第16話 巨大ロボ


 頭痛ってぇぇ……


 二日酔いを一週間続けた時くらいの怠さ。

 久しぶりの魔力切れの感覚。

 体が急速に外に魔力を求めている。


 その流れに頭が追い付かずに、痛みと酔いを併発する。


「あああああああ」


「枕に唸るの癖ですよね」


「わんわん」


 10番エリアの攻略。

 巨人の打倒。シリカの撃退。

 そしてスキルの進化とレシピの獲得。


 昨日一日で色々あった。


「御粥、作って来ましたよ」


「ありがとう」


 食べ物と飲み物をレイが運んできてくれる。


 うめぇ。

 このまま一生この生活で終わらないかな。


「ふぅ……ちょっと楽になって来た。

 にしても……」


 けど、一番の出来事はどうやら俺が気絶した後にあったらしい。


「父さんからの依頼か……」


 渡された書類。

 それに書かれた依頼内容は『護衛』。

 新型のクラスデバイスの移動を護送するという物だ。


 Sランク上位。

 ランカー使用のハイスペックデバイス。


 上位探索者の持つスペックやクラスレベルでなければ、起動する事もできない特別な物らしい。


 だが、Sランクの能力を飛躍的に向上させるこのデバイスを狙う組織も多い。

 それこそ、犯罪を犯してでも手に入れたいと願う勢力も書類内で予想されている。


 それをクラスデバイス製造会社『カンナギ』本社から迷宮機構に移送する。

 その護衛が俺の仕事だ。


「さて、どうすっか」


 受けるか受けないか。

 ではない。


 どうやって守り切るかという話だ。


「断っても良いと私は思います」


「桂にやらせるとか言い兼ねないだろ。

 それに断れても、父さんが困る」


 家族だ。

 守るのに。

 力になるのに。


 特別な理由は必要ない。


「一度失敗した方が、父君の為という考え方もありますよ」


「それは俺が勝手に決める事じゃ無いだろ」


 誰かを故意に失敗させる。

 それがその人物の為だなんて。

 そんな上から目線の説教に事実的根拠は多分無い。


 大して人生経験があるって訳でも無い。

 24のガキの感情に真実も間違いもない。


「父さんは父さんが反省したくなった時に勝手に反省すればいい。

 誰だってそういうもんだ」


 だから、俺はただ叶える。

 家族の願いなんだから。

 そういうもんだ。


「……そうですか。

 では、新たな力についても研究しておきましょう。

 幸い、護送される日付は一週間後です」


「あぁ、そうだな。

 これは正直、今までの力とは格が違う」




 ◆ 機体『鋼鉄巨兵』製造可能。




「体調は大丈夫ですか?」


「あぁ、問題ないよ」


 ダンジョンに入り、巨人の残骸を回収して来た。

 昨日の戦闘。あの一度だけで俺の【傑作人形製造クラフト・スペリオドール】は新たなレシピを発見した。


「造るか」


「はい」


 他の機械生命体シリコクルスの素材と合わせて、俺の操る機体として製造していく。


 頭頂高13メートル。

 重量35トン。

 魔力供給の関係で稼働時間は約10分。

 俺の魔力残量によってはもっと減る。


 超兵器。


「……こいつは、今までの兵器とは規格が違うな」


「えぇ、どう見ても全性能が私よりも高い」


「しかもこいつ【鉄土の五役兵メタロ・パーティー】の対象に選べないし」


 【鉄土の五役兵メタロ・パーティー】は俺が作った人形を5体まで操るスキルだ。


 しかし、この巨人は巨大過ぎて【鉄土の五役兵メタロ・パーティー】が使える『人形』としての規格を超越してる。


 同じ理由で【魂宿の形代ソウル・カタシロ】の遠隔操作も使えない。

 そもそも指示される機能が無いのかもしれない。


「私が入るか。

 もしくはクロウが乗り込むか、ですね」


 幸いと言うか、操縦機構は存在していた。

 こいつの心臓部に乗り込む事で、飛行機の数倍の難易度でだが操縦を行う事はできる。


「いや、現実的じゃないだろ」


 今からこいつの構造と操縦方法を理解する?

 一週間後の仕事に間に合う訳が無い。


「では、私が乗り込みます。

 クロウは【魂宿の形代ソウル・カタシロ】で官制を」


「いや違うだろ。

 管制なんて機械のお前の得意分野だ。

 俺が操縦桿でレイが管制。

 それがこいつの力を最も引き出せる方法だ」


 それに、操縦桿からの魔力供給なら伝達ロスはほぼゼロになる。

 稼働時間も多少は伸びるだろう。


「しかしそれでは……」


 俺が乗り込むという事は、機体の破壊が俺の死に直結する。

 それをレイは危惧してる。


「でも、探索者ってのはそういうもんだろ?」


 誰だっていつだって、皆命賭けだ。

 俺だけが後ろで見ていたのは、無力という言い訳があったから。


 今、こいつや【魂宿の形代ソウル・カタシロ】を手に入れて無力とは呼べない力を得たのなら、俺はもう見てるだけじゃ居られない。


「俺も戦う。戦いたい。

 レイ、力を貸してくれるか?」


 この機体の操縦の難易度は高い。

 けれど、レイと共同で操作すればその難易度はかなり下がる。


 操作の難しい場所の細かい補正や調整をレイに任せる事ができるからだ。


「さて一週間で、何処までできるか」


「それに、私達の弱点に関しても考慮する必要があります」


 そうか、次の仕事は外での物だ。

 この氷の大陸とは環境が違う。

 機械生命体シリコクルスの弱点の事も頭に入れて置かないと。


「てか、それなら一度別のダンジョンで戦力チェックしておくか」


「えぇ、それでよろしいかと」




 迷宮№【8451】

 迷宮種別【レイドダンジョン】

 迷宮ランク【B】

 識別名【小鬼の王国ゴブリン・キングダム

 エネミー系統【ゴブリン系】


 日本のレイドダンジョンの中では『登竜門』と呼ばれるそのダンジョンに、俺たちは挑んでみる事にした。

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