第6話 雷鳴轟く氷の大地
なんもねぇ。
それが、レイと共に2時間程この世界を調査した感想だった。
「なんだこのだだっ広いだけの空間は……」
氷の大地。
青い大空。
以外の景色が何も無い。
地形の凹凸や氷山地帯の様な場所、渓谷の様な割れ目とかもあった。
だから、何なんだよ。
「なんでなんもねぇんだよ。
観光しに来てんちゃうぞこちとら」
魔物も一体も出てこないし。
「いえクロウ、それは違います。
ここは間違いなくダンジョンですよ」
「え?」
「我々が現在の活動した範囲は約15k㎡。
直線距離にして4km弱の正方形です。
後方は無限の海。
前方と左右は結界に覆われています
そして前方に二カ所、左右にも二カ所所づつ。
結界の奥へ侵入可能な入り口が存在します」
まるで、敢えてこちらを誘う様な如何にもなゲートが。
と、レイは静かに続けた。
「恐らく今居るこの空間は【
ダンジョンには一切魔物が湧かないエリアが存在する事がある。
例えば女神像付近。
例えば聖なる泉の傍。
例えば聖光の燭台の灯が届く範囲。
そこでは探索者は魔物の脅威から一時的に解放される。
休息、物資の確認、怪我の手当。
そんな様々な問題を解決できるスポット。
それが
「こんなだだっ広い空間がか?
見た事無いぞ、こんな巨大な休息所なんて」
「通常よりも広大な
それは……レイドダンジョンに
「はい?
いや待て。
待て待て」
手を翳してレイを制する。
レイドダンジョン?
レイドダンジョンってのは最難関迷宮だ。
最高難易度のダンジョンだ。
発生する確率は極めて低い。
「そもそもレイドダンジョンってのはかなり特徴がある
まず、異界その物の大きさが通常のダンジョンよりも大幅に広大だって事と……」
あれ?
「……次に、数百以上の魔物と探索者が同時に戦闘可能なだけの見晴らしの良い地形が存在する……事だけど……」
ん?
「合ってるわ」
「はい。9割以上の確立で、この迷宮はレイドダンジョンです」
あぁ、どうやら最悪を引いたらしい。
ガチャで言えばノーマル以下。
宝くじで言えば、一等当てたけど強盗にあったくらい。
「俺等ソロだぞ……」
そもそもレイドダンジョンは数十数百の人数で攻略する代物だ。
スパークルトーチだってそれぐらいの人数でやってた。
俺には頼れる友人や仲間は居ない。
スパークルトーチを首になった時に殆ど奴とは縁が切れている。
今更白夜に頼むなんて論外だ。
って事は俺一人でここを探索しなければならない。
嫌な汗が流れる。
「心配ですか?」
レイの青い
表情のない機械の顔で。
それでもその目は、俺に語りかけていた。
「心配だけど俺の心配はすんな。
諦める選択肢はねぇよ」
「それでこそクロウ、我が創造主です」
俺は桂や母さんに期待されてる。
俺はレイに信頼されてる。
俺が自分を燃やす理由なんて、それで十分だろ。
「行くぞ。
威力偵察としゃれこもう」
「お供します。クロウ」
六択で俺が選んだのは右側の右の入り口。
選んだ理由は気分だ。
電流が流れる四角形の柵。
その一点に開いた5m正方形の門を潜る。
「やっと出やがったらしいな」
「敵影、目算300体。
更に奥に居ると思われ、推定1300体」
ゾロゾロとその場を歩く機械の人形。
レイの姿とそっくりの
数の差は圧倒的。
敵個体のランクはB相当。
俺のハニワはCだし。
最大戦力であるレイは敵一体と同じ。
勝ち目、ゼロだろマジで。
けど、何故か落ち着く。
この様な状況、何度も経験している。
大勢の仲間が居なくとも、レイは居る。
何を言葉に出すべきなのか、直観的に理解できた。
「可能な限り、撃滅してやれ」
即座にレイから返答が帰って来る。
「了解。
変わりませんね」
「何が?」
「いえ、確かに貴方は人形師です」
その言葉の意図は分からない。
けれど、今話している余裕はない。
「戦闘を始めるぞ」
「了解しました」
俺とレイの声が重なる。
「「【
アームズに登録していたハニワが計8体。
その場に出現した。
レイが、ただ心を持ちその記憶を引き継げる人形というだけならば、そんな物は愛玩具と変わらない。
俺がレイを相棒と呼ぶ理由。
それは当然、性能だ。
もちろん気の合う奴だとも思っているが、迷宮攻略にそれは重要ではないだろう。
レイは……厳密には
端的に言ってしまえばレイは、クラスデバイスと接続され
共鳴が響く。
「「【
「「【
指に発生した人形。
その数は俺とレイを合わせて20体。
一発づつ放たれるその全性能が3倍される。
レイに関して言えば、人形が一時的に雷を宿しているのが見えた。
あの肉体が持つ電撃の機構が指にハマった人形に魔力的にリンクして、属性を付与しているのだろう。
そして、付与された電力は当然3倍だ。
