第14話 覚醒



「「【鉄土の五役兵メタロ・パーティー】」」


 顕れるのは10匹のジャッカル。

 それらには全て『魔力充填マナ・チャージ』『光線銃』『音響波ボイスキャノン』が装備されている。


 『魔力充填マナ・チャージ』は装備された武装に対して効果を上乗せできる、パッシブスキルの様な物だ。

 『赤雷』と同枠で、どちらかしか装備できない。


 魔力充填マナ・チャージの効果は魔力収束。

 ビームや音波等の収束率を引き上げ、攻撃力と貫通力を強化する。


 持ってる希少素材的にギリだった。

 もう壊れてもこの機能は修復できない。

 しかしこれで、ジャッカルも真面な戦力。


「「【骸宿の形代ネクロ・カタシロ】」」


 浮遊した形代が残骸に貼り付く。


 開幕の一撃で全力を使ったのはこれを使う為。


 効果時間は数分。

 上位種程の魔力抵抗だと1~2分。

 レイを合わせて同時操作上限は10体。


 されど、その間だけ上位種だってこのスキルで操作できる。


 獅子レオ大赤牛ボア大青鹿ディア

 大黒象エレファント大紫鷲イーグル大白熊ホワイトベア

 改変蛇ヴァイパー×4体。



 配下とする全ての機械へ命令する。



「行け」


「行きなさい」


 ジャッカル含め全20体の使役獣。

 その全てを敵に向かわせる。

 今日は防衛と攻撃を入れ替えた。


 レイが俺の傍で、俺を守る。

 だから、他の護衛は必要ない。


 ヴァイパーを多めに操ったのは、そのハッキング能力で更に配下を増やす為。


 俺とレイも『改竄針拳銃ハックニードル・ガン』で敵を撃つ。

 その針が刺さった相手を強制ハッキング。


 その機体を一時的に配下にし。


 勢力を拡大する。


「押し潰すぞ、レイ」


「はい、クロウ」


 出し惜しみは無し。

 その言葉に偽りは無い。

 それは魔力消費を度外視して、敵を撃滅するという意志。


 赤雷指人形パペット・エレキショット

 突端超過暴走オーバーストライク・ポイント

 鉄土の五役兵メタロ・パーティー

 骸宿の形代ネクロ・カタシロ

 機械仕掛けの心メタルハート=レイ

 光線銃。改竄針拳銃ハックニードル・ガン


 例外なく、全ての力の源は俺の魔力だ。


 魔力消費が増えれば気力が摩耗する。

 体も動かなくなっていく。

 意識その物が保てなくなる。


 だが、気合で耐えれば何のことは無い。

 理論上、体内魔力が0になっても死ぬ訳じゃない。


 だったら、後衛職なりに踏ん張ってやるさ。


 ジャッカルや他の機械に対しての命令。

 それは思念操作で可能だ。

 クラスデバイスを通して、スキルを発動したりレイと話したりする感覚と同じ。


 けど、同時に命令する対象が10体以上ってだけ。


「合わせましょう、クロウ」


「あぁ、任せろ」


 レイとの連動。

 作戦の共有を行う。

 それに沿って、ジャッカルと形代で操作する配下を動かす。


 遠方より全体を視認できる場所に俺達が陣取っているからこそ、彼等の動きに統率力が生まれ、それは敵機たちの連携を越える戦術能力になる。


 しかも、ジャッカルたちが全員遠距離攻撃持ちなのも強い。

 魔力充填マナ・チャージの併用により貫通効果もある。

 その光線は制御され絶対に誤射しない。


 しかも、敵からすれば絶対に今は止めて欲しいと願うタイミングと場所、角度のピンポイントを攻撃できる。


 それに改変蛇ヴァイパーの噛みついた機械が、俺達の配下に加わっている。


