第5話 裏ダンジョン
翌日。
俺は部屋で考えていた。
昨日戦った敵の感じを見るに、その単体性能はB±と言った所。
それが大量に出て来る事を想定すると、やはり俺の力で太刀打ちするのは難しい。
レイが万全なら余裕だが、無い物ねだりは意味が無い。
俺は一月ほど使っていなかった自分の能力を正確に思い出す。
◆◆◆
デバイスクラス「人形師」
PS(パッシブスキル)
【ブースト――
【アームズ――
【アーカイブ】
AS(アーツスキル)
第三段階【
第四段階【
第四段階【
第五段階【
第五段階【
第六段階【
SS(サブスキル)
第三段階【
【インベントリ――
◆◆◆
文字に起こすとこんな感じだろうか。
パッシブは常時発動スキル。
後ろの数字はその
パッシブもアーツの様に肉体に適合するにつれて効率化されていく。
アーツはクラス固有のスキル。
極めるほど進化していく。
だが、これはどの様な条件で進化するのか明確な所は分かって居ない。
クラスによっても違うと言われてる。
サブスキルは、セットされていないスキルだ。
この状態では使えないが、別のスキルと入れ替える形でセットすれば使用できるようになる。
インベントリは物を収納するスキルだ。
その容量はアームズが指定できる武装の召喚量よりも多い。
しかしアームズは装備を即召喚できる。
戦闘中にインベントリの内部を頭に思い出し、必要な物を指定してスキルを使うのは必要な
だから、殆どの探索者はアームズを使う。
俺には頼れる仲間は居ない。
桂じゃ裏ダンジョンは無理だ。
というか高校生を巻き込めない。
そしてレイ無しの俺は弱い。
ならばどうするか。
昨日の戦闘で一つの案が閃いた。
そもそもレイを再生造する為に必要な目標金額。
3億円の半分は転写装置の値段だ。
レイの記憶が保管された媒体。
ビー玉の様な記録保管媒体。
それをインストールし、正常に機能させる為に必要な素材。
生物の記憶情報を転写する機能を持つ【魂写の水晶】が1億円以上するのだ。
だが、昨日回収した機械の残骸。
日本のダンジョンと探索者を管理し『アーカイブ』の情報元でもある迷宮機構が【
その構造には魂写の水晶とほぼ同じ役割の機構が存在した。
「人の記憶をコピーするんじゃ無くて、レイの残した記憶媒体の情報をインストールするための触媒だからな。
それ現物である必要はねぇ訳で……」
というかそもそも、この
この機械をバラしてみてそれを理解した俺は、ぶっ壊した事で足りて居なかったパーツを
幸い、これを生物として成立させている重要パーツ部分は硬い内部装甲でガードされていて無事だった。
機械の知識なんて殆ど無い。
全てが一からだった。
全てが試行錯誤だった。
そうして組み立て直したのだ。
【
それは俺の人形を製造するスキル。
指人形の弾丸もハニワも、レイも……
全部これで作った。
素材をドールに組み替える能力だ。
目の前の素材をドールに活用する方法が何となく頭に浮かび、それを即座に実行できるという力のスキル。
そんなご都合な人形師の力。
なのに、それをもってしても……
「まさか、丸1カ月もかかるとはな……」
俺のスキルとの互換性の把握。
機械弄りに必要な技術の習得。
やる事は死ぬほどあった。
だが、レイが蘇るなら俺は何でもできた。
「ピピ」
ブリキの迷宮最奥。
ブリキの兵士はまだリポップしていない。
伽藍洞のスペースと異界門だけがある。
起動の儀式はそこで行った。
周囲にはハニワを配置。
俺も指人形を構える。
もしも、それがレイでは無かった時、即座に破壊できるように。
「ピ――」
目が開いた。
元々赤かった瞳の光は青く変わっている。
その単眼が俺を見た。
「貴方は……クロウ……?」
元々、