3倍になった射程で指人形が敵へ向かう。
爆ぜる爆炎は自爆効果も相まって5倍以上の威力を生み出す。
流石の機械生命体も無傷とは行くまい。
「行けハニワ」
「行きなさい」
俺達の指示に従い8体のハニワが駆ける。
2体の盾持ち片手剣士は俺とレイの前。
その間に衛生兵。
騎兵と斥候は敵に突撃させる。
「【
俺の力は剣士へ。
「【
レイの力は騎兵へ。
攻撃と防御。
二つの力が3倍になる。
「守れ」
「攻めなさい」
【
が、レイが居ればその限りではない。
二体のハニワから青い魔力が溢れる。
過剰魔力供給状態、俗にいう魔力暴走。
騎兵から溢れる光の筋が、機械の群れへ突撃し。
剣士から溢れる光の膨張が、機械の放った電撃を受け止めて行く。
機械の腕は電撃の砲台。
自分達の電撃に味方を巻き込む事を嫌ったか、接近戦闘を仕掛けて来る個体は少ない。
『ピピピピピピピピピピピピ』
機械たちの鳴き声が響く。
響く中で騎兵が暴れている。
その槍はちゃんと敵の装甲を貫いている。
その光景を俺とレイは【
一分の経過。
直後、騎兵と剣士が青い魔力爆発を起こす。
「レイ、やるぞ」
「はい、クロウ」
――【
――【
二つの強化スキルが、
短刀を構えるハニワの青い魔力奔流が、赤い稲妻の様に変化する。
超過魔力暴走。
二つの【
巨人と戦った時、最後の爆発の瞬間はレイもこの状態だった。
まぁ、制限時間も三分の一になるからその輝きは本当に一時ではあるのだけれど……
斥候は騎兵の馬の後ろに乗って突っ込ませていた。
騎兵の爆発と共に上空へ跳ねたそれは、
メラメラと――魔力の炎が揺らめき、燃ゆる。
バチバチと――赤い電雷が
青い垂直の一刀は氷の大地を穿ち。
青い魔力が大地に流れ、爆ぜさせる。
超過魔力爆発――その範囲は直系百メートルを優に超えていた。
数十、いや百以上の
それを確認し、俺は新たなスキルを発動する。
今日の為に態々【
「【
アームズから召喚された形代が5枚。
投げると、それは浮遊して今しがた残骸と化した敵に付着していく。
死体に取り付いた形代が、俺の意志通りにその体を動かす。
このスキルは、倒した敵を一時的に俺の人形にする。
「【
レイもそれを使い、10体の
青い瞳で起き上がる。
けれど、こっちもハニワを3体失っている。
人形への魔力供給は全て俺から行われる。
それはレイが使ったスキルに関しても同様だ。
特に
こいつは対象の魔力の3倍を要求する。
ほんとは連発していいスキルじゃない。
魔力が、持たねぇ。
くらくらしてきやがった。
「クロウ、手を」
差し出される手を俺は取る。
「あぁ、悪いな」
「何を言っているのですか。
私はこの為に存在しているのです」
手が惹かれ、体が抱き寄せられ。
そして、浮いた。
レイは俺のスキルを使用できる。
それにはパッシブスキルも含まれる。
Bランク相当の機械の身体。
そこに加わるのはレベル
圧倒的な速力を持って、敵が放つ数百の雷撃を掻い潜る。
その間に操っていた
しかし敵の方が圧倒的に数が多い。
9体の
それでも、まだ一体。
敵陣の真っただ中。
中央に配置された
「これで最後です。魔力は持ちますか?」
「当たり前だ……
俺を誰だと思ってる。
直、日本一の探索者だぞ……」
霞む意識を抑え込み、強がりを宣って。
フッと笑ったレイと共に、俺は残った最後の一体に手を向けて魔力を流し込んだ。
「「
最初にあれと対峙した時、奴が最後に見せた自爆技。
あの
「見て下さい、クロウ」
レイの動きが止まった。
揺れが収まった俺は顔を上げる。
青い大地。
青い大空。
その堺に、大樹の様にも見える赤いプラズマの爆風が顕現していた。
先の斥候の爆発の比では無い。
放電の威力と範囲に超過魔力爆発を加算。
その上で全性能、つまり放電量が9倍化。
数百メートルに及ぶ放電は、周囲の
「これが私を作った貴方の力です」
「違うさ。これはお前のお陰だ」
努力はいつか必ず報われる。
けれどそのいつかが訪れる条件は、努力量でも不幸量でも無く。
幸運の女神が微笑む事だ。
俺にとっての、その女神の名前は――
「レイ、お前を作って良かった……」
「被造物として、それはこの上無い言葉です。
私も貴方が創造主で良かった。
我が主、クロウ……」
魔力を使い過ぎた俺は、その言葉を聞くと同時に意識を失った。
◆クラスデバイス情報更新◆
【
武装『雷撃砲』製作可能。
武装『雷光剣』製作可能。
武装『ジェット推進機』製作可能。
視覚機能『赤外線カメラ』製作可能。
魔力機構『赤雷』製作可能。
機械の解析が進みました。
スキルの熟練度が上昇します。
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