不思議2 助手と解明

「一から考えましょう」


 廊下を歩きながら綿利さんがどこに行ったのかを考えます。


「昨日は確実に私とお話していました。肌の色も普通だったので幽霊さんの可能性も薄いです。足だって……」


 そういえば机で隠れて見てなかったです。


「まさか本当に幽霊さん?」


 だけど探偵はそんな非科学的なものは信じないものです。


「じゃあ今日は普通にお休み?」


 でもそれなら机が無いのがおかしい。


「となると……」


(まさか虐め)


 虐められて机をどこかにやられてしまってそれを悲しんだ綿利さんは今頃……。


「こうしてはいられません」


 私は急いで階段を最近出来るようになった二段飛ばしで上り、屋上へ向かいます。


「綿利さん!」


 と叫んで屋上の扉を開けようとしたら施錠されていて開かずに、尚且つ勢いも殺せぬままに扉にぶつかってしまいました。


「あぅ」


(おでこが痛いです)


 だけど少し安心しました。


 綿利さんが変なことを考えていないと分かったから。


「ならお家へ帰ってしまったのでしょうか」


 その場合は探しようがない。


 だって私は綿利さんのお家を知らないのだから。


「こういう時の為に携帯が必要なんですよ」


 今度お母さんに進言しなくては。


「そんなことより綿利さんです」


 もしかしたら一人になれる所に居るのかもしれません。


 それなら。


「体育館裏でしょうか」


 とりあえず行動あるのみです。


 走りっぱなしで疲れましたけど、綿利さんを見つける為なら頑張れます。


「体力付けておけば良かったです」


 探偵は頭を使う仕事だから体力は関係ないと思っていましたけど、認識が甘かったようです。


 やはりお母さんの言う通りに運動を頑張れば良かったです。


「着きました」


 息は乱れて汗もびっしょりになってしまいました。


 だけどここにも綿利さんはいません。


「綿利さん……」


 どこに行ったのでしょうか。


 もし昨日のことが夢や私の作った幻覚とかならそれでいいです。


 そうじゃなくて綿利さんが今悲しい気持ちになっていたら嫌です。


「もう一度探しに」


「見つけた」


 私がまた校舎を探しに行こうとしたら、息を切らした綿利さんが後ろに立っていました。


「綿利さん」


「すぐ見つかって良かった。大丈夫?」


 綿利さんを見た途端に崩れてしまいました。


「ほんとに大丈夫?」


「安心したら力が抜けてしまって」


「とりあえず地面よりこっち行こ」


 そう言って綿利さんが私に手を伸ばしてくれました。


 その手を取ろうとした時に気づきました。


 今私は汗がびっしょりだと。


「気にさせないから」


 綿利さんはそう言って私の手を取り自分の肩に私の手をかけて私を移動してくれました。


「ごめんなさい」


「俺のせいだし」


「綿利さんは悪くありません」


 私がちゃんと綿利さんを見つけていられたらこわなことにはなっていなかったのですから。


「私が近いと不快では?」


「なんで?」


「それは……」


 汗がすごいからと言うのが恥ずかしくて言えないです。


「俺は今シャーリーと一緒に居たいんだよ。というか今日はずっと一緒に居るから」


「それはどういう?」


「離れたらまた校舎中を独り言言って歩き回るでしょ」


 そんなことはしないと言えないのが悔しいです。


「ほんとにごめんね。シャーリーに七不思議を解明させてあげたかったんだけど、心配かけた」


「だからそれは……解明させたくて?」


「そう。昨日の感じだと気づいてなかったみたいだから実践して気づいて貰おうかと」


 私の聞き間違いでしょうか。


 それではまるで。


「綿利さんは『消える隣人』が解明出来たのですか?」


「まぁ」


「それはどういう……、いえ自分で考えます」


 謎の答えを聞くなんて探偵あるまじき行為です。


「昨日の時点でヒントはいただいていたんですか?」


「あげてた」


「では昨日の会話の中に何かが」


 昨日綿利さんから聞いたお話は……。


「駄目です疲れて何も思い出せません」


「ほんとに疲れて?」


「疲れてです!」


 確かにお母さんからも「思愛莉は記憶力無いよね」と言われることがありますけど。


「じゃあヒントを出そうか。まず俺は生きてるからね」


「なんでそれを知ってるんですか!」


「シャーリーの思考をトレースしてみた」


 なんだかとても恥ずかしいです。


「嫌だったら言ってください」


 私はそう言って綿利さんの顔を触ってみます。


 体温はちゃんとあって、なんだか心が落ち着きます。


「次のヒントいる?」


「今のはヒントなんですか?」


「答えには関係ないかな。シャーリーの反応好きだから」


 そんなことを言われても嬉しいだけです。


「そういうとこね。次は俺の席はシャーリーの隣であってるよ」


「それって……あ」


 普通はありえないですけど、先生がクラスを間違えていた可能性もありました。


「じゃあ綿利さんとはこれからもお隣さんなんですね!」


「席替えが無ければ」


「そうですよね……」


「感情の変化がすごい」


 綿利さんとはこれからもずっとお隣さんがいいです。


 そうじゃないと安心が出来ないから。


「次のヒントいる?」


「お願いします」


「シャーリー授業中に寝てたら起こしてあげるね」


「え?」


 全く意味が分からないです。


 確かに私は授業中に寝ることが多々ありますけど、それが七不思議とどう関係があるのか分かりません。


「今のが最後のヒントだよ」


「寝てたら起こしてくれるがヒントですか?」


「後はシャーリーの記憶力との勝負かな」


(寝てると起こすと記憶?)


