第17話 ファンタジーvsメカ


 青空の下、俺たちは暗い青色の鉄に覆われた巨人を見上げている。


 二足歩行の人型機械。

 前衛的な構造で胸の部分は乗り込む構造の為に少し張っている。

 とは言え、そこは人間的では無く三角に突出している感じだ。


 腕や足は、機動力を持たせる意味で細めに作った。

 頭と顔は人間に近いが、当然毛髪の類は無いしかなりメタリックな外見だ。


「俺今からこれでモンスターと戦うのか……」


「化物の加減で言うとこちらの方が上ですね」


 右手機構は音響波ボイスキャノン

 左手機構はプラズマシールド。


 これ等は外部兵装では無く腕部の機構だ。

 つまり、武器として持っている訳では無く腕のパーツ自体に内臓された能力。

 武器を捨てても素手で使用できる。


 右手装備は雷撃剣を大きくした「レーザーブレード」が。

 左手装備は光線銃の技術で作った「ライフルガン」だ。


 これらはアームズのスキルによって腕毎取り換える事ができる。


 このサイズの巨人を【螺子巻き修繕リバース・リペア】で修復するのは現実的じゃない。

 だから、パーツが破壊された時はアームズで入れ替えて修復する事になる。


 装備の種類は片腕三種づつあるが、今は割愛しよう。

 魔力機構には『赤雷』が入っている。


 赤外線カメラを取り付け、真下と真上意外の全方位の映像を確認できる様に幾つか搭載されている。


 現在装備は消費魔力量:並み。

 重量:並み。

 そんな標準的なパラメータだ。

 別の兵装を付けるとこれが代わって来る。


 背面及び肩とくるぶしにジェットを取り付け、直角とは行かないまでもドリフト的な軌道を実現。

 飛行も多少ならできるが、数十秒に一度は地面に着地してジェットを冷却する必要がある。


 ただ装備種類はこれ以上増やせない。

 アームズの圧迫具合がヤバい事になってる。


 俺のアームズはレベルテン

 デバイスにおける最高レベルだ。

 なのに、今はぎちぎちになってる。

 巨人を入れたらもう何も入らない。


 人形師の俺にとっての武器とは人形だ。

 けれど、この巨大ロボを始め動物型の機械。

 それにレイの体。

 その他俺でも使える銃の類。


 なのに、もうこれ以上は増やせないところまで来てる。


 とは言え、戦力が増加したのは事実。

 ここを実験場として今後の装備を分別して行こう。



 レイの補助のお陰で丸一日である程度は操作は掴めた。

 二日目はその感覚を元に微調整を行った。

 より初心者向けにした感じだ。


 ブレードとライフルって時点で察しだな。

 他の兵装は使うのは結構難易度高くてまだ得意じゃない。


 三日目もちょっと練習して今に至る。


「予約した時間って何時だっけ?」


「14時30分です。

 なので後1時間ほどですね」


 ダンジョンに入って直ぐの入り口。

 俺たちは突っ立っている。

 珍しい事だが、俺たちの先に予約が入っていたのだ。


 レイドダンジョンはその要求戦術故に、幾つものチームやギルドが混在しない様に管理されている。


 当然だ。

 相手は群れで行動するのだ。

 知らない奴等と乱戦なんてとんでもない事になる。


 だから予め迷宮機構に申請して予約を取らなければらなない。

 俺も間切経由で予約を取って今ここに居る。


 因みに、このダンジョンが人気な理由には例外的なリポップスピードが関係する。


 通常のダンジョンは魔物を倒してから新たに発生するまで24時間程の時間がかかる。

 ボスの場合は数カ月。


 だが、この【小鬼の王国ゴブリン・キングダム】は3時間。

 ボスが湧くまでにたったそれだけの時間しかかからない。


 だから予約すればいつでもレイドダンジョンを味わえる。

 という事で、レイドダンジョンに挑み始めの様な新興ギルドに人気のダンジョンなのだ。


「さて、前の奴等の調子はどうだ?

