第4話 対機械生命体
その門は、少なくとも俺がこのダンジョンに通っていた時は無かった物だ。
ダンジョンの内容が変化する。
そんな前例が全くない訳でもない。
この現象にも思い当たりは一つある。
多重構造ダンジョン。
通称、裏ダンジョン。
ダンジョンの中に異界門が存在し、それがまた別の
「近づくな桂」
「う、うん……」
俺は手で少し離れた場所の桂を制す。
俺の危機感を感じ取ったらしい。
桂は自分のデバイスを取り出していた。
裏ダンジョンは、表のダンジョンよりも強力な魔物が生息する。
つまり、この先は少なくともブリキの迷宮よりは上位のダンジョンである。
確認しなければならない項目が一つある。
ダンジョンには、発生時に少量の魔物を外に出すという機能が存在する
もしもこの異界門が今発生した物なら。
――その中よりモンスターが発生する可能性がある。
その時、黒いゲートの中から青い光の筋が発射された。
「アームズ!」
桂がパッシブスキルを叫ぶ。
瞬間その手に
光りの筋は、剣の腹に受け止められた。
が。
「なっ? うぁぁぁあああああああああ!」
それは雷だったのだ。
電流が剣を伝う。
桂の体に雷が流れ込んだ。
「ッチ! お前等、桂を守れ!」
叫ぶと同時にハニワたちが動き始める。
騎士と斥候が身を挺して桂の前に出る。
衛生兵がその傷の治療を始めた。
俺の修繕と違い、衛生兵のスキルは人体にも有効だ。
剣士には俺をガードさせる。
桂の状態は大火傷だ。
全身に高圧電流を浴びたのだ。
ただで済む訳が無い。
「大丈夫か桂!?」
「に、兄さん……ごめん」
ブーストによる身体強化。
そして剣で直撃を流した事。
加えて衛生兵の回復能力。
意識もある。
死に値する傷じゃない。
「心配するな。俺に任せとけ」
違うだろ。
謝るのは俺の方だろ。
俺が連れて来たんだ。
俺が必ず守るという
レイの時と同じ。
俺のしょうもない感情のせいで、俺の大事な物が傷ついている。
レイとギルドメンバー。
弟とプライド。
俺は選択を間違えてばかりだ。
「ピピピ、ププ、ピピピピ」
それは異界門より現れる。
ブリキとは違うメタリックな体。
スラリとした体躯。
右腕には大砲の様な機構がある。
どうみても、機械の類。
そのシルバーのヘルムの中央の一眼が赤い光を放っている。
詳細不明。
アーカイブ未登録。
初見のモンスターだ。
「テメェ、誰の弟に手ぇ出してんだ」
言葉が通じるかどうかなど知らない。
知った事では無い。
言わなければ気が収まらないのだ。
「ぶっ壊してやるよ、クソモンスター」
スキルで召喚した人形を敵に向ける。
――
追尾誘導性。発射速度。
旋回能力。爆発力。
その全性能は3倍になる。
けれど、指人形という弾丸なら実質的にデメリットは無い。
今まで使わなかったのは、単純に使う必要が無かったからだ。
「来いよ」
睨みつけたその瞬間、砲撃が俺を向く。
「ピピ」
短い電子音。
次の瞬間、雷光が射出される。
「そんなモンかよ、雑魚」
その雷光は俺のハニワ剣士の盾が受け止めた。
――
青い魔力を迸らせ、ハニワは俺の前に立つ。
ここからが、俺が出せる正真正銘。
――本気だ。
「行っけ!」
両手の十本の指より小型の人形が射出される。
機械の魔物はその砲を俺に向け乱射する。
けれど、その全てをハニワの盾が弾いた。
バラバラに発射された人形。
それは誘導能力によって円を描く。
囲い込む様に機械へ向かった。
雷の砲撃は強力だが、それだけだ。
回避性能は大した事は無い。
人形全てが着弾し、連続的に爆破させた。
爆破の煙の中、まだそいつは狂ったように砲撃を撃つ。
撃ち続ける。
ハニワ剣士を接近させ、ボロボロのその身体に更に剣を刺し込んだ。
「ピピピピピピピピピピピピ!!!」
けたたましく電子音が響く。
まるでそれは危険を知らせている様だ。
「ビビビビビビビビビビビビ!!!」
瞬間、その体が放電した。
しかしハニワの材質は粘土。
雷に対しての耐久性は高い。
流石に無傷という訳には行かない。
が、ハニワ剣士はまだ稼働している。
そして、そろそろ一分経つ。
轟くような爆音が迷宮全体に響く。
【
人形の全性能を3倍にする力。
それは俺の人形への魔力供給も3倍する。
その魔力を暴走させて起こした魔力爆発は、指人形の比じゃ無い。
確かに俺は選択を間違えた。
だけどそのまま、間違いのまま終わらせる気はさらさらねぇ。
エネミーの息の音が完全に止まる。
それを確認した俺は桂に駆け寄った。
「桂っ! 大丈夫か!?」
「はは、大丈夫だよ兄さん。
やっぱり兄さんは、僕なんかじゃまだまだ及ばない位、凄く強いや」
ハニワ衛生兵の治癒は効いてる。
火傷も殆ど跡も残らず回復できそうだ。
「……そんな事ねぇ。
俺は追い出されたんだから」
「追い抜くよ僕の兄さんは。
だって僕の兄さんはかっこいいから」
そう言って、こいつは何処までも笑う。
「だからさ、部屋に籠る必要なんて無いよ」
「……お前、まさかそれを言いに着いて来たのか?」
「へへ、僕はまた兄さんが活躍してる所が見たいから」
手が自然に頭を掻く。
桂は俺の弟だ。弟が俺に期待してる。
じゃあ兄貴は、どう答えるのが正解だ?
やっぱり俺には、かっこつける以外の選択肢が思いつかねぇや。
「任せとけ。お前の兄貴は日本一の探索者になる男だ」
高校の時も母さんに啖呵切ったらしいし。
俺は中二病って奴なのかもしれない。
けど、まぁそれでもいいだろ。
「はは、じゃあ皆に自慢しよっと」
薄っすらと開いていた目が閉じる。
その身体を抱えると寝息が聞こえて来た。
疲れさせちまったな。
異界門はもう反応してない。
異界門出現直後の魔物発生は小規模が常。
終わったと見て間違いないだろう。
桂をおぶる。
裏迷宮の調査、新迷宮の報告。
レイの復活。
そして『日本一の探索者になる』か。
「やる事多すぎだろ……」
まぁ、やってみるか。
残ったハニワに倒した機械の死体を回収させて、俺たちは帰路へついた。
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