不思議12 手紙とあーん
「シャーリーってさ、人に興味無い人?」
シャーリーが弁当を食べようと手を合わせてるところに、俺がいきなりそんなことを聞く。
「どうしてですか?」
「いやさ、シャーリーが俺以外の人と関わってるの見た事ないし、視線とかも無関心だから」
シャーリーと俺は入学式の次の日に授業のすっぽかしをしたせいか、クラスの奴らから遠巻きに見られている。
そのせいもあってか、俺とシャーリーはクラスの奴から話しかけられることはない。
「興味が無いというよりは、話すことが無いから話さない感じですかね」
「俺と同じか」
俺の場合はそれだけじゃなく、興味関心も無いけど。
「シャーリーに変な虫が付かなくていいや」
「虫さんですか?」
「いちいち可愛いな。それで告白ゼロなのはやっぱりすっぽかしのせいか」
俺は登校とシャーリーが電車に乗った後以外は常にシャーリーと一緒に居るから知っている。
シャーリーがまだ告白されてないことを。
この可愛さなら四月中に何回か告白されるのかと思っていたけど、すっぽかしのせいもあり告白された感じがない。
「告白ですか? されないですよ」
「もしされたら?」
「お断りします。今は七不思議の方が大事ですから」
優しいシャーリーだから断れるのか不安だけど、信じるしかない。
「それにあまり知らない人と一緒に居るのは苦手なので」
「初日によく俺みたいな変人に話しかけられたな」
「助手さんは変じゃないですよ。でもそうですね、助手さんは初めて会った気がしない感じがあったのかもしれません」
「俺とシャーリーが会うのはあれが初めてだったよ」
「分かってますけど、そんな感じがしたってだけです」
俺とシャーリーはこの高校で初めて会った。
話しかけてきてくれたのがシャーリーでほんとに良かったと今でも思う。
「そういえば今日、下駄箱にお手紙が入ってました」
「……は?」
シャーリーはそう言うと鞄の中から一枚の手紙を取り出した。
「調査依頼とかかと思って、助手さんと見ようって思ってたのを忘れてました」
その手紙には見えるところに宛名なんかは書いておらず、ちゃんと白い封筒に入っていて確かに依頼と言われたらそう見えなくもない。
「とりあえずシャーリーが見て。それで俺が見てもいい内容なら見せて」
「一緒に見ないんですか?」
「もしも女子の依頼だったら男に見られたくないだろうしさ」
「なるほどです」
実際は怖いのが半分、期待が半分といった感じだ。
もし告白の手紙なら見るのに勇気がいるし、もしかしたら本当に女子的な依頼かもしれない。
前者の可能性が高いけど、一縷の望みにかけてシャーリーの言葉を待つ。
「助手さん」
「なんだ?」
手紙を読み終えたシャーリーが俺に声をかけたので、それに普通を装って返事をする。
「今日は一緒に帰れそうにないので先に帰っていてください」
「……分かった」
ちょっとショックが大き過ぎて思考がまとまらない。
それはつまりそういうことなのだろうか。
「助手さん?」
「大丈夫、ちょっと絶望に打ちひしがれてるだけだから」
シャーリーの個人的なことだから俺にとやかく言う権利はないけど、正直に言うと付いて行きたい。
せめて手紙を読みたい。
だけど隠し事が出来ないシャーリーが、自分の判断で俺に手紙は見せられないと判断したのなら読みたいなんて言えない。
「助手さん手が震えてますよ」
「大丈夫だよ。現実が残酷なのは今に始まったことじゃないから」
手が震えて弁当がまともに食べられない。
今日は姉さんが作ってくれた弁当だから残すことは絶対にしないけど、このままでは食べられる気がしない。
「助手さん、お箸貸してください」
「何故に?」
「食べさせてあげます。私のお箸は口に付けてしまったので」
「それは悪いよ」
変態的なことを言うと、別にシャーリーが口を付けた箸でも別にいい。
それはそれとして、姉さんが作ってくれた弁当を残す訳にもいかないから食べさせて欲しい。
だけど今それをやられるとシャーリーに依存しそうで怖い。
とか思ったけど今更だった。
「どれから食べます?」
「お、シャーリーの無視。そういうの好き」
