第5話 妻の為に出来る事

これは結婚1年目の俺達夫婦に起こった

ある出来事である。


俺・健一けんいちと妻・真綾まあやが出会ったのは

中学生の頃、某ロボットアニメが

好きな事で意気投合して

友達となり恋人となり

そのまま結婚した。


新婚の今も二人で並んで新作を観ていた。

「主人公が女の子の時点で驚いたのに

 女の子同士で婚約なんてたまげたなぁ。」

「前作TVシリーズが火星だったから、

 今作は水星なのかな?

 次は木星だったりして?」

「木星はジ○ドーが行ってるだろ?」

「そう言えばシロ○コも

 【木星帰りの男】

 って呼ばれてたよね。」

「まさかパプ○マスが名前で

 シロ○コが苗字とは

 思わなかったなぁ•••」

「何でサ○だけパプティ○スなんだろう?」

学生の頃から何も変わらない

取り留めの無い会話。

俺はこの時間が今も昔も大好きだ。

しかし真綾の様子がいつもと違う。

少し暗い顔だ。

おかしいと思い

「どうしたの?何かあった?」

と聞くと真綾は言いにくそうに

「あのね•••」

と語り出した。


真綾の話ではつい先日、働いている会社での

昼休み女子達との会話の中で恋愛話に

なった時に

「男性経験は今の旦那しか無い」

と言う事を話しているのを女子社員全員から

嫌われているセクハラ上司に聞かれて

しまったらしい。

それからしつこく

「他の男を知らないのは人生の損だよ。」

と声をかけられる様になったそうだ。


「二人で飲みに行こうとか誘って

 くるんだよ•••

 本当に嫌になるよ!」

「今の時代にそんなヤツがまだ

 いるんだな•••

 ちょっとビックリしたよ。」

「親族経営だから上司になれたような

 人だから全然仕事も出来ないし•••

 本当に最悪だよ!」

「ゴメン。

 もっと早く気付いてあげられなくて•••」

「健ちゃんは悪くないよ!

 私も心配かけたくなかったから•••

 黙っててゴメン•••」

「いや、悪いのはその無能上司だよな•••

 親族経営って事は上に報告しても

 駄目そうだな•••」

「うん•••

 多分揉み消されるんじゃないかな?

 ただ仕事でも色々トラブル起こして

 上も頭抱えてるって噂は聞いたけど•••」

「まぁ優秀有能な人間が既婚者に

 手を出そうとはしないよな•••

 リスクが高すぎるし。」

そうして二人で考える。そして

「まずは情報収集だな。」

と言う結論に至った。


色々調べていくと本当にろくでもない

人間だという事が分かった。

自分も既婚者でありながら真綾以外にも

既婚者に声をかけていた。

幸い誰も相手にしていないみたいで

被害者はいないようだが

「統計では既婚者も二割から三割の人が

 浮気経験が有るらしいよ。」

等と不愉快な理屈をこねながら

近付いてくるらしい。

勿論、真綾も言われたそうだ。

「私は浮気も不倫もした事無いけど•••

 健ちゃんはした事ある?」

「有るわけ無いだろ。

 風俗も行った事無いよ。

 大体俺達いつも一緒にいるだろ?

 そもそもその統計も怪しいもんだし

 仮に本当だとしても残り七割位は

 してない訳だからな。」

「そうだよね•••

 健ちゃんがそう言ってくれて良かった!」

「あの無能上司は自分が浮気願望が

 有るからそんな統計を持ち出すんだよ。

 自分も奥さんに浮気されてるとか

 思わないのか?」

根拠も無く自分は大丈夫だと思う所が

無能上司の無能たる所だな•••

そんな事を考えながら情報を出し合う。

真綾は会社内部からだが

俺は同じ業界の友人達から情報を

集めていた。

この友人達も同じアニメ好きの仲間だ。

無能上司は同業者からもとにかく

嫌われているらしく友人いわく

「仕事出来ないくせにマジで偉そうに

 してるんだよ!

 何も分かってないくせに説明が悪いとか

 対応が悪いとかふざけてるよ!」

別の友人は

「色んな所で女性に声をかけてるらしいぜ

 娘婿のくせによくやるよ•••」

「えっ!あいつ婿養子なの?!

