不思議25 最後の解明とキス
「助手さんおはようございます」
「おはよう」
思愛莉がいなくなってから少しの日が経った。
あの日は何も考えられなくてシャーリーに家まで送って貰った。
その次の日にシャーリーに眼鏡を掛けて貰ったけどシャーリーはいつものシャーリーで思愛莉にはならなかった。
どうやら本当に思愛莉はいなくなってしまったみたいだ。
「今日も元気ないですか?」
「元気はいつもないって。ただちょっとロスに入ってるだけ」
「ろす? よく分からないですけど私にできることがあったら言ってくださいね」
シャーリーは毎日こう言ってくれる。
だけどシャーリーを見ると思愛莉を思い出してより辛くなるのは絶対に言わない。
「そういえば最後の七不思議って分かりました?」
最後の七不思議『七不思議のジンクス』。
眼鏡女子からそれを聞いてそのままにしていた。
「分かるけどノーヒントだよ。これはシャーリーが自分で気づかないといけないやつだから」
と言ってもこれは謎でもなんでもない。
要は『好き』の自覚だ。
七不思議という目標を一緒に解明してきた二人にはいつの間にか恋が芽生えているというよくあるやつ。
それを最後に気づかせて二人は仲良く恋仲に。
そして叶う願いは恋仲になれるということだろう。
だからこれはシャーリーが俺を好きでないと一生解明できない。
それならそれでいいと思ってはいるけど。
「シャーリーは好きな人いる?」
「助手さんです」
「即答ですか。そういうのじゃなくて恋愛感情的な意味で」
「助手さんですよ?」
「絶対意味わかってないでしょ」
シャーリーが俺のことを好きなはずがない。
だって今まで俺がいくら好きと言っても流してきたのだから。
「分かってますよ。要するに結婚したい好きかどうかですよね?」
「うん」
「なら私は助手さんのことそういう意味で好きですよ。一生一緒に居たいです」
「それは助手として?」
ここで素直に認められないのが俺の悪いところだ。
分かっている。シャーリーが嘘なんかつかないことも、嘘をつけないことも。
「私は助手さんを助手さんとしても一人の男の子としても好きですよ」
「今まで認めなかったじゃん」
「助手さんを送って行った日あるじゃないですか」
思愛莉がいなくなった日。
そして俺が大泣きして心配したシャーリーが家まで送ってくれた日。
「あの日の次の日の朝にお手紙が置いてあったんです」
「……」
「そこにですね。『潤君への気持ちを素直に伝えて』って書いてあったんです」
間違いなく思愛莉の仕業だ。
「それを守ったと?」
「なんか守らなきゃいけない気がしたんです。これを破ったら一生助手さんとこのままな気がして」
「そっか」
告白と呼べるのか分からない告白だけど、お互いの気持ちは同じのようだ。
「でも」
俺が返事をしようとしたら、シャーリーがそれを止めた。
「助手さんは今、私のことを好きではないですよね?」
「……好きだよ」
「一番ではないですよね」
確かに今はよく分からない。
シャーリーのことはずっと好きだったけど、今は思愛莉が忘れられないでいる。
「気持ちの整理が出来てないのか」
「なのでこちらに」
シャーリーが俺の手を掴んで教室の外に連れ出した。
そして連れて行かれたのは懐かしき体育館裏。
「なんでここに連れてきたの?」
「だって教室だと恥ずかしいんですもん」
普通に告白してたのにそれ以上に恥ずかしいことがあるのだろうか。
「ちょっと待ってくださいね。助手さんは気持ちの整理をしててください。おすすめは瞑想です」
「……分かった」
シャーリーがなにをしたいのかは分からないけど、今の俺には気持ちの整理の時間が必要だ。
だからシャーリーに言われた通りに瞑想をする。
目を閉じて考える。
俺が本当に好きなのは誰なのか。
思愛莉がいた時はシャーリーと重ねて好きになりきれなかった。
だけど今度は思愛莉を忘れられなくてシャーリーが一番なのか分からなくなった。
(屑だなほんと)
シャーリーのことを散々好きとか言っておいて、思愛莉がいなくなったら思愛莉が忘れられない。
(いっそシャーリーが俺を見限ってくれれば……)
そんなことを思った俺を後で殴る。
それはシャーリーの気持ちを
(後で謝ろう。てかいつまでこのままでいればいいの?)