 共通点が思い浮かびません。


「あ、これ関係ない話だけど寒くない?」


「実は少し寒いです」


 春とはいえまだ少し肌寒いので、汗で濡れた身体が少し冷えてきました。


「ブレザーでよければ」


 綿利さんがそう言って私にブレザーをかけてくれました。


「駄目ですよ。綿利さんが寒いです。それに汚れちゃいます」


「俺はまだ走った時の熱が残ってるから平気。それとそんな気にしなくても俺はシャーリーの汗を何かしようなんて考えてないから」


「私もそんなことは考えてないですよ!」


 でも綿利さんがそう言ってくれるのなら少しだけ。


(暖かい)


 綿利さんのブレザーは私の身体が楽々入って男の子なんだなって感じがします。


 入学してから二日目で汚れも無く……。


(袖口に何か)


「口紅!?」


「その反応は予想外過ぎるんだけど」


「まさか入学して二日目で彼女さんを?」


 それを聞いた時に少しモヤッとしました。


(なんですこの気持ち)


「シャーリーさ。口紅はこんな錆れた色か?」


「え?」


 確かに口紅にしては色が薄く、それに少し鉄の匂いがします。


 それと綿利さんの匂いが。


「って変態さんですか私は!」


「何言ってんの?」


「気にしないでください。それよりこれって錆ですか?」


「そう。これで分かった?」


 ブレザーの袖に付いた錆。私が眠るのと綿利さんが起こすのと私の記憶力。クラスもあっていて、幽霊さんでもない。


「つまり……やっぱり虐めですか?」


「どうしてそうなる」


 綿利さんが可哀想な子を見るような目で私を見てきます。


「じょ、冗談ですよ。綿利さんが虐められてない確証が欲しくてですね」


「虐めはこれから起こるだろうけど、今は無いから安心してくれ」


「起こるんですか!」


「可能性だけどね。それで答えは?」


 なんだかすごいことを言われて頭が真っ白になってしまいました。


「シャーリーは優しいよな。この錆は机な」


「机……」


(思い出しました)


「確か嫌な机の話をしました」


「それで?」


「綿利さんの机が嫌な机で、綿利さんは朝その机を取り替えていた?」


「正解」


 だけどそれだとしっくりこないことがある。


「私達の机って錆ないやつですよね?」


 小学生の時は確かに机を運ぶ時に錆が気になりましたけど、この学校の机は鉄のやつではなかったはずです。


「それが七不思議なんだろうな。俺のだけ錆るやつだった」


「それは虐めなのでは?」


「さぁ、でも七不思議を解明していけば分かるんじゃないかな」


 なんだかモヤモヤしますけど、これはつまり。


「七不思議の一つを解明したってことですよね?」


「さすが探偵」


 とても嬉しい。嬉しいのだけど。


「綿利さんにいっぱい助けて貰いました。それにご迷惑も」


「それなんだけど、俺をシャーリーの助手(仮)にしてくれないか?」


「え?」


「助手が探偵の手助けするのは当たり前だろ? それにそれならシャーリーを不安にさせることも無いだろうし」


 それはむしろ私が昨日頼もうとしてたことです。


 綿利さんに私をサポートしてくれる助手になって欲しいと。


 だけど。


「駄目ですよ。綿利さんが探偵で私が助手の方がまだいいです」


(実際は綿利さん一人が一番……)


「俺はシャーリーの助手をしたいんだよ。というかそれ以外やる気は無い」


「なんでですか?」


「シャーリーのこと好きだから」


(……騙されませんよ)


「綿利さんは嘘つきですからそれも嘘なんです。好きって言うのは私の反応を見るのがですよね」


 ここで大喜びして実は勘違いなんて恥ずかしい思いはしません。


「シャーリーだよな」


「え?」


「ううん。それより助手にしてくれるのか?」


「そんなに私の助手がいいんですか?」


「いい」


 そこまで言われたら断る理由も無い。


 というよりこちらからお願いしたい。


「綿利さんを私の助手さんに任命します。これから末永くよろしくお願いします」


「助手(仮)な。いつかシャーリーが本当に助手にしたいって思う相手が出来たら助手の部分取っていいから」


「じゃあ綿利さんを本当の助手にしたいって思ったら(仮)を取りますね」


「そういうのいいじゃん」


 たまにはやり返さないと立場が逆転してしまいます。


「そういえば一時間目の始業のチャイム鳴らないですね」


「何言ってるんだ、もう一時間目始まってるぞ」


「……え?」


「何せ俺が机を運び終わってすぐに鳴ったからな」


 きっと私の聞き間違いです。


 だって一時間目が始まってるってことは、高校生活の一番最初の授業をおサボりしていることになる。


「また嘘ですか。一時間目が始まるのが分かっているのなら綿利さんは教室に残っているはずですし」


「授業よりもシャーリーが心配になるのは当たり前だろ?」


「はぅ」


 さっきまで冷えていた身体が綿利さんのブレザーのおかげで暖まってきたのに、今度は暑くなってきました。


「初日からお説教かな」


「私のせいで」


「それ禁止で」


「え?」


「助手命令で自分のせいって言うの禁止ね」


「は、はい」


 なんだか既に立場は逆転している気がします。


 だけどなんだか嫌な気はしません。


 綿利さんにはこれから沢山お世話になると思うので、改めて言っておこうと思います。


「綿利さん。いや助手さん、これからよろしくお願いします」


「こちらこそ。よろしくシャーリー」


 こうして私達の七不思議解明が始まりました。


 ちなみに教室に戻ったら怒られずに生暖かい視線を向けられました。

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