不思議22 解明と色々
「学年一位おめでと」
「ありがとうございます。助手さんの言った通りに眼鏡を掛けたら一位でした。何故か記憶は無いですけど」
思愛莉とのいざこざからしばらくが経って、テストが終わった。
シャーリーは見事に学年一位になった。
思愛莉の話では、シャーリーは家で眼鏡を掛けて生活しているから、その時の主導権が思愛莉にある為、思愛莉は普段から勉強をしていたみたいだ。
なんかずるいように聞こえるけど、色々と苦労している思愛莉を見ると何も言えない。
「助手さんは何位だったんでしたっけ?」
「シャーリーが煽りを覚えたよ。前からか。俺は七位」
「助手さんって普通に頭いいですよね」
普通なら「一位に言われても」と言うところだけど、一位を取ったのは思愛莉でシャーリーの実際の学力は……。
「シャーリーは次、眼鏡無しで頑張れ」
「眼鏡の有る無しでそんなに変わるんですか?」
「太陽と月ぐらい違う」
もちろん太陽がシャーリーで、月が思愛莉だ。
「そういえばさ、テストが終わったから体育祭くるよ」
「体育祭ってなんでやるんですかね……」
シャーリーが遠くを見つめてしまった。
「それはあれだよ。テストでいい点取れなかった体育会系への配慮」
「いい点取れなかった文化系の人への配慮はないんですか?」
「それは文化祭とかじゃないの。要するにいい点取れなかった陰キャボッチは学校に向いてないってことだよな」
だから学校というものが好きではない。
なんでもかんでも団体行動を強いられて、それが出来ない奴は異分子として排除される。
「ほんとにシャーリーが居なかったら行事全部休んでたかも」
「そんな冗談を言っても私が嬉しくなるだけですよ」
「事実だし、シャーリーが嬉しいならそれでいいよ」
行事なんてやりたい奴だけがやればいいとは今でも思っているけど、それでもシャーリーとなら楽しめそうな気がする。
「シャーリーはちゃんと出なきゃだしね」
「なんでですか?」
「テストの成績良くても授業態度が悪いから」
「うっ……」
授業態度が悪いというよりは、授業中ずっと寝ているから……まぁ授業態度が悪い。
今回は思愛莉のおかげでテストの点数が良かったけど、思愛莉曰く「あんまり私がやるのは良くないと思うんですよね」と言っていたから、次がどうなるかは分からない。
一応、今の主人格はシャーリーになるから、俺も思愛莉に頼り過ぎるのはいいとは思わない。
いつか共存できて、適材適所で人格を使い分けるなんてことが出来たらそれはそれでいいのかもしれないけど。
「それがなくてもシャーリーは体育祭には出なきゃだよね」
「どうしてです?」
「シャーリーはなんでこの高校選んだんだっけ?」
「七不思議を解明する為です」
「七不思議は後なにがあった?」
「えっと、『体育祭の神隠し』と『裏生徒会』、後は分からないやつです」
自分で言っているのにシャーリーは「それが?」みたいな顔をこちらに向けてくる。
可愛いのでしばらく見ていたいけど、答え合わせをする。
「『体育祭の神隠し』はいつ起こるの?」
「それは分からないですけ……体育祭です!」
「なんかシャーリーって感じでいいと思う」
両手を合わせて大袈裟に反応する辺りに微笑ましさを感じる。
「でも神隠しってなんでしょうね?」
「それは神隠しがなにかを聞いてる? それとも比喩なのかどうかを聞いてる?」
「さすがに神隠しぐらいは知ってますよ。あれですよね、人が居なくなるっていうやつですよね」
「簡単に言えばそうだね。だから今回のは、体育祭中に人が居なくなるってことだよね」
これもなんとなくは答えが分かっているけど、まだふわふわした答えだからシャーリーと一緒に考える。
「突然いなくなったら大変ですよね。競技に出る人が足りなくなっちゃいます」
「そこなんだ。人がいなくなったら普通にやばいと思うんだけど」
「でもそれなら七不思議になる前に事件になってませんか?」
「それもそうか」
「ふふん。助手さんに勝った気分です」
シャーリーがドヤ顔で胸を張る。
可愛いので今度また負けるのもいいかと思った。
「まぁ本番になれば分かるのかな」
「本番……楽しみなような、そうじゃないような」
「別に体育祭は適当にやればいいよ」
「適当なんて駄目ですよ。助手さんは知らないんです。体育祭で私みたいな運動神経が無い人がどうなるのか」
言いたいことは分かった。
確かに学校行事ガチ勢がイキるのは仕方ないことだ。
実際うちのクラスでも数人の陽キャが「絶対に優勝する」とか息巻いてた。
体育祭なんかの学校行事は所詮出席日数稼ぎに過ぎないのに。
「またなにか暗いこと考えてますね」
「シャーリーを悪く言う奴がいたら『二度と学校に来れなくしてやろうか』とか考えてないから」
「そんなことしたら駄目です!」
「しないよ。それだと体育祭の後に神隠しにあうことになるからね」
「そういうことじゃないです!」
さすがにそんなことはしないけど、もしシャーリーが傷つくことがあったらなにかするかもしれない。
(別のとこでキレそうなんだよな)
そんなことを考えながらシャーリーと体育祭について話し続けた。
そして体育祭の日がやってきた。
「助手さんお疲れ様です」
