不思議16 お詫びとめっ
シャーリーの様子がおかしい。
今日はゴールデンウィークの中日で、学校に来ている。
おかしいというのは、どこか無理をしている感じがあるのだ。
お勉強をしに行こうとして、姉さんが心配になって帰った日が一番おかしかった。
ずっと元気が無く、それなのに話しかけたら無理やり元気なフリをしていた。
次の日にはお勉強リベンジで映画を見に行ったけど、元気が無くならなくなっただけで、元気なフリをしてる感じがあった。
そして今も。
「シャーリー」
「な、なんですか?」
「なにを気にしてんの?」
「何も気にしてなんかないですよ……」
これは嘘だ。
シャーリーは嘘がつけないから簡単に見破れる。
見破るなんてことのものでもないけど。
だってシャーリーは根がいい子だから嘘をつくと罪悪感に押し潰されそうになっているから。
「もしかして父さんと母さんのこと?」
「い、いや、その……」
どうやら正解のようだ。
これは姉さんが言っていたことだ。
シャーリーの様子がおかしいことを相談したら「お父さんとお母さんが死んじゃってること言ってなかったからじゃない?」と言われた。
確かにわざわざ言う必要も無かったから言ってなかった。
「それのなにを気にしてるの?」
「初めてお話した時に助手さんがついた嘘が本当は嘘であって欲しいことなんじゃないかって思ったので……」
「俺はなんて言った?」
だいたい一ヶ月ぐらい前のことで忘れた。
「ご両親は転勤で一人暮らしをしていると」
「それは普段がそんな生活だったから咄嗟に口に出ただけ」
俺の父さんは色んなところに行く仕事をしていたから、よく母さんを連れて仕事に行っていた。
その時には姉さんも一人暮らしをしていて、俺は家に一人になることが多かった。
ちなみに母さんを連れて行く理由は、父さんが自分のことを一人で出来ないからだ。
「俺って酷い人間だから父さんと母さんが死んだって聞いた時に何も感じなかったんだよね」
「実感が無かっただけでは?」
「それもあるんだろうけど、他のことで頭がいっぱいだったのもあるのかな?」
俺の親権代理人は誰になるのかとか、生活はどうすればいいのかとか、とにかく『両親が死んだから悲しい』という感情がこなかった。
「だからシャーリーが気にすることないよ?」
「でも……」
「それとも俺にその時のことを思い出させたいの?」
それは少し嫌な言い方だけど、俺としてはこれ以上シャーリーに思う詰めて欲しくない。
だからシャーリーの優しさを利用する。
「……そうですよね。私が気にしてたら助手さんが思い出しちゃって悲しくなっちゃいますよね」
(別にならんけど)
そうは思うけどいちいち言わないでおけるようになったみたいだ。
「これからは普通にします」
「そうしてくれ。俺はいつものシャーリーじゃないと嫌だからな」
「それじゃあ、お勉強の時もつまらなかったですよね……」
「シャーリーと一緒ってだけで嬉しいよ」
これは嘘ではない。
確かに違和感がすごくて映画の内容とか覚えてないけど、恋は盲目というやつなのか、シャーリーを見てるだけで楽しかった。
「助手さん……」
「それってやっぱり私達から話しかけないと一生無視なの?」
「話しかけても綿利は無視すると思うよ。北条さんは優しいから気にしてくれてるけど」
「こっちはほんとに気づいてなかったみたいだけど」
なんだか雑音が聞こえるけど、無視してシャーリーと話すことにする。
「三日以外ってどっか行く?」
「そ、そうですね。えと……」
どうやら雑音達が気になって集中できないみたいだ。
「怖いから睨まないでよ。今日はお詫びをしに来たんだから」
「詫びたいなら帰れ」
「どんだけ二人で居たいのさ」
「ずっと」
俺はシャーリーとずっと一緒に居たい。
もし他に人を入れるとしたら姉さんしか許さない。
「これはガチだ。私もそんなに愛してくれる人に出会いたいものだね」
「俺を見るな」
可哀想な司波を見たら怒られた。
「あの、それでお詫びとはなんですか?」
「忘れてた。うちのバカが迷惑をかけたからそのお詫び」
そういえばこの前、司波に面倒を押し付けられていたのを思い出した。
「ほら、謝りなさい」
「謝るのはいいけど、多分意味無いぞ。あの時はすいませんでした」
司波はそう言って頭を下げた。
「で?」
「ほら」
謝ったからなんだというのか。
謝っただけで全て無かったことになるのなら、犯罪者はこの世からいなくならない。
「綿利みたいなのは気持ちより形の方がいいんだよ」
「あんたと一緒だね。じゃあ情報をあげる」
「なんのだよ」
「その子が欲しがる情報」
守住はそう言ってシャーリーを指さす。
「人を指ささない」
「急に掴むな、恥ずかしいでしょ!」
司波が守住の指を掴むと、守住はわかりやすく顔を赤くした。
「帰れ」
「ほら、綿利怒ったじゃん」
「あんたのせいでしょ」
「それでシャーリーは三日以外に出かけたいとかある?」
「助手さん。私も助手さんと沢山お話したいですけど、守住さんと司波さんのお話ちゃんと聞きましょ。無視はめっですよ」
シャーリーが俺の目をまっすぐに見て言うので、俺は守住の顔をガン見することにした。
「何?」
「ちょっと守住見て落ち着いてるだけ」
「あんた、私のこと……」
「怜文、違う。それと気持ちはわかるけど、北条さんが嫉妬してるよ」
それはわかっている。
だけど『めっ』の破壊力には勝てない。
「助手さんはやっぱり、守住さんが……」
「違います、断じて。お詫びに何かシャーリーの望むことをさせてください」
俺はシャーリーに頭を下げて謝る。
「それじゃあ、三日以外の日は毎日お出かけしましょう」
「喜んで。でもそれはお詫びとかじゃなくてもするよ?」
「いいんです。私にとって助手さんと一緒に居られることは何よりも嬉しいんですから」
また目を逸らしたくなったけど、頑張って堪えた。
「私達はなにを見せられてんの?」
「イチャコラ。その感じだと体育倉庫は解いたんだ」
「は、はい」
俺が邪魔をされた怒りをぶつけようとしたのを察したのか、シャーリーが俺の手を握ってから答えてくれた。
「怜文は空気読めないんだよ。それじゃあお詫びは本がいい?」
「なにがです?」
「解明のお手伝い」
「いらないですよ?」
「素直に受け取っときなさいよ。あれは難しいんだから」
「それは怜文だからでしょ?」
司波がそう言うと守住が睨んだ。
「私のお手伝いをしてくれるのは助手さんだけです。それ以外の人からのお手伝いはお断りします」
「へぇ、信頼されてんだ」
司波が俺のことをニヤニヤしながら見てくる。
「それに助手さんはもうわかってるみたいですし」
「見てきたの?」
「いえ、私が内容を簡単に説明しただけです」
「普通に引くんだけど」
別にそこまで難しいことではない。
「じゃあ今から解きなさいよ」
「俺らはお詫びに来たんじゃないの?」
「だってこいつお詫び受け取る気無いでしょ?」
「それは俺達がお詫びになるものを持ってないからだろ」
なんだかめんどくさいことになってきた。
「助手さん、行きませんか?」
「シャーリーが行きたいのなら」
そうして俺とシャーリーはおまけを連れて図書室に向かった。
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