 ってか全く見えんけど」


 レイドダンジョンは広大である。

 入り口から戦闘風景が見える事は稀だ。

 この【小鬼の王国ゴブリン・キングダム】もそれは同じ。


「どうやらかなり押されている様ですね」


 けど、レイの視覚補正なら見えてるらしい。


「だよなぁ……」


 何も見えんが頷ける。


 だって……

 俺達の予約した時間が14時30分。

 現在時刻は13時25分。


 リポップまで3時間かかるのだ。

 なのに、1時間前になっても戦闘が終わって居ない。


 つまり、予定通りに行ってないって事だ。


「間切が前の予約、朝8時とか言ってた」


「と言う事は、5時間以上継戦しているという事ですね」


「流石にきつそうだが、大丈夫か?」


「負傷者多数。

 重傷者数名。

 戦闘中の探索者が40名程。

 重傷者が居る為、逃げる事もままならないようです」


「……そうか」


 ダンジョンでは良くある話だ。

 人が死ぬ事も。仲間を見捨てられない事も。

 そして、決断の末に全てを失う事だってある。


 ――大が助かる為に小を犠牲にしても良い。

 ――全てを助ける為に全霊を尽くしても良い。


 俺は前者を選んだ。

 そして失敗した。

 けれど、後者を選んでいても結局失敗していたと思う。


 誰だって、何を選んでも、死ぬ時は死ぬ。


「行くぞ、レイ」


「どうしてですか。

 全く見知らぬ誰かですよ」


「それは、死んで良い理由にはなってない」


 今度は誰も犠牲にしない。

 俺は後者を取る。

 今ならそれを成し遂げられるだけの【強さ】があるから。


「了解しました、クロウ。

 それが貴方の願いならば

 【魂宿の形代ソウル・カタシロ】。

 管制開始」


 倒れたレイの体をアームズに直す。

 巨人の胸にあるコックピットが開く。


 俺はその中に乗り込んだ。




 ――魔力供給開始。


 ――ロック解除。


 ――武装接続完了。


 ――メインモニター、点きます。



 俺の視界にも挑戦中の彼等が見えた。

 コックピットの全方位はカメラ映像と連動している。


 モニターに拡大映像が写された。

 確かに状況はレイの言う通りらしい。


 これを操っているのはレイだ。

 本来は操縦士が自分でカメラを操作する必要があるが、レイに補正させている現在それは必要な。


 【小鬼の王国ゴブリン・キングダム】は草原と森林の空間。

 その中央にある集落規模のゴブリンを全滅させる事でクリアとなる。



 ――推進器点火。


 ――出力上昇。


 ――飛行開始。



 一瞬でカメラが景色を置いて行く。


 瞬間最大時速600kmを越える。

 今の俺にとってこの程度の距離は無いに等しい。


「なんだこいつは!?」


「ユニークエネミーか……?」


「いやでも入り口の方から飛んできたわよ」


 一瞬で探索者たちの居場所まで辿り着く。


「レイ、マイクを入れてくれ」


 思念操作でそう伝えると、俺の声が周囲の人間に届く。


『危機と見て駆け付けた。

 救援は必要か?

 要らないのなら邪魔はしない』


「喋った……?

 モンスターじゃないのか?」


 男はリーダーだろうか。

 周囲の人間がその男に任せる様に視線を投げている。


 二本の直剣を持つ剣士。


『俺は探索者だ。

 だが今はそんな話をしている余裕は無い。

 問に答えろ』


 もっと言えば敬語や礼節をおもんばかっている余裕も無い。

 非常事態。緊急を要する状況だ。


「助けてくれるのか?

 小鬼共に毒矢を受けた仲間が十人居る。

 動けないし、運ぶにしても前線を維持しながらは無理だ。

 この状況をどうにかできるのか?」


『問題ない。

 お前達は怪我人を運んで退却しろ。

 前線は俺が維持する。

 良く、持ち堪えた』


 俺の声にリーダーらしき男の表情が歪む。

 それは安堵や喜びの感情では無く。

 それは、不出来な自分を悔やむ顔。


『先輩として言わせて貰うが。

 その顔ができるなら、お前はリーダーに向いてるよ』


 そう言い残し、俺は操縦を再開する。



 ――照準完了。撃てば当たります。



 ビームライフルの引き金を引く。

 照準補正はレイが完璧にしている。

 光線に偏差は無く、弾速は超速だ。


 外れる可能性は無い。


「レイ、アーカイブと連動して敵大将を捕捉しろ」



 ――既に完了しています。



 照準がそれに向く。

 確か【ゴブリンキング】なんて呼ばれるレイドボスだ。

 その足を射抜く。


 殺しはしない。

 散った雑魚が面倒だ。

 だが大将の動きを止めれば進軍速度はかなり抑えられる。

 前線維持もやりやすい。


「【鉄土の五役兵メタロ・パーティー】」


 巨人に乗っていてもスキルは使える。

 召喚した五種の機械。


 『ジャック』

 『ジェットホーク』

 『エレファントライ』

 『マナライトディア』

 『ムーンベア』


 そいつ等に探索者たちの警護をさせる。

 特にジェットホークの空からの視界は有益だ。

 これ等は常に情報還元によってレイに視界情報や音声情報を共有している。


 俺一人では管理しきれない情報群だが、今のレイなら容易にそれを処理できる。


 引き金を引く。


「ギャ!?」


「ギャギャギャ」


 ゴブリンの悲鳴が響く。


「$%#)!+{#?*&」


「$%#)!+{#?*&」


「$%#)!+{#?*&」


 杖を持ったゴブリンが詠唱を始めている。

 魔術系の能力。


 遠距離攻撃かつ集団攻撃。

 レイドダンジョンでは、このような集団的な戦術能力の高い技能ほど強力な傾向がある。


 だが。



 ――無駄です。



 プラズマシールド展開。

 これは数秒間だが全方位からの衝撃を吸収する。


 魔法は全て掻き消える。


 そしてライフルの狙撃が魔術を使ったゴブリンを射抜いていく。


 赤外線センサーを搭載しているこの機体は、森の影や木々の中に隠れたゴブリンも見落とさない。


 10メートル以上の頭頂高を持つこの機体でも、敵を正確に倒せる。





 時間は大して掛からなかった。

 最初から相手になる存在では無かったのだ。

 倒したゴブリンの数は千数百体。


 だいたい1時間程度で倒しきった。


「ギ――」


 最後に残った【王】は憎しみの籠った視線で俺を見る。


 その頭に雷撃剣を突き刺した。

 ゴブリンの全長を優に超える剣は、その体を飲み込んで消滅させる。


「実験としては十分か」


 ――えぇ、これが今の貴方の力です。クロウ。












 次の日、とある一本の動画がネットに上がった。


 そのタイトルは……



『【急募】レイドダンジョンをソロで撃滅するSF人形の正体は』


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