 それであんな好き放題やってるの?!」

「ああ•••

 何でも親同士が決めた結婚らしいから

 夫婦仲はすこぶる悪いそうだ。

 ただあの性格なら恋愛結婚は

 無理だったかもな•••」

「それであんなにがっついてるのか•••

 まぁそれでも既婚者や彼氏持ちに

 手を出そうとするのはギルティだな。」

そんな感じに情報が集まってきた。


そしてある日真綾が暗い顔をして

「今度の週末、無能上司と出張に行く事に

 なっちゃった•••」

「何でそんな事に?」

「またあの無能上司が取引先怒らせて

 その謝罪に付き合わされる事になったの。

 いつもは他の人に謝罪を押し付けるのに

 今回は自分で行くから私も付いて来る

 ようにって。」

「アイツいよいよ実力行使に出たな•••」

「どうしよう•••

 もう会社辞めちゃおうかな•••

 でも一緒に働いている人達は

 良い人達だから職場は

 変わりたくないなぁ•••」

「辞める必要は無いよ。

 辞めるのはあの無能上司の方だよ。

 そして上層部にもお灸を据えてやろう。」

「何をするの?」

「まぁ今度の出張は俺もこっそり

 付いて行くから心配しなくて

 大丈夫だよ。」

「分かった。

 頼りにしてるね。」

そして俺は仲間達と計画を練った。


出張先は隣の県だった。

日帰りでも行けただろうにわざわざ

街中の良いホテルを予約していたそうだ。

勿論部屋は別だが目的が分かりやす過ぎる。

こんな風に会社で好き勝手出来るのも

今日で最後だ。


取引先の会社で頭を下げる真綾の横で

無能上司は不貞腐れたような顔を

していたらしい。

真綾が何とか取引先を宥めて

その場は収まったらしいが•••

本当にどうしようも無いヤツだ。

にもかかわらず慰労会をやろうと

言ってきたそうだ。

しかも二人きりで•••

こんな目眩めまいがする程の馬鹿が上司にいる

真綾達が可哀想過ぎる•••

真綾には

「後でお店に行きます。」

と返事をしてもらい

その後は部屋で待機をお願いした。

そして仲間達と計画を実行する。


【この先、人によっては不快な

 表現が有ります。御注意下さい。】



無能上司は呑気に繁華街を歩いている。

そして人通りが少ない路地に入った瞬間

仲間達と飛びかかり口にガムテープを貼り

目隠しをして体もグルグル巻にして近くに

停めていた車に押し込む。

そのまま走り出し仲間の一人が所有する

倉庫に連れて来た。

体は拘束したまま目隠しと口の

ガムテープを外す。

覆面をした俺達の姿を見て

怯える無能上司。

しかし虚勢を張り

「何だお前達!

 これは犯罪だぞ!」

と叫ぶ。

「お前、状況分かってるか?」

俺はそう言いながらスタンガンを

押し当てる。

バチチチッ!

「ギャアッ!!」

汚い悲鳴を上げ無能上司が転げ回る。

「お前は色んな人間から恨みを

 買ってるな?

 俺達は依頼されたんだよ。」

そう答えながら体の色んな場所に

スタンガンを押し当てていく。

その度に「助けて!」「許して!」と

命乞いをする無能上司。

「心当たりが有るなら言ってみろ。」

とボイスレコーダーを起動し問いかける。

すると出るわ出るわ

横領に始まり、下請け業者への恐喝や

おとなしい女子社員へのセクハラそして

強○未遂(何とか逃げたらしい)

さっきも思ったが本当に

世の中どうしようも無い人間はいるな•••

無能上司の指先にスタンガンを

当てながらしみじみ感じる。

最後に

「今日はこの後、何をするつもりだった?」

との質問に

「会社の部下と食事に行く予定です!」

と叫ぶ。

「その相手は女か?」

「はい!

 女です!」

「二人きりでか?」

「はい•••二人きりです•••」

「相手は既婚者か?」

「•••はい。

 既婚者です。」

「お前は既婚者に手を出そうと

 してたのか?」

「はい•••」

「相手の事や、相手の家族の事は

 考えなかったのか?」

「その女性は今の結婚相手しか

 男性経験が無いと言っていたので•••

 他の男も知った方が良いと

 思いまして•••」

それを聞いて再び側頭部に

スタンガンを押し当てる。

バチチチッ!

「ギャアアッ!!

 スイマセンスイマセン!!」

「相手からしたら大きなお世話だろう?

 そもそもお前は自分の結婚相手を

 満足させられてるのか?

 夫婦仲はかなり険悪だと聞いてるぞ?」

「スイマセンスイマセン!!」

「まぁ良いそろそろ計画に戻ろう。」

そう言いながらバッグから薬を取り出す。

海外から取り寄せたバイ○グラ的な薬だ。

それを無能上司に飲ませる。

「安心しろ。

 元気になる薬だ。」

そう言って再び目隠しをして車に乗せる。

そして繁華街に戻る道中で

「喉が渇いただろう?

