不思議20 眼鏡とデザート
「シャーリーおはよ」
「お、おはようございます」
ゴールデンウィークが終わりいつも通りの学校生活に戻った。
だけど一つだけ変わったことがある。
今まではシャーリーの方から挨拶をしてきていたけど、俺から挨拶するようになった。
理由としては、もうなんか可愛いシャーリーを見る為に見境が無くなった。
「なんでずっとこっちを見てるんですか?」
「可愛い子が隣に居るから」
「そう言うと思ってましたよ!」
毎朝この会話をしている。
「それは言わせたいってこと?」
「言ってて恥ずかしくないんですか?」
「なんで? 俺は事実を言ってるだけだから恥ずかしいとかないよ?」
「それが小学生男子のやる、好きな子虐めですか?」
シャーリーが顔を真っ赤にしながらそう聞いてくる。
どうやら『好き』と自分で言うのが恥ずかしいみたいだ。
「そうだね。俺にとってはこれが初めての好きだから、そういう意味では好きの小学生だからね」
「それって嫌われるんじゃないんでしたっけ?」
「嫌いになる?」
「ならないですけど、なるかもですよ?」
「二度としません」
シャーリーに嫌われたら多分不登校になる。
そして姉さんに一生慰めて貰いながら姉さんに一生寄生する。
「屑か」
「はい?」
「自分が相当の屑だと自覚しただけ」
好きな子に嫌われたからと他の子(姉さん)に全てを捧げて養って貰うなんてただの屑だ。
今までは冗談で言っていたけど、シャーリーに嫌われたら本当にやりかねない。
「助手さんはいい人です。嫌いになるなんて嘘ですからね」
「ほんとに?」
「助手さんって急に可愛くなりますよね。そのせいでたまにいじめたくなります」
シャーリーが「ふっふっふ」と楽しそうに笑いながら俺を見てくる。
「シャーリーになら虐められても嬉しいよ」
「変態さんなんですか?」
「好きな人に構って貰うのってなんでも嬉しいみたい」
「そういうものなんですか?」
「うん」
このやり取りで分かったことは、シャーリーが俺のことを異性として好きではないこと。
知ってはいたし、これから好きになってもらえばいいとも思っていた。
けど実際に理解すると少し悲しい。
「頑張ろ」
「何をです?」
「シャーリーに振り向いて貰えるように」
シャーリーは意味を理解できなかったみたいで「振り向く?」と言って後ろを向いた。
とても可愛い。
「そういえばもうすぐテストだね」
「……はい」
「わかりやすく落ち込まないでよ」
ゴールデンウィークが終わるということは、中間テストが始まるということだ。
そしてシャーリーが落ち込む理由は単純で、授業中にいつも寝ていて授業を一切聞いていないからだ。
「自業自得だからね」
「何も言い返せないです。でもお隣なんですから起こしてくれてもいいんですよ?」
「寝顔が可愛くて」
「またそういうことを言うんですから」
どうやらまた俺の言う可愛いは嘘として考えるようになったみたいだ。
シャーリーの寝顔はとても嬉しそうでずっと見ていられる。
だけどずっと見ていたらノートが白紙になり、シャーリーに見せることが出来なくなるから右目でシャーリーを見つつ、左目で黒板を見てノートを取っている。
「受験の時どうしたの?」
「私は中学生の時は頭良かったんですよ。だから受験は余裕でした。なんですけど、なぜか高校生になってから眠気に勝てなくて」
「じゃあ地頭はいいの?」
「どちらかと言うと詰め込むタイプでしたね。努力でカバーみたいな感じです」
それだと結局勉強しないとテストが危ない。
「眠気は夜更かしして小説や漫画を読んでるからじゃないの?」
「それは中学生の時もしてましたから関係ないと思います」
なんだかその時のシャーリーが気になってきた。
今度シャーリーのお母さんにその時の写真を貰えないか聞いてみたいと思う。
「テスト中に寝なきゃいっか」
「もしかしたら、助手さんのお隣ということで安心しているのかもしれません」
「それは俺への仕返しですか?」
「え?」
わかっている。シャーリーはそんなことをいちいち考えたりしないことぐらい。
だけど素直に喜べないのは俺がひねくれてるからなんだろう。
「それより寝ない対策しないとか」
「テストでは寝ないですよ」
「毎時間寝てるけどほんとに大丈夫なんだね?」
「……一緒に対策を考えてください」
シャーリーが律儀に身体をこちらに向けて頭を下げてきた。