 それは改変蛇ヴァイパーの形代が切れるまでの時間のハッキングではあるが、それでも味方が急に攻撃してくるという現象に機械たちの動きはあからさまに動揺している。


「機械にも仲間意識があるのかね」


「いえ、あれはプログラムに無い行動にエラーを起こしているだけです。

 少なくとも通常種に、人間の様な心の概念は在りません」


「その物言いだと上位種は別って事だ」


「はい。獅子を始めとしたエリアボスは会話可能なレベルの知能を有していました」


 獅子レオと話したとレイから聞いている。

 その後に声を掛けて来た【シリカ】という存在の事も。


 だが、そのシリカ本人が自分を『敵』と言ったらしい。

 それなら、甘い事は考えられない。


 敵なら倒す。

 それだけだ。


 当然、その眷属に関しても同様に。


『ワン!』


 犬の遠吠えが十個重なる。

 その口から発生するのは音の波動。


 収束された振動は、獅子のプラズマシールドを貫通する。


 どうやら、あのシールドは振動までも完全に防がないらしい。

 レイと会話可能。

 その時点で推測されていた弱点だ。


 予想は当たった。

 獅子も楽に処理できている。


「ジャッカルでも集まれば上位種とやり合えるな」


「えぇ、この分なら雑魚の相手は問題ないでしょう」


 上位種ですら、雑魚と言い捨てるレイの表情は何処までも澄んでいる。


 まぁ、メタリックな卵型の顔面に表情なんかほぼ無いが。


「何か今、失礼な思念伝達が行われましたが?」


「あ、やべ」


「やべ、ではありません。

 クロウは対象を見た目でしか判断していないのですね。

 最低です……」


「でしかって事は無いんだけどな……」


「では、私の良い所を10個程言ってみて下さい」


「……じゃあ思念伝達で」


 流石にそこまで無駄話してる余裕は無い。

 思念伝達なら数秒で思考が伝えられる。


 って事で、考えられるだけ考えて見るか。


「クロウ! やめて!

 今すぐそれをやめてください!」


 レイが俺と距離を取り、あからさまに音声が不安定になる。


「てかキャラ崩壊してるぞ」


「いいからやめて!

 頭がおかしくなります!」


「でもほら、見た目でしか判断して無いって誤解されたままだと俺も嫌だしさ」


「ごめんなさい!

 謝りますから!

 クロウ! もう無理です!」


「しゃーない」


 ボス戦控えてるし。

 戦闘中に焦って転んだら目も当てられん。


「クゥーン?」


 ジャッカルの中の一匹。

 ジャックが俺たちを見て鳴いた。

 なんか「なにやっとんねんコイツら」みたいな意志を感じる。


 そっか、デバイス通信って配下には丸聞こえなのか。

 何気にジャックって知能高いよな。

 他の機体や、操作中の上位種より賢い気がする。


「結構数減ってるみたいだぞレイ」


「はー、はー、クロウ……

 貴方という人は全く……」


「ほら、いつも精神的に弄られるから仕返し?」


「いつも私の肉体を弄ってるのは貴方でしょうに……

 おほん、冗談はこれくらいにして……」


「そうだな」


 戦闘開始から25分程。

 形代も何度も付け替えている。


 残ったのは上位種が数体。

 通常種は数十体。

 そして、機械生命体シリコクルス巨人ジャイアント


「このエリアの脅威度は、9番以下のエリアの比では無い。

 ボスの強さも例外的かもしれない。

 だから、記憶のコピーを渡した方が良いと思いますか?」


「不安か?