 まぁ飲めよ。」

と言い瓶ビールを口に当てる。

耳元でスタンガンをバチバチさせながら

こぼしたら•••

 分かるな?」

無能上司はコクコクと頷くとビールを

飲み出した。

大瓶2本を飲ませると繁華街に到着した。


監視カメラも人の目も無い路地裏で

無能上司のガムテープを全部剥がし

服も脱がせて全裸にする。

見たくもないが股間が完全に勃○してるのを

確認して刃物を取り出し

呆然としている無能上司に向けて

「○されたくなければ走れ。」

と静かに告げると無能上司はビクッとして

慌てて走り出した。

そして週末で人が溢れる繁華街の本通りに

飛び出していく。

「うわぁっ!なんだコイツ!」

「キャアアアアアッ!変態!」

「警察呼べぇ!」

「良いぞぉオッサン!

 もっとやれぇっ!」

「大したモノじゃないわね•••」

「キャハハハハハッ!ウケるぅ!」

「イヤァァァッ!最低!」

「○んじまえ、このクズ!」

「早くネットに上げようぜ!」

突然現れた

【全裸で股間をフル○起させて走る男】

に街もネットも騒然となった。

当然すぐに警察が駆け付け

取り押さえられたが必死に

「違うんだ!

 覆面をつけた男達に

 走れと言われたんだ!」

と釈明していた。

しかし口からはアルコールの臭い

股間はずっと勃○したままの男の

言い分など通る訳もなく手錠をかけられ

パトカーに押し込まれていた。


俺は近くの公園の茂みに無能上司の

服とビール瓶を投げ込み匿名で警察に

「茂みから男が裸で飛び出してきました。」

と通報しておいた。

警察がすぐに茂みから回収した服の中から

無能上司の身分証を見つけ真綾達の会社は

大騒ぎになった。

そしてマスコミとネットによって

無能上司の悪行が次々と暴露されていき

真綾達の会社の上層部は

世間からの猛クレームと

マスコミからの糾弾により

経営から退かざるを得なくなった。

外部から新しい経営者を引き入れた会社は

前より風通しが良くなり働きやすくなったと社員達は喜んでいるらしい。


そして騒動が落ち着いてから迎えた休日

「ブラ○トがな•••

 お前は野生の虎だって

 おっかながっているんだよ•••

 お•••おかしいだろう?」(激似)

「健ちゃんのリ○ウ•ホ○イのモノマネ

 何回見ても似てるぅ!

 最高!」

「ハハハハ!

 御謙遜ごけんそん御謙遜ごけんそん。」(激似)

「ヒィーッ!

 もう許してぇ!

 もう笑ってる!

 もう笑ってるからぁ!」

真綾が学生時代から大好きなモノマネを

披露していた。

そして落ち着いた頃に会社の事を

聞いてみる。

「もう真綾達の会社は元通り•••

 と言うより前より良くなったんだな。」

「うん!

 あの無能上司がいなくなったから

 皆のびのび仕事して業績は前より

 上がってるよ!」

「本当にアイツは会社の

 ガンだったんだな•••」

今まで横柄な態度を取られていた

下請け業者や取引先とも前より

良い関係を築けており

襲われそうになり休職していた女子社員は

事情を知った家族が凄腕の弁護士を雇い

無能上司は親族諸共、裁判でメッタメタに

されたらしい。

無能上司は様々な罪で刑務所に送られた。

最低でも干支は一周するそうだ。

当然無能上司は離婚になったが

「元々奥さん他に好きな人がいたんだって。

 それが政略結婚で無理矢理あの男と

 結婚させられたんだけど必死に貞操は

 守ってたらしいから噂では一度も

 エッチしてないんじゃないかって

 皆が話してたよ。」

「今ちょっとだけアイツに同情した•••

 まぁだからって既婚者に手を出したり

 強○が許される訳無いけどな。」

「風俗には行きまくってたみたいだよ

 大きい声で自慢してたし。」

「夫婦仲が良いのは幸運なんだな•••」

「そうだね。

 これからも仲良く生きていこうね

 健ちゃん!」

「ああ。

 これからも宜しくな。」


それからあっという間に時が経ち

俺にソックリな息子と

真綾にソックリな娘が生まれた。

俺達夫婦と違い子供達は外で遊ぶのが

大好きでよく公園や広場で遊んでいる。

俺達はいつも手を繋いでベンチに座り

そんな子供達を優しく見つめていた。


         完

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