね。

 探索魔法に気付いているはずなので

 こちらが来るのを待っているのかと•••」

ブランドールさんがそう話すと

「なら行ってみよう!

 ここで立っていても始まらないからね!」

「いよいよこの旅も大詰めだな!

 無事に家族の元へ帰るぜ!」

ショーゴとギンガさんがそう答える。

「ローラン•••」

不安そうなディオナの手を

「行こう•••」

そう言って握った。


ここに来るまでに強く獰猛な魔物とも

皆は沢山戦い、そして強くなっていた。

今まで苦戦していた魔物も軽く

蹴散らせる位に。

回復役のディオナも訪れた村で

大怪我は勿論。

大病や体の欠損まで治せるように

なっていた。

何が来ても大丈夫。

僕には確信が有った。

後は僕が足を引っ張らないようにしないと。


そして僕達は王の間が有った部屋に

辿り着いた。

扉を開けると玉座には僕達と同じ年齢位の

少女が座っていた。

意外な光景に僕達は固まっていると

ショーゴが一言

「カナちゃん•••?」

と呟いた。


「久し振りだねショーゴ!

 と言ってもショーゴは

 1年位しか経ってないのかな?」

「ゴメンカナちゃん•••

 状況が分からない•••」

「分からないのは俺らも同じだよ。

 この女の子はショーゴの知り合いか?」

「知り合いと言うか前世の幼馴染みです。」

「前に僕に話してくれた、あの幼馴染み?」

「そう•••

 その幼馴染み•••

 僕もなになんだか•••」

「じゃあ最初から説明するね!」

そう言ってカナちゃんと呼ばれた

女の子は話出した。


ショーゴが前世で好きだったカナさんは

同じくショーゴの事が好きだったそうで

ショーゴが病気で亡くなってからも

想いを伝えなかった後悔から

彼氏も作らず生きていたそうだが

カナさんもまた病に倒れ

30を目前にして亡くなったそうだ。

そして亡くなってからショーゴと同じ

女神様に出会いこの世界に

転生したそうだ。

「女神様に何か願いは有る?って

 聞かれたから

 もう一度ショーゴに会いたいって

 願ったらこの世界に来ていたの。

 何で魔王なのかは分からないけど•••」

「僕の方が先に死んだのに

 カナちゃんが先に転生したの?」

「そこも良く分からないのよね•••

 時間軸がズレてると言うか•••

 とにかく魔王として転生したけど

 人間を滅ぼすなんて事は

 考えてもいないから最初は

 暴れている魔物に大人しくなる

 魔術をかけて回ったんだけど

 強い魔物になればなるほど

 一体ずつしかかけられないから

 とにかく時間がかかって•••

 先に人間の住む村に魔物から

 襲われなくなる結界をかけて

 回る事にしたの。」

「ああ、途中の村はそういう事•••」

「最初は1人だったけど仲間も

 増えてきたしね。」

そこで残りの四人に目をやる。

四人も同じく転生者らしいが

全員が動物を人型と人の大きさに

したような見た目をしている。

ショーゴに教えてもらったが

鷲•竜•虎•ゴリラと呼ぶらしい。

それと全員女性だそうだ。

それを聞いて僕達が複雑そうな

顔をしていると。

鷲の顔をした女性が

「心配御無用です。

 望めば人の姿にもなれます。

 ただ我々は前世でイジメや裏切りに

 あって人間を辞めたいと思っていたので

 この姿は決して嫌いではないですよ。」

「むしろメッチャ楽ですし。」

ゴリラの顔の女性も笑う。

「私は猫になりたいって言ったんだけど

 虎になっちゃったんです。

 女神様結構雑ですよね。

 まぁ同じネコ科ですけど•••」

「本来の姿にもなれますよ。

 私は完全な竜になれます。」

「私も魔王の姿になれるけど

 久し振りにショーゴに会うから

 あの頃の私になって待ってたの。

 中身はアラサーだけどね。」

そう言って笑うカナさんに近付き

「また会えるなんて思ってなかったから

 本当に嬉しいよ•••」

ショーゴは涙を流しながら抱き締めた。

「ずっとカナちゃんの事

 好きだったんだ。

 やっと言えた。

 言えると思って無かった•••」

「ありがとうショーゴ。

 私もずっと好きだった。

 今でも大好き。

 私もやっと言えた///」

そう言ってカナさんもショーゴを

抱き締めた。


「よぉ!