「卵焼きが綺麗です。お箸渡してくれないと私ので食べさせますよ」
「それは脅しになってないからな。ご褒美だからな」
ついそんな変態的なことを言ってしまった。
だけど言われた本人は。
「助手さんがいいなら」
そう言って卵焼きをシャーリーの箸で取って俺の口元に運んできた。
「あーんです」
「何この羞恥プレイ。ハマったら責任取ってよね」
そんな冗談を言いながら卵焼きを食べた。
「姉さんの料理はいつも美味しいけど、いつもより美味しく感じてしまった」
「それなら良かったです」
そう言ってシャーリーはご飯や他のおかずを順番に食べさせてくれた。
「ご馳走様でした。ありがとうシャーリー」
「いえいえ。助手さんのお顔が元気になったので良かったです」
「そんなに顔死んでた?」
「はい。特に目が」
どうやら死んだ魚のような目をしていたみたいだ。
どうりでクラスの奴らから同情の視線を感じる訳だ。
「私も食べないとです」
「ごめん」
「大丈夫ですよ。でも今度は助手さんが食べさせてくださいね」
シャーリーはそう笑顔で言ってくる。
(取られたくないなぁ)
このシャーリーの笑顔をずっと隣で見ていたい。
シャーリーの隣という席を誰にも譲りたくない。
「あ、ほうれす」
「食べながら喋らない。可愛いからいいけど」
俺のせいで食べるのを急がせてるからそんなことを言えた義理ではないのだけど。
「ごめんなさいです。い、いつもはしないんですよ。ただ早く助手さんに伝えたいことがあって」
(可愛いかよ)
「それで?」
「今週末にお母さんとスマホを買いに行くことになりました」
「今週末ってゴールデンウィークか」
「はい。助手さんと会えなくても寂しくないです」
(だからいちいち可愛いんだよ)
最近シャーリーの言葉の全てが愛おしくてちょっとやばい。
「そうです! ゴールデンウィークに探偵のお勉強をしに行きませんか?」
「何するの?」
「今、探偵ものの映画がやってるのをご存知ですか?」
「知ってる。シャーリーこういうの好きなのかなぁって思ってた」
シャーリーの部屋に入った時に、探偵ものの小説や漫画が大量にあったのを見て俺も少し調べてみた。
そしたらちょうど一昨日ぐらいに探偵ものの映画がやるのを見つけた。
「一緒に行きませんか?」
「……行く」
これは断じてデートのお誘いではない。
あくまで探偵の勉強だ。
だからそんな邪推でシャーリーの純粋を汚す訳にはいかない。
「やった。助手さんとお出かけです」
「お勉強じゃなかった?」
「お、お勉強ですよ。次いでに人間観察も教えてください」
「いいけどあんまりいい事じゃないよ?」
人間観察とは要するに人を直視すること。
だからされてる側からしたらいい気分はしない。
「それならお互いでやるというのはどうでしょう」
「最初にやらなかった?」
「相手の思考を当てるゲームです」
「二十の質問?」
相手の考えているものを二十個の質問の間に当てるゲーム。
父さんと何度もやったことはあるけど、一度も勝ったことがない。
「あれやってみたかったんですよね」
「お母さんとやらないの?」
「お母さん、私とだと相手にならないってやってくれないんです」
(分かる)
シャーリーは分かりやすいから質問しないでも分かる可能性がある。
「じゃあ映画を見る前か後にでもやろうか」
「ほんとですか! 更に楽しみが増えました」
シャーリーがとても嬉しそうにしている。
それを見られて俺も嬉しい。
「ゴールデンウィークが終わったら『失踪する本』も解明しに行かないとね」
「そうでした。助手さんとのお話が楽しくていつも忘れてしまいます」
ちなみに俺は分かっているけどシャーリーと話したいから気づいてないフリをしている。
「食べるの止めてごめん。昼休み終わるから食べて」
「こっちも忘れてました」
そう言ってシャーリーは残りの弁当をそそくさと食べた。
この状況が楽しくて俺は忘れていた。
放課後にシャーリーが呼び出しをされていたことに。
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