さっきからシャーリーの深呼吸する音と「やりますよ、いやでも、いや」とずっと自問自答する声が聞こえる。
目を開けていいのか分からないからとりあえず待つ。
「よし。助手さん、私がいいって言うまで目を開けたら駄目ですからね」
「分かった」
「絶対ですよ」
「うん」
「目を開けたら私泣きますからね」
「それは目を開けろってフリ?」
「違いますよ!」
これからキスでもするのかと思うような前フリだ。
でもその期待を裏切るのがシャーリーだと知っている。
「助手さん、目を開けていいですよ」
(ほら)
俺はゆっくりと目を開ける。
そしてだんだんとピントが合ってくる。
見えたのは目を閉じて唇を俺に差し出しているシャーリーだった。
「え?」
「……」
シャーリーは何も言わない。
そして動かない。
でもだんだんと頬が赤くなってきた。
「これは何?」
「……」
シャーリーは何も答えてくれない。
(キス待ち顔って可愛い……じゃなくて、俺にどうしろと?)
普通ならキスをするのかもしれないけど、それが正解なのか分からない。
俺が固まっているとシャーリーがポケットから一枚の紙を取り出して俺に渡してきた。
そこには『ヘタレ』と書かれていた。
(思愛莉か)
これがシャーリーの言葉じゃないことは分かる。
つまりこれは全部思愛莉の考えだ。
「シャーリーのそういう律儀なところが好きだよ」
「なっ……」
シャーリーの口を物理的に封じた。
多分思愛莉から喋るなみたいな指示があったのだろうから、これはその指示を守らせる為だ。
なんてひねくれたことしか言えないからシャーリーに恥をかかせるのだ。
「助手さんのバカ、バカ」
「ごめんて」
「ちゃんと私は最初に好きだってこと伝えたのに待たせて、挙句には最終手段まで使わせて、それだけじゃなく不意打ちなんて」
怒っているせいか敬語が抜けている。
「可愛かったから見惚れてたんだよ」
「ふん。そんなこと言っても許しません。私を辱めたら責任取って貰っていいんですよね」
「取るよ。シャーリーの恥ずかしがるところは俺にだけ見せてね」
「助手さんのバカ」
多分思愛莉のことを忘れることは出来ない。
思愛莉としてはシャーリーに好きと言わせてキスの上書きをして忘れさせようとしたのだろうけど、そんなに簡単には忘れられない。
だけど決心はついた。
「俺はこれからシャーリーを幸せにする。一生大事にする」
「今までとあまり変わらないですね」
「じゃあこれからはキスもしてくね」
そう言ってシャーリーに口付けをした。
「だ、だから不意打ちなんですよ!」
「反応が可愛いからつい。シャーリーも不意打ちでやっていいからね」
「うぅ、恥ずかしいけど絶対にいつか助手さんを恥ずかしがらせます」
「楽しみにしてる」
そう言って今度はシャーリーの頬にキスをした。
「期待した?」
「助手さんのバカー」
半泣きのシャーリーが俺の胸をぽかぽかと叩く。
「それで『七不思議のジンクス』は分かった?」
「これが答えです。七不思議を全部解明したら恋人になる。そしてその時にはお願いが恋人になりたいになってるからお願いが叶うってことですよね」
「正解。ご褒美のキスいる?」
「やられっぱなしだと思わないことです」
シャーリーはそう言って俺を抱き寄せて口付けをした。
そうして気づけば前と同じで授業をサボった。
シャーリーとのこれからがどうなるかは分からないけど、辛いことがあってもシャーリーと一緒ならなんでも楽しい思い出に変えることが出来る。
そんなことを考えながらシャーリーと新しい謎を求めながらイチャコラとする。
探偵志望と助手志望の七不思議解明にかこつけたイチャコラ とりあえず 鳴 @naru539
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