 おめでとうお二人さん!

 •••ただこの後どうする?」

拍手をしながらギンガさんが

皆を見回す。

「とりあえず国に帰りましょう。

 魔王は人間への害意は無いと

 国民に伝えなければ。」

同じく拍手をしながら

ブランドールさんが提案する。

「そうね。

 帰りましょう。

 一刻も早く帰りましょう。」

「旅の終わりが予想外だったなぁ。」

僕とディオナも拍手をしながらそう答えた。


それから竜の完全体になった

女性の背中に乗って全員で

王都まで帰還する。

一年近くかかった旅の帰りは

休憩しながらでも三日で着いた。

凄い速さだ。

「こんなスピードなのに風が

 全然こないね。」

「乗ってるこの背中の部分に

 結界張ってるから。」

手を繋いだままショーゴとカナさんが

話している。

あれから2人はずっとくっついている。

離れ離れだったから当然か。

そして王様との謁見となった。


「何と•••

 そんな事が•••」

話を聞いた王様は呆然としている。

話を聞いていた大臣達や神官達の中には

「そんな話、信じられん•••」

と言っている人もいたが

カナさんが魔王形態に

他4人が亜人形態になると

流石に何も言えなくなった。

カナさんの魔王形態は

妖艶な女性の悪魔の様な姿だった。

黙って見ていた王様は

其方達そなたたちに敵意も害意も

 無い事は分かった。

 もしその気ならばこの国は大損害が

 出ていたであろう。

 逆に被害を減少してくれている事

 王として礼を言わせてくれ。」

王様は御礼を述べられた。

「して、これからどうされる?」

近くにいた大臣がカナさん達に質問する。

「私達はこれからも人を守る

 活動を続けていこうと思います。

 元は人間ですし。」

「そうか•••

 ならば我が国と魔王国とで

 和平を結ぶとしよう。」

「ありがとうございます王様!」

ショーゴが頭を下げる。

「何も起こらぬならそれが

 一番 いからな。」

そう言って王様は笑った。


今まで黙っていたギンガさんが

「王様、自分達はこの後どうすれば?」

「ちょっとギンガ君!」

ブランドールさんが止めるが

「出来るなら一刻も早く

 家族の元へ帰りたいのですが•••」

それを聞いた王様は

「そうであったな。

 凱旋パレードはまた日を改めよう。

 まずは心配している家族の元へ

 帰って顔を見せると良い。

 皆、長旅御苦労であった。」

「「「「「ありがとうございます!!!!!」」」」」

そして僕達は家に帰れる事になった。


村に戻ってからは村人総出の祝宴だった。

僕とディオナの両親も泣いて喜んでいた。

「世界が平和でもお前達がいなければ

 意味が無いだろ!