「もちろん。じゃあ最初はシャーリーが中学の時と変わったことを思い出そうか」
「もしかしてですけど、もう対策思いついてます?」
「可能性ぐらいは」
これとは言いきれないし、単純に俺の
「私よりも私のことを理解してますよね」
「助手だからな」
「どういうことです?」
「普通、人って自分より他人を見るでしょ? だから自分のことは他人の方が知ってる訳ね。それに加えて、俺はシャーリーっていう探偵の助手だからそれなりに距離が近いでしょ? つまりそういうこと」
説明が長くなりそうだから最後は
「なるほどです」
「シャーリーが俺のこと知ってるかは知らんけど」
「わかりますよ。助手さんは、私のことをちゃんと見てくれる優しい人です。嘘をつくのは駄目ですけど、嘘でも可愛いって言ってくれるのは嬉しいですよ。それに……」
シャーリーの顔が急に暗くなった。
「思い出すなら無理に探さなくていいって」
多分シャーリーはうちの両親のことを思い出したのだと思う。
うちの両親がシャーリーを助けたことは、俺の中では終わった話だ。
俺は両親を誇りに思うし、シャーリーは元気に生きているのだからそれでいい。
「それより対策だよ。シャーリーってまだ眼鏡持ってる?」
「ありますよ。家ではコンタクトより眼鏡の方が楽なので」
「多分それが対策」
シャーリーが中学の時と変わったことと言えば眼鏡からコンタクトにしたこと。
完全な偏見ではあるけど、眼鏡を掛けると頭が良くなるんじゃないかと思った。
というか普通に眼鏡を掛けたシャーリーを見たい。
「眼鏡だけで頭が良くなったら誰もテストで苦しまないんじゃないですか?」
「正論をどうも。でもシャーリーは雰囲気で結構変わるタイプじゃない?」
シャーリーは感情が大きく揺れると体調を崩したり、恐怖心が強くなると頭の冴えが良くなったりしてる。
だから眼鏡を掛けたら何か変わる可能性は高い。
「まぁ俺が見たいだけって言ったらそれまでなんだけど」
「眼鏡掛けると目つきが悪くなるので好きじゃないんですよね」
「度数、合ってるの?」
「合ってますよ。今も一応持ってきてるので掛けてみます?」
「是非に」
シャーリーはそう言って鞄から眼鏡を探す。
そして赤いケースを取り出した。
「コンタクトさん。ありがとうです」
シャーリーがそう言ってコンタクトを外した。
正直これだけでもお腹いっぱいだけど、これからデザートがやってくる。
「どうですか?」
「……最高です」
シャーリーの眼鏡姿はいつものほわほわした感じとは違い、シャキッとした感じになった。
眼鏡の種類に詳しくないから分からないけど、シャーリーの眼鏡はフレームがほとんど見えないやつで、掛けてるシャーリーが知的に見える。
そしていつもみたいに元気に目を開いてはいなくて、目は細められている。
「やっぱり目が見開かないんですよね」
「それはそれでいいです」
「それならいいですけど。それよりずっと気になってたことを聞いてもいいですか?」
「はい」
眼鏡シャーリーに言われるとなんだかいつものように話せない。
可愛さとは別のなにかを感じる。
「その首はなんですか?」
「首?」
「私のことを散々可愛いとか好きとか言って、本命は別にいるんですね」
シャーリーの蔑みの視線と冷たい声に言われて、新しい扉が開きそうになったのと同時に思い出した。
「違います。これは姉さんがいたずらでやったものです」
そういえば姉さんが、墓参りの時に気づいて貰えなかったからと、あれから毎日俺の首を噛むようになった。
シャーリー相手にこんなことをしてもどうせ気づかれないと思って何も抵抗しないで受けていたけど、少しやばい気がしてきた。
「他の女性に身体を許してるんですから、やっぱり私への好きは冗談なんですね」
「それは違う。確かにシャーリーにはバレないと思って何も言わなかったけど、シャーリーへの思いが嘘って訳じゃない」
「つまり私のことは好きだけど他の女性とも普通に過度なスキンシップを取ると?」
「決してそういう訳ではなく」
ここで非情にもチャイムが鳴りシャーリーは前を向いてしまった。
(これまずくね?)
状況としては、好きな人に嫌われて、更に口で勝てない。
正直詰んでいる。
文字通り、デザートなんて甘いものではなかった。
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