 俺はもう負けるつもりは無いぞ」


 俺の目とレイのメインカメラが交差する。

 その青いランプが灯を強め。

 レイは、頷いた。


「では、出ます。クロウ」


「あぁ、行ってこい。

 俺の愛棒エース


 背面のジェットが点火する。

 赤と青の炎が推進力を生み、その身を巨人へ向かわせた。


 巨人とレイが戦闘を始める。

 赤雷が舞い散り、巨腕が振るわれ。

 レイの雷剣と、巨人の光剣が交差する。


 圧倒的な質量の差に、ジェットの推進力で抗って。


 けれど叩きつけられる様にレイの体が地面に落ちる。


 やはり、一筋縄で行く相手では無い。

 今までのエリアボスより確実に強い。


 嫌でもあの時の巨人と重ねてしまう。

 レイが負けた雪辱の相手と。

 けれど、だからこそ、ここは勝つ。


 それはレイもきっと同じ感情で。

 機械の有する不屈の意志が、レイを立ち上がらせた。


 レイは【螺子巻き修繕リバース・リペア】でその身を直し、武装を展開し。

 次点の策を思考させる。


 その繰り返し。

 ディープラーニングは最適解をその内見つける。

 見つけるまでにレイが致命的に破損しなければ、こちらの勝利。


 これは、そういう戦いゲームだ。


 そして、その戦いの中に俺が介在する余地は無い。


 俺のスキルでレイを支援する事はできる。

 けれどそれは、パーツの一つでしかない。

 レイの作戦の一カ所でしかない。


 


 俺は思案する。

 俺は思い返す。




 ――俺は本当に、レイの役に立てているのだろうか?



 人形を前に出し、戦わせ、修復する。

 それが人形師。

 それが俺の役割。


 分かっている。

 当然の事実だ。

 それが俺の力。


 だけど、俺はそれで満足しているのか?


 何か足りない物を感じていた。


 ずっと、ずっと、ずっと。


 レイと一緒に戦う度に。

 人形を作り、召喚し、戦わせる。

 その行為に疑問を感じていた。


「あぁ、そうかよ」


 思い出した。

 答えはずっと前に、言われていた。

 それを言ったのは、多分俺がこの世で最もな嫌いな人物。


 だからこそ、言えたのだろう。

 俺を否定するあいつだからこそ。



『人形遊びはそろそろ卒業した方が良いと思うよ。君も自分自身の力で戦うべきだ』



 俺が嫌いな相手が。

 俺を嫌っている相手が。


 そんな相手が言った言葉でも、間違っているとは限らない。


 寧ろ嫌いだからこそ、真っ当に欠点を指摘できるのかもしれない。


 俺はレイを後ろで見守りたいのか?


「違う」


 俺は、あいつと一緒に戦ってやりたい。


「寄こせよ。力を」


 可能性はある。

 ずっと模索していた物が。

 ずっと感覚はあったのだ。


 何度か、それが発動した時もあった。

 けれど、それは全てレイの功績。

 俺一人では達成できない物だった。


 それは、レイの経験によるスキル進化とレシピの発見。


 レイが俺のスキルを進化させ、レシピの出現にも関与しているのは明白だ。

 レイが最も長く戦い、言葉を交わした獅子レオだけが『機体:ジャッカル』のレシピを残したのだから。


 そして俺には今、ハッキング含めて50体近いの配下が居る。

 彼等は今の今まで、上位種と相対していた。


 その全ての情報を。

 持つ記憶を。

 上位種との戦闘経験を。



「――寄こせ」



 吸い上げる。


 クラスデバイスを通じ、操る機械の意識が俺の中へ入って来る。


 レイの思念伝達と同じ様に魔力の奔流に乗せて、情報が流入する感覚。


「あぁ、行ける。

 思った通りだ」


 力が無いなら今ここで、作ってやるよ。

 幸いと残骸そざいは十分揃ってる。





 ◆クラスデバイス情報更新◆


 【傑作人形製造クラフト・スペリオドール】が新レシピを発見しました。


 機体『フレアボア』製作可能。

 機体『マナライトディア』製作可能。

 機体『エレファントライ』製作可能。

 機体『ジェットホーク』製作可能。

 機体『ムーンベア』製作可能。

 機体『ウイルスヴァイパー』製作可能。

 武装『プラズマシールド』製作可能。



 第三段階【骸宿の形代ネクロ・カタシロ】が、第四段階【魂宿の形代ソウル・カタシロ】に再構築されました。

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