 無事に帰ってきてくれて

 本当に良かった!」

皆、同じ事を言って抱き締めてくれた。


僕達が地元に戻っている間

ショーゴとカナさん達はお城で

色々と話し合いをしていたらしい。

凱旋パレードの前に国民に事実を

公表し魔王は敵ではないと周知させる

必要が有ったのだ。

「ゴメン•••

 ショーゴに全部任せて•••」

「良いんだよ。

 皆には待ってる人達がいるからね。」

「ショーゴ•••」

「そんな顔しないで。

 今、僕にはカナちゃんがいるから

 幸せだよ。」

そう言ってショーゴは笑った。

本当に彼は勇者だと思う。


ちなみに2人は王都で色々と

楽しんではいたらしい。

「前世で出来なかった

 純潔の交換が出来て良かった。」 

「カナちゃん•••

 ちょっと声が•••」

「前世でも純潔は守ってたんだよ。」

「それはまぁ•••

 嬉しいけど•••」

そんな会話がお城に泊まった日に

隣の部屋から聞こえてきていた。

僕とディオナは顔を見合わせて

ニヤリと笑った。


盛大な凱旋パレードが終わり。

ルーナ村で僕達の結婚式が行われた。

僕達の両親は勿論の事

可愛がってくれてた村の人達も

祝福して、そして泣いてくれた。

あの冒険の旅の後だと感動も

感慨深さも尚更だ。

結婚式には旅の仲間達も駆け付けてくれた。

ギンガさんは奥さんと子供達も一緒だ。

「帰ったら二人目が無事に生まれてて

 良かったよ。

 身の回りの事も色々やってくれた

 ギムン村の人達に感謝だな。

 男で名前はエッソって言うんだ。」

「おめでとうございます。

 本当に良かった。」

奥さんや子供さんに挨拶をしていると

ブランドールさんも来てくれた。

「二人共おめでとうございます。」

「「ありがとうございます!!」」

「無事にこの村で結婚式を

 挙げられて良かった。

 私も感無量ですよ。」

「本当ですね•••

 本当に良かった•••」

「次は私の結婚式にも来て下さいね。」

「ブランドールさんも結婚するんですか?」

「相手聞いたらビックリするぜ!」

「誰誰!

 教えて!」

ディオナがこの話題に飛び付く。

「相手はですよ。」

「「へっ?!」」

「まさか私のような田舎貴族の元へ

 嫁いで下さるとは感激ですよ。」

「あの•••

 セシル王女様は王位継承権

 三位の方ですよね?

 す、凄いですね•••

 お、おめでとうございます•••」

「ありがとうローラン君。

 ただ今回の婚約で王位継承権は

 完全に放棄されましたので

 心配は無用ですよ。」

「そうなんですね•••

 色々と心配しちゃいました•••」

「本人もそういった権力争いが

 大嫌いなので喜んでましたよ。」

「まさかあのじゃじゃ馬がなぁ•••」

「ギンガさん知ってるんですか?」

「知ってるも何も俺とウチのかみさんと

 ブランと一緒に走り回ってたんだぜ。」

「セシル王女は私の従妹いとこ

 あたるんですよ。

 王妃様は私の父の姉ですから。」

「そ、そうだったんですか•••

 そんな凄い人と旅をしてたんですね•••」

「何も凄い事は無いですよ。

 まぁ王家に近くはありますが

 私が何か凄い訳ではありません。

 今回の旅で一層思いが強くなりました。

 この広い空と大地の間で

 私はただの人間なんだと•••

 皆と旅をして本当に良かった。」

「ブランドールさん•••」

「まぁ終わってみりゃあ楽しかったな。

 また行けって言われたら困るけどよ。」

隣で聞いていた奥さんが

「本当だよ!

 国から補償金はたっぷり出たけど

 子供二人いて炊事洗濯掃除やって

 畑仕事もやらなきゃならないのは

 目が回りそうだったよ。

 それなのに手紙で

 【俺が死んだら良い相手を見つけて

  幸せになれよ。】

 なんて書きやがって!

 帰ってきたら一発 ぱたいてやる!って

 ずっと思ってたよ!」

「まぁ実際引っ叩かれたな•••」

「縁起でも無い事書くからだよ!

 ローラン君もディオナちゃんに

 心配かけちゃダメだよ!」

「心に刻みます•••」

こんな会話をしている間

ショーゴとカナさんは子供達を中心に

村人達から握手•質問攻めにあっていた。


ブランドールさんとセシル王女の結婚式は

僕達の結婚式の半年後に挙げられた。

王位継承権を放棄したと言っても

王族である事には変わりないので

お城で結婚式を挙げるかどうかで

揉めていたらしい。

最終的にブランドールさんの御屋敷での

結婚式となった。

「他にも問題が色々と•••

 無事に今日が迎えられて良かった•••」

ブランドールさんは何だか

疲れた顔をしていた。

僕達庶民と違って貴族様の結婚は

本当に大変そうだ。

「この半年程はお前らの噂を

 よく聞いたぜ。

 頑張ってるみたいだな!」

ブランドールさんの肩に腕を置き

ギンガさんが褒めてくれる。

この半年程はショーゴとカナさんと

僕達夫婦で色んな村を回っていた。

ショーゴが魔物を倒し

カナさんが魔物除けの結界を張り

ディオナが村人の怪我や病気を治す。

この活動は民衆から非常に人気が有り

勇者と魔王と聖女が一緒に行動する事で

民衆の不安を消す効果が抜群だった。

「王様からも褒めていただきました。

 [未知の者達を恐れるのが人間だが

  自分達に被害が無ければまぁいと

  思うのもまた人間よ。

  ましてや自分達に有益なら

  なおのことよ。]

 と仰っていました。」

「俺も付いて行きたいが三人目が

 出来ちまってなぁ•••

 まぁやる事やってりゃあ当然か。」

隣にいた奥さんに背中を叩かれていた。


セシル王女からセシル夫人となった

ブランドールさんの奥さんは

お城でお会いした時はとても静かで

綺麗な方だと思っていたが

「ブランにい

 やっとブラン兄のお嫁さんになれたよ!

