探偵志望と助手志望の七不思議解明にかこつけたイチャコラ

とりあえず 鳴

不思議1 見習い探偵

 念願だった高校生になれました。


 ずっと私は高校生になりたかったのです。


 私は高校生になったらやりたいことがあったから。


 それにはまず。


「お隣さん、少しお話しませんか?」


 私は隣でスマホで何かをしている男の子に声をかけます。


「俺?」


「はい。ちなみになにをしてるんですか?」


「ソシャゲ」


「あ、ゲームですか。お邪魔でしたか?」


「いや別に。ログインボーナス貰ってただけだし」


 お隣さんはそう言ってスマートフォンをしまってくれました。


 律儀な人のようです。


「自己紹介をしますね。私は北条ほうじょう 思愛莉しありと言います」


「俺は綿利わたり じゅんだ、よろしく」


「よろしくお願いします」


 これで私の目的に一歩近づきました。


「綿利さんはゲームが好きなんですか?」


「好きというか暇つぶしにやってるだけだよ」


「なるほどです。綿利さんってこの学校に知り合い居ますか? 私は居ないんですよね」


 私はこの高校に通いたいからと家から少し遠い高校を受験しました。


 だからこの高校には知り合いが居ません。


「俺も居ないな。それに親の転勤が高校受かった後に決まったから仕方なく一人暮らし」


「それは何かと大変ですね」


「別に家事が出来ない訳でもないからそんなに大変でもないけど」


 高校生で一人暮らしなんてよっぽどご両親に信頼されている証拠です。


 私なら絶対にさせて貰えません。


「俺からも質問いいか?」


「なんですか?」


「北条さんは俺のこと聞いてなにがしたいんだ?」


「ギクッ」


「それを口で言う人初めて見た」


 まさか私が目的の為に話しかけたことがバレたかもしれません。


 綿利さんはどうやら勘が鋭いようです。


「あ、あれです。プロファイリングしてたんです」


「へぇ。じゃあ俺がどんな人間か分かる?」


「も、もちろんですよ」


 今まで聞いたことを整理します。


 綿利さんはゲームをしていました。それとこの学校には知り合いが居ないとのこと。そしてご両親の転勤が理由で一人暮らしをしているそうです。


 これから導き出される答えは。


「綿利さんはいい人です」


「なんか違う気がするし、俺はいい人でもないから」


「いい人ですよ。いきなり話しかけてきた私と話してくれるんですから」


 私は私の目的の為に話しかけたのに、綿利さんはそんな私とちゃんと話してくれました。


 これでいい人でないならいい人なんてこの世に居ません。


「俺が北条さんと話してるのは、北条さんが可愛いからお近付きになりたいって理由かもよ」


「それこそ無いですよ。私は可愛くないですから」


 可愛くてお近付きになりたい人とはいつも告白をされている人を言うのです。


 私はそんな経験がないから可愛い訳がありません。


「それはしばらくしたら分かることだからいいとして、北条さんに嘘をついた俺はやっぱりいい人じゃないよ」


「嘘ですか?」


「そう。なんか隠し事しながら話してるから俺も正直に話さなくていいかなって」


 全部バレていたようです。


「ごめんなさい」


「別にいいけど」


「初対面の人に話すことでもないかと思って。でも綿利さんには話しますね」


 ここまで優しくしてくれる綿利さんにはちゃんとしたいです。


「綿利さんは七不思議を知ってますか?」


「花子さんとかの?」


「大元はそれです。この学校にはオリジナルの七不思議があるんです」


「それで?」


「私はその七不思議を解明したくてこの学校を受けたんです」


 それが私の目的です。


 学校の七不思議を解明する為に少し遠いこの高校を選びました。


「それでなんで俺に話しかけたの?」


「そうでした。七不思議の一つに『消える隣人』っていうのがあるんです」


「消える隣人?」


 入学式の日に話していた隣の人が次の日には席ごと居なくなっているということがあるらしいです。


「なので私もお隣の綿利さんに話しかけて居なくなるのか試してみたくて……すいません」


「いいよ別に。それより北条さんの机ってちょうどいい?」


「え?」


「たまにさ嫌な机っていない?」


「いますね。私は平気です」


 嫌な机だと眠りづらくて嫌です。


「あ、それと私のことはシャーリーと呼んでください」


「何故に?」


「私は探偵なので」


 私の名前の思愛莉をあだ名で言うとシャーリーになります。