「疲れた。癒して」
競技を終わらせた俺はシャーリーと共にクラスの席から外れて木陰に移動している。
「なでなでします?」
「疲れと一緒に意識が飛びそう。今はいいや。シャーリーでセラピっとく」
「セラピ?」
「アロマセラピーならぬシャーリーセラピー」
シャーリーは隣に居るだけで俺を癒してくれるから、特に何もする必要がない。
「じゃあ私も助手さんセラピーしてますね」
「漢字とひらがなとカタカナってなんかハイブリッド」
「そうなんですか?」
「さぁ」
今の俺は特に何も考えないで喋っているから、自分でもよく分からないことを話している。
「あなた達、ほんとに仲良しね」
「茜先生?」
せっかくシャーリーに癒して貰っていたのに不純物が来たせいで気分が悪くなってきた。
「またお邪魔してしまった」
「何してんだ? サボりなら密告するぞ」
「だから怖いって。サボりじゃないの。私に運営を任せると大変なことになるかもしれないからって見回りを任されたの」
確かにこの教師になにかを任せたらそれこそ生徒が神隠しにあってしまう。
「助手さん、神隠しってまさか……」
「違うと思う。あんた去年の体育祭でも誰か閉じ込めた?」
「タメ口……まぁいっか。やってないよ。だって体育祭中は体育倉庫の管理はゴリ先生だし」
俺は体育委員の経験がないから分からないけど、体育祭の時は体育倉庫が空きっぱなしかずっと閉まっているイメージがある。
だから閉じ込められることは無いはずだ。
「ここは見回りに反応した方がいいと思う」
「茜先生。なんで見回りしてるんですか?」
「あなた達みたいのがいるからかな」
これでふわふわした答えが確信に変わった。
シャーリーはまだ分かってないみたいだけど。
「穴場教えようか?」
「教師の言うことか」
「白昼堂々とやられるよりかはいいでしょ」
「何もしてねぇよ」
ただシャーリーと一緒に居るだけでこういうことを言われるのが毎回腹立つ。
言っても余計にうざくなるだけだから何も言わないけど、そろそろなにか考えた方がいいのかもしれない。
「早く見回りに帰れ」
「日差しがキツイから私もここに居たら駄目?」
「その場合は前のことも含めて全部話すからな」
「じゃあね、私はお仕事してくる」
そう言って五十鈴……はそそくさと見回りに戻った。
「助手さんって茜先生と仲良しですよね」
「どこを見たらそうなるんだよ」
「なんとなくです」
シャーリーが足で土をぐりぐりとして、少し寂しそうに言う。
「違うけど、そう見えたなら言っとくね。俺の一番は常にシャーリーだから」
「心呂さんと比べたらどっちが一番なんですか?」
「そういう男がめんどくさいって思う質問するんじゃないよ」
「ごめんなさい」
別に本気で怒ってる訳でもないけど、シャーリーが更に落ち込んでしまった。
「姉さんとシャーリーを比べるの嫌なんだけど、シャーリーが気になるなら言うよ。これはもちろん姉さんの前でも言えることだけど、俺の一番はシャーリーだから」
姉さんのことはもちろん好きだけど、今どっちがより好きかを聞かれたらシャーリーと答える。
「ほんとですか?」
「ほんとに」
「証拠ありますか?」
「ほんとにめんどくさいこと言うようになったね。ここでキスでもしたらいい?」
俺がそう言ったらシャーリーが顔を真っ赤にして「だ、大丈夫です。信じます」と顔を逸らした。
「ほらなんか変な雰囲気になったじゃん」
「ごめんなさ……私のせいですか?」
「シャーリーはもうちょっと俺を信じていいと思う。俺がシャーリーに嘘ついたの初めて会った時だけだよ」
「それが嘘の可能性だってあるじゃないですか」
「悲しいよ。泣いていい?」
「ご、ごめんなさい。どうぞ」
シャーリーはそう言って両手を開いてこちらを向いてきた。
「それはさすがに恥ずか死ぬ。七不思議解明に行こ」
「は、はい」
どうやらシャーリーの方も恥ずかしかったようで、そそくさと立ち上がった。
そして当たり前のように手を差し出してきた。
(これは恥ずかしくないんだよね)
そんなことを思いながらシャーリーの手を掴み、そのまま俺達は『体育祭の神隠し』の解明に向かった。
「最近の若い子って大胆」
俺がだいたいの目星を付けた場所に来たら、そこには五十鈴が壁に隠れるように、実際隠れてなにかを見ていた。
「これは変質者として通報した方がいいのかな」
「あなた達もここでやりに来たの?」
「変態は無視して解明だ、分かった?」
「なにがあるんですか?」
シャーリーはそう言って五十鈴が見ていたところを覗き込んだ。
「はぅ」
そして顔を真っ赤にして帰ってきた。
「分かった?」
「ひぁい」
「可愛い。帰ろっか」
「帰ります」
シャーリーは俺の手を引っ張るようにその場を離れた。
『体育祭の神隠し』は単純にカップルが席を抜け出して、五十鈴の言っていた穴場で色々としているということだ。
色々がなんなのかは見ていないから分からないけど、シャーリーには刺激が強かったらしい。
その後のシャーリーはずっと顔を赤くしてなにかを考えている様子だった。
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