 夢が叶ったよ!

 ブラン兄も嬉しいよね!

 ねぇ!」

「も、勿論嬉しいですよ•••

 ただ皆の前ですのでもう少し•••」

「ここには僕達しかいないよ!

 今まで会えてなかったんだし

 これからはずっと一緒にいられるよ!

 凄く嬉しいよ!

 ブラン兄も嬉しいよね?」

「も、勿論です•••」

想像していた方とかなり違った。

「あれで人形姫にんぎょうひめなんて

 噂になってたなんてな•••

 素を知ってると信じられんよな•••」

「お城じゃあ色々と有るんだろうね•••

 自分を押さえ込んで

 喋らないようにしていたら

 人形姫なんて呼ばれてさ•••」

「自分の事も【僕】って呼んでるの

 懐かしいな•••」

「ギンガにい!ナームねえ

 これからまた沢山遊べるよ!

 楽しみだなぁ!」

「セシル•••

 2人は忙しいですから•••」

「いや構わねえよ!

 また沢山遊ぼうぜ!」

「ご飯食べにおいで!」

「やったぁ!

 行く行く!」

「二人共ありがとうございます•••」

ブランドールさんは涙ぐんでいた。

セシルさんは公的行事は完璧にこなすが

普段の天真爛漫な姿のギャップが評判になり

王女様の頃より人気が有るらしい

世の中分からないものだ•••

まぁ庶民を見下す貴族よりは絶対良いよね。


それからも僕達四人であちこちを回った。

魔王勢力圏に近い場所から魔物除けの結界を

張っていった。

カナさんいわく

「魔王勢力圏と言うより

 元々強い魔物がいる場所に

 私が魔王として転生したのよね。」

「女神様が世の中を平和にする為に

 僕達に力をくれたのかな?」

「正直女神様の思惑は分かんないね。」

「最初は聖女の力なんて余計な事

 しやがってと思ったけど

 今ではこの力で沢山の人を

 救えるしね。」

「力はそのまま残ったけど

 誰も悪用してないからね。

 そういう人だから選ばれたのかな?」

ギンガさんもブランドールさんも

自分達の領地を中心に戦士と賢者の力を

人助けに使っていた。

王様は

「民の為になるならその力存分に

 振るってくれ。

 ワシより人気が有るようで

 心配しておる者もおるが

 国が平和なら王など飾りで

 良いからのう。

 民あっての国よ。」

そう言って王様はニヤリと笑った。


「でもさ僕はローランも凄いと思うよ。」

「えっ。

 僕は何の力も無いよ。」

「ううん、そんな事ないよ。

 勇者とか魔王とか言われてもさ

 僕らは人間なんだよね。

 食事も睡眠もするし心理的な事は

 何も変わらないんだよ。

 最初の旅の時から身の回りの事や

 手続きなんかの事務作業も

 全部やってくれて、それがどれだけ

 助かるか•••」

「ローラン君はめっちゃ優秀な

 マネージャーだよね。」

「マネージャー?」

「執事みたいな職業だよ。

 ローランは旅の日程とか

 宿の手配とか他にも色々

 見えないところで頑張って

 くれてたからね。」

「ローランが一緒にいてくれて良かった。

 私が聖女に選ばれたのは

 ローランも込みなのかもね。」

「な、なんだか照れるな///」

「これからもよろしくね。

 もう一人の勇者様。」

「よ、よろしく•••

 恐れ多いよショーゴ!」

その後も僕達は笑いながら旅を続けた。


そして数年後、国中が平和になった時

勇者と優しい魔王の結婚式が

王都で盛大に挙げられた。


         完

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