第6話 隣を歩く君へ

俺、龍太郎りゅうたろうには大切な女の子がいる。

今日も一緒に登校している

近所に住む幼馴染みの結愛ゆあだ。

結愛は物心ついた時には隣にいた。

今も昔もずっと笑ってくれている。

おっとり優しいその笑顔が大好きで

中学生の頃に告白した。

「結愛の事が大好きだ。

 これからも隣で笑っていて欲しい。」

「ウフフ。

 私も龍ちゃんが大好きだよ。

 これからもよろしくお願いします。」

その日から恋人になったが

恋人になる前もなった後も変わらず

二人並んで歩いた。


学校につくとクラスにいる不良っぽい

生徒達が嫌な目でこちらを見てきた。

この高校は決して偏差値が

低い訳ではないのに何故か

こういう生徒がいる。

その嫉妬や嫌悪•侮蔑とも違う説明出来ない

嫌な目が気になり昼休みその不良達が

集まる場所の近くで隠れて

会話を盗み聞いた。


「同じクラスにいるいつも笑ってる

 あの女、何とかヤレねぇかな?」

「強引にイケば落とせそうだよな。」

「いや告白も全部断ってるって聞いたな

 フラれてキレたヤツが襲いかかったら

 隠れてた男が取り押さえたとか。」

「あのいつも一緒にいる男か?

