不思議3 反応と可愛さ

「入学式とかなんであるんだ」


「学校に入学する為でしょ」


 そんなことは分かっているけど、入学式はどうも好きになれない。


 そしてこのマジレスしてくるのは歳の離れた姉の綿利わたり 心呂こころだ。


「あれ必要あるの? 名前呼んだりするけどどうせ後で自己紹介させられるじゃん」


「そういう形が必要なの。あんたはいつからそんなにひねくれたのさ」


「生まれつきじゃないかな」


 俺は自分が変わったとは思わない。


 つまりは生まれつきひねくれているのだ。


「お姉ちゃんは悲しいよ」


「……」


「なんか言え」


「姉さんは可愛いね」


 冗談でもこう言っておけば姉さんはご機嫌になる。


「てかあんたは入学式が嫌なんじゃなくて学校が嫌なだけでしょ」


「学校って強者と弱者を作ってそれを大人が眺める場所でしょ。そんなの誰でも嫌だよ」


「……潤」


 姉さんが俺の名前を呼んで手招きをする。


「何?」


「潤はいい子だよ」


 何故かいきなり頭を撫でられた。


「どうしたの、熱?」


 姉さんの額を触るけど特に熱がある感じはない。


「私が潤を褒めるのがそんなにおかしいか」


「いや、姉さんは俺に甘いし。いきなりだったからなんでかなって思っただけ」


 別に嫌ではないので姉さんの気が済むまで頭を撫でて貰う。


「潤って意外と甘えただよね」


「姉さんだけにだよ」


「シスコン弟め」


 姉さんが嬉しそうに俺の頭をわしゃわしゃする。


「でもいつか好きな子を連れて来るのかね」


「俺は一生姉さんに養って貰うつもりなんだけど」


「私に結婚するなって?」


「じゃあ俺と結婚しよう」


「……な、なにを言ってらっしゃる。私達は姉弟なんだよ。そ、そりゃ潤はいい子だし他の子に渡すのは惜しいとか思わなくもないけど……あ、これは潤のことが好きとかじゃなくてね、いや好きなんだけど、えっとね」


 冗談のつもりで言ったのに予想外の反応が見れた。


(こういう反応してくれるから姉さんのこと好きなんだよな)


 俺は多分世間一般から見たらシスコンと呼ばれるのだろうけど、別にそのことを恥じてはいない。


 俺にとっては姉さんが全てなのだから。


「ところで姉さん、仕事は大丈夫?」


「え、休んだけど?」


「どっか行くの?」


「潤の入学式」


「来てどうすんのさ」


 高校の入学式なんてわざわざ見に来るものでもないと思う。


「父さんと母さんを連れて行って潤の晴れ姿一緒にを見たいじゃん」


「まさかとは思うけど大事な有給使った?」


「私の有給は潤の為にあるから」


 なんかかっこいいことを言ってるけど、もう少し自分の為に使って欲しい。


「俺の彼女を気にする前に自分の彼氏の心配しようよ」


「潤と比べちゃうと目劣りするんだもん」


 俺も大概だけど、姉さんも相当のブラコンである。


「二人で強く生きていこう」


「そうだね。もう一度言うけど潤はバイト禁止だからね」


「俺ももう一度言うけど、納得がいかない」


 姉さんは何故か俺にバイトをさせたがらない。


「お金なら私があげるからバイトは禁止」


「だからなんで」


「帰ってきて潤が居なかったら心配になるでしょ!」


 何故か怒られた。


 言われて悪い気はしないけど、他にも理由がある気がする。


「とにかくバイトは駄目。潤も男の子だから私に言えない欲しい物もあるだろうからお小遣いはちゃんと渡すから」


「俺そこまで物欲ないけどね。姉さんの誕プレぐらい?」


「ほんとにいい子。誰にも渡したくない」


 そう言って姉さんが抱きついてきた。


「仲良くなった女の子がいたら教えてね。悪い女なら私が駆除するから」


「姉さん怖いよ」


 そもそもそんな相手が出来る訳がないけど。


「そろそろ行くね」


「いや私も行くって」


「父さんと母さん連れてくんじゃないの?」


「一緒じゃない方がいっか。帰りは一緒に帰ろうね、行ってらっしゃい」


「行ってきます」


 そして僕は学校へ向かった。


 案の定入学式はつまらなく、教室に着いたら日課のソシャゲのログインを済ましていた。


 教室内では知り合いを見つけて話す人や席が近いから仲良くなろうとして話している人がいる。


 他には話しかけられ待ちの人や俺のように他の人間に興味がないからスマホをいじっている人。


 そして一番気になるのが俺の隣の子だ。


 さっきからちらちらと俺の方を見て話しかけるタイミングを伺っている感じがある。


 特徴があるとしたら顔立ちが整っていて存在するだけで男が寄って来そうで、更に巨乳さんである。


 男はそれだけで目を引かれるもので、実際今もクラスの大半の男子がちらちらと俺のお隣さんを見ている。


(気づいてないな)


 お隣さんは視線には気づかずに俺に視線を向けている。


(うざいな)


 お隣さんの視線は期待や希望みたいなキラキラした視線だからいい。


 だけど男共の視線は下卑たもので俺が見られてる訳でもないのに腹が立つ。


 そろそろ苛立ちが顔に出そうなので寝たフリでもしようかと思ったらお隣さんから声をかけられた。


 お隣さんはいわゆる不思議ちゃんのような天然のようないい意味で面白い子だった。


 探偵希望っていうところに引っかかっりはあるけど、この子の隣であるうちは退屈しなそうだ。


 そんなお隣さんのことを姉さんに話したら。


「入学初日から浮気?」


「別に好きとかじゃないよ」


「嫌い?」


「好きだけど」


 シャーリーのことは嫌いじゃない。


 反応がよくて、見ていて可愛らしいからだ。


 だけどそれは恋愛感情とかではなく、これは……。


「多分姉さんと重ねたのかも」


「私?」


「反応がよくて可愛いから」


 姉さんの反応もシャーリーの反応も好きで、二人共可愛い。


 だからシャーリーのことに興味が湧いたのかもしれない。


「潤は北条さんの助けになりたいの?」


「そうだね。シャーリーが七不思議を解明する手助けがしたい」


 今日は失敗したけど明日こそはちゃんとやる。


「ガチじゃん。今度会わせてね」


「シャーリーがいいって言ったらね」


 姉さんのことだからシャーリーに変なことはしないだろうけど、そもそも俺とシャーリーはまだ家に誘う程の仲でもない。


 だから姉さんにシャーリーを会わせるのは相当後になる。


 はずだったのだけど。


「はじめまして、潤の姉です」


「は、はじめましてです。私は北条 思愛莉と言います」


 何故か七不思議の一つ『消える隣人』を解明した次の日に二人は会うことになった。

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