 探偵と言えばコードネームが必須だとお母さんが言っていました。


 だから私のコードネームはシャーリーです。


「……分かった」


「お願いします」


 綿利さんがどこか不思議そうにしているけど、分かってくれたのならありがたいです。


「それにですね。この学校の七不思議を全て解明すると願いが叶うらしいんです」


「ソースは?」


「お母さんです」


 お母さんはこの学校の卒業生で、七不思議を全て解明して実際に願いが叶ったと言っていました。


「願いは探偵になること?」


「それは自分で叶えます。お願いは私が探偵になった時に助手さんが付いてくれますようにってお願いするつもりです」


「助手ね」


 探偵と言えばやっぱり助手です。


「変な助手が付かなければいいけど」


「変?」


「なんでもない。それより北条さん」


「シャーリーです」


「シャーリーさん。俺のついた嘘は分かった?」


 そういえば綿利さんは私に嘘をついたと言っていました。


「私を可愛いと言ったことですか?」


「それは本当。他」


「なんかすごいことをサラッと言われた気がするんですけど、気の所為ですよね」


(他に何か……)


「実はゲームが大好き」


「半分正解」


「本当はご両親は転勤してない」


「半分正解」


「一人暮らしもしていない」


「それは正解」


 まさかの全部が嘘でした。


「探偵なら相手の嘘も見抜かないと」


「これからの課題にします」


「俺もシャーリーをプロファイリングしてみたんだけど聞く?」


「是非に」


 他人からどう見られているのか少し気になります。


「敬語は癖。中学の時は眼鏡をかけていた。勉強はあまり出来ない。親からスマホの類いを持たせて貰えない。今分かったのはこれぐらいかな」


(当たり過ぎててすごいです)


 敬語は小さい時にテレビで覚えたのが嬉しくてずっと使っています。


 眼鏡も中学までかけていたけどお母さんに「コンタクトにしよう」と言われてコンタクトにしました。


 勉強はノーコメントです。


 目が悪過ぎたからスマホは持たして貰っていません。


「なんでそんなに分かったんですか?」


「敬語って普段から使ってないと相手につられて抜けるだろ? それがないからもう癖になってるのかなって。眼鏡は自分のこと可愛いって本気で自覚してないみたいだから、中学まで告白とかされてなかったのかなぁって思って、理由考えたら相当度の強い眼鏡かけて目つき悪かったのかなぁって」


「そうですね。敬語はもう意識しても抜けないですし、目も相当悪いので目つきは悪かったと思います」


 告白されなかったのはそれが理由じゃないと思いますけど。


「で、勉強はさっき机の話した時に寝やすさ気にしたでしょ」


「何故それを!」


「そんな顔してた」


(どんな顔ですか)


 私は自分の顔をぺたぺたと触ります。


「反応がいいよね。それでスマホは目が悪過ぎるからってことで」


「すごいです。まさか綿利さんって実は探偵さんなんですか?」


「違うよ。ただ人間観察が趣味なだけ」


 それだけで初対面の私のことを当てるなんて本当にすごいです。


「綿利さん、よろしければ」


「担任来たみたい。また後で……は無理か。学校終わったらすぐ帰んなきゃだから」


「ではまた明日です」


 そうして私の高校生活の一日目が終わりました。




(今日は昨日言えなかったことを絶対に言います)


 私はそんなことを考えながら教室に向かいます。


(それにしても綿利さんいい人でした)


 お母さんに話したら「それは楽しみだ」と嬉しそうにしていました。


 どういう意味かは分からなかったけど、私も学校が楽しみになりました。


(今日から七不思議を解明していきます)


 そう意気込んで教室に入ると違和感があります。


 きっと綿利さんなら教室に入った瞬間にこの違和感の正体が分かるのだろうけど、探偵見習いの私では分からないです。


 だからとりあえず席について綿利さんに聞くことにしました。


「綿利さ……」


 そこで違和感の正体に気づきました。


 綿利さんは居なく、私の隣は机ごと無くなっていました。


(これが『消える隣人』)


 まさか本当に体験出来るとは思っていなかったけど、私にはやらなければいけないことがあります。


(綿利さんを探さなきゃ)


 そうして私は綿利さんを探す為に教室を出ました。

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