 彼氏なのか?」

「ああ幼馴染みらしい。

 家が道場とかでかなり強いらしいが。」

「真正面からは厳しいか•••」

「この人数で闇討ちすればイケるか?」

「それか女が1人の時を狙って襲うか?」

「それがあの女ポヤッと見えてかなり

 警戒心が強いらしいぞ。

 それとあの男がいつも

 一緒にいるらしい。」

「何とか1人の所を襲って動画を撮って

 脅せば後はどうとでもなるだろ?」


反吐が出るような話だ。

結愛は昔からこういった輩に

狙われやすい。

小学生の頃、近所の変質者に

誘拐されそうになったり

中学生の頃、俺と付き合い始めてすぐ

家庭教師の男に

「男に慣れた方が彼氏も喜ぶよ。」

と口説かれたり散々だ。

変質者は俺が石で頭を

滅多打ちにして撃退したし

家庭教師は結愛がすぐに俺と結愛の両親に

報告して派遣先と大学に猛クレームを入れて

家庭教師も大学も辞めさせた。


結愛はおっとりしてるが

肝が据わっていて、変質者の時は

「助けてくれてありがとう!」

と喜んでいたし、家庭教師の時は

「彼女が他の男と関係持って

 彼氏が喜ぶ訳ないじゃない!」

と怒っていた。


今回もこのクズ共には地獄を見てもらう。

色々計画を考えながら結愛にはアイツらに

気を付けるよう言っておいた。

情報収集していくとアイツらは今まで

イジメやカツアゲなど様々な

悪さを行っており、かなりの恨みを

買っているそうだ。

そしてこの高校に通える位には

頭が回るらしく、あまり証拠を

残さないらしい。

今回の結愛を襲う計画も色々と小細工を

してくるだろう。

こうなるとこっちは小細工より

一気に攻める方が良いか•••

等と考えながら道場で鍛錬していると。

師匠である父が

「何か迷っているな?」

と問いかけてきた。

「はい、どうすれば結愛を守れるか

 考えていました。」

「そうか•••

 いつも言っているがやるからには

 徹底的だぞ。」

「はい、そのつもりです。」

「中途半端な攻撃は身の破滅を呼ぶ。

 いつの時代も同じだ。」

「はい、心に刻んでいます。」

「うむ、なら良い。」

ウチの道場は総合武術を名乗っている。

体術•武器術だけではなく兵術•拷問術等

様々な分野を網羅している。

現代のスポーツ格闘技とは別物の

正々堂々なんて言葉から遠い所にある

生き残る為の術なのだ。

「強い者が勝つのでは無い

 勝った者が強いのだ。

 勝てば官軍、負ければ賊軍

 昔からの言葉だ。」

父の口癖だが全くもってその通りだ。

守れなければ意味が無い。

変質者を投石術で追い払った時も

結愛を守った事は褒められたが

トドメを刺さなかった事は叱られた。

警察から逃げ回っていた変質者は

父から追い詰められ橋から落下し

水○体となって見つかった。

警察は事故として処理した。

口説いてきた家庭教師は拷問術で

精神を崩壊させられた。

大学を退学したショックで

おかしくなったと片付けられた。

やり方次第でどうとでもなると

父は教えてくれた。

「今回は自分でやってみます。」

「うむ。

 何か有ればすぐに相談するように

 力を借りるのは恥ではない。

 負けては何の意味も無いからな。」

「はい、ありがとうございます。」

早速、行動に移すことにした。


【ここから先、暴力的な表現が有ります。】


色々考えたが一番シンプルな作戦にした。

リーダー格の不良を人目のつかない場所で

1人の時に襲撃する。

そしてどこにでも売っている

カッターナイフでを切り裂いた。

ただそれだけだ。

勿論証拠を残す事は無い。

すぐに現場を離れる。

後ろで悲鳴混じりの絶叫が聞こえる。

この後はしばらく様子見だ。


次の日、学校は大騒ぎになった。

校内でも目立っていた不良グループの

リーダー格が襲撃されたのだ。

色んな噂が飛び交う。

当然、警察も捜査するがリーダー格は

あまりにも恨みを買い過ぎていた。

調べれば調べる程に悪行が出てくる。

とうとうリーダー格の親が捜査中止を

願う程だった。

残った不良グループも壊滅状態となった

次は自分だと家に引きこもる者や

学校に来ても前の様な格好ではなく

一般生徒としておとなしく暮らす者

別人の様に勉学に励む者。

様々だった。

学校は平和になり俺はまた安心して

結愛との毎日を満喫していた。


ある夜、俺の部屋の布団の上で

結愛と裸で抱き合っていた。

「ウフフ。

 初めて龍ちゃんにあげちゃった///」

「痛くなかったか?」

「大丈夫。

 好きな人なら嬉しさが勝つから。」

「そういうものか?」

「そういうものだよ///」

そして再び強く抱き合う。

「今回も助けてくれたんだよね?」

「まぁリーダー格をやったのは

 俺だけど•••

 まさかこんな事になるなんてな•••」

あれから事態は俺の予想以上の

展開になっていた。 


今まで不良グループに被害を受けた者達が

一斉に牙を剝いたのだ。

リーダー格の家はすぐに拡散され

最初の頃は誹謗中傷のチラシが貼られたり

石を投げ込まれたりしていたが、

とうとう家の中にまで暴徒が入り込み

リーダー格は家族諸共血祭りにあげられた。

逮捕された1人は中学生の頃に酷いイジメを

受けており家から出られなくなっていたが

リーダー格襲撃の情報を聞き外に出て

リーダー格の家に石を投げていた所に

同じような被害を受けていた者達と知り合い

この事件を起こしたらしい。

何故両親や弟まで襲ったのかという

取り調べに対し

「あんなヤツをこの世に生んで育てたんだ

 やられて当然だ。

 弟もアイツと同じでイジメを

 やってたんだコイツもやられて当然だ。」

と答えたそうだ。

実際に弟も中学校でイジメをやっていたので

まぁそういう家族なんだろう。

同情は出来ない。

近所の人の証言では

「漫画版デ○ルマンの最後を見てる

 気分だった。」

と答えていた。

不良共は群れる事で自分達が強くなったと

勘違いしていたようだが、今度は被害者達が

集まり集団心理により暴走し始めていた。


不良グループの他のメンバーも次々と

襲撃されバットや鉄パイプで滅多打ちにあい

一生車椅子や寝たきりの生活になっていた。

部屋に引きこもっていた者は家に

火を着けられ自宅から飛び出て来た所を

待ち構えていた者達に襲われて

言葉をマトモに喋れない体にされたらしい。

火はすぐに消され周りの家に被害は

無かったそうだが•••

自分の思っていた以上の成果に

驚いていたが結愛は

「私を守る為だから嬉しいよ。」

と言ってくれたし父からは

「最小の力で最大の成果を出す、見事だ。

 松明一本で城を焼き落としたな。」

と褒めてくれた。


不良グループが壊滅した後も結愛には

次々と変な男が寄ってきたが全て排除した。

その間も結愛はずっと隣にいてくれた。

ずっと笑っていてくれた。

「ウフフ。

 龍ちゃんいつもありがとう。」

「気にするな。

 俺はその為に生きているんだ。」

2人のいつものやり取りだった。


それから時が経ち、結婚して子供が生まれ

孫が生まれ、ひ孫も生まれた。

そして最期の時がやってきた。

力を振り絞り声を出し病室に結愛と

二人きりにしてもらった。

「龍ちゃん!龍ちゃん!」

俺の手を握りながら結愛が叫ぶ。

年を取っても結愛は可愛いなぁ。

そんな事を考えながら少しずつ

意識が薄れていく。

最後の最後で俺も詰めが甘いな。

結愛の泣き顔は見たくなかったのにな。

初めて結ばれた時も、結婚式の時も

子供達や孫達が生まれた時も

涙は流しても笑顔だったからなぁ。

「ゆあ•••」

俺の最期の言葉だった。

その夜、俺は初めて結愛を泣かせた。



半年後 墓前にて孫達の会話


「お祖父ちゃんが亡くなってすぐ

 お祖母ちゃんも亡くなるなんてね•••」

「いつも2人一緒だったからね•••

 追い掛けて行っちゃったんだよ。」

「本当、羨ましいよね。

 今も2人で天国を歩いているのかな?」

「間違い無く一緒にいると思うよ。」

そう言って見上げた空には

一緒に歩く2人を表すような

飛行機雲が流れていた。


         完

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