少しだけ電子的に聞こえるエフェクトが混ざり。
けれど確かに、その空気感は……
「レイ……か?」
「はい。私はレイ。
貴方の人形に宿る、心」
あぁ、間違いない。
これは俺の愛棒であり、俺が最も信頼する俺の人形。
「思ったより早い帰りだったな、レイ」
「……えぇ、そうですね。
ただいま、クロウ」
全盛期のレイとは程遠い性能。
けれど、それは間違いなく。
あの時俺が自壊させたレイの心を宿す人形。
だから、俺は謝罪をする。
「悪かったな」
「いえ、貴方は正しい事をした。
今、私はこうして蘇ったのですから。
貴方は私も、そして仲間も助け切った。
貴方の行いは、結果的には大正解ですよ」
いつも、お前は俺を認めてくれるな。
だから、母さんに心配されたりすんだろ。
「別に、お前と結婚する事なんかねぇよな?」
「なんですか急に。
それが指示ならそうしますが」
「あ、いや何でもない。
忘れてくれ」
「忘れる、という機能が私にはありません。
ですがそうですね、事ある毎に弄りましょう」
「やめれ、俺が恥ずか死ぬ」
「それはマズいですね。
では、定期的にという感じで」
……変わんねぇなこいつ。
そもそも、前の美少女の姿とは違う。
今のこいつは
メタリックな肌に毛は一本も無く、その表情は豆や卵の様な楕円形だ。
欲情する要素なんて欠片も無い。
見た目に可愛げも欠片も無い。
そんな奴と結婚なんかする訳がねぇ。
「また俺を手伝ってくれるか?」
「当然です。私は貴方の人形なのですから」
「じゃあ、まずはこのダンジョンを攻略するのを手伝ってくれ」
「了解」
二文字の返答。
疑問の余地のない当然の事である様に。
それは、レイがはっきりと自信を持った様な返答。
頼もしい限りだ。
「よし、裏ダンジョンを攻略するぞ」
「えぇ、行きましょう」
俺はレイと共に、意を決して裏ダンジョンへ続く異界門を潜った。
◆
「さぶぶぶぶぶ」
「アームズで防寒具に換装して下さい」
「うん、ぞうずる……」
大地が青い。
青い空がある。
青に挟まれたその世界。
南極や北極に近い環境のこのダンジョン。
『氷の大地』の上に俺達は降り立った。
「これが、機械生命体の迷宮か……」
「クロウ、あれは何でしょうか」
何より目立つのはその陸のずっと先。
空に浮かぶ巨大で丸く、白い何か。
月の様だが、月よりはずっと低空に飛んでいるしサイズもずっと小さい。
「さあな、なんだろ。
知るには、調べて見るしかないな」
「そうですね。何処か惹かれる所のある不思議な物です」
惹かれる?
まぁ、確かに立派か。
世界遺産を見てる時的な感覚がある。
「探索、始めるか」
「そうですね、始めましょう。
私と貴方、二人の冒険を」
澄ました表情で彼女はそう言う。
っても、表情はそんなに変わんないけど。
声も澄ましてるしな。
「そうしたら結婚するかもしれませんね」
「マジで俺が悪かったからさ。
お願いだから口に出すのやめてくれませんかねレイさん。
いや、レイ様」
「さて、どうしましょう?」
機械的な棒読みでそう言うレイ。
お前そんな低機能じゃねぇだろ。
レイは俺が作った機械の心だ。
しかしその生物性、思考能力のレベルは人間に勝るとも劣らない。
だから、主である俺を揶揄うなんて事ができるわけだ。
ハニワじゃこんな芸当は不可能だろう。
「じゃあもっと私を強くして下さい。
次は、あの巨人に勝利したいので。
そうすれば、もう弄りません。
……少ししか」
そう言った声は微笑気味だ。
その言葉に俺は応える。
「当然だ」
と。
「行くか」
「はい」
人類が初めて入ったこのダンジョンで、俺とレイは2人だけの冒険を始めた。
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