不思議11 解明と温もり
助手さんに閉じ込められたと言われて私は急いで入口に向かいました。
開けようとしたら本当に開かなくて閉じ込められていました。
「助手さん……」
「ほんとにごめん。なんか鍵を閉めた音が聞こえたから閉じ込められたのかもって思ってたんだけど」
「いえ、私も気づけなかったのでごめんなさい」
雨音もあり私には鍵の音なんて聞こえたなかったです。
「ほんと駄目だな。シャーリーに見惚れてシャーリーを危険な目に合わせるとか」
(私は何も聞こえてません)
今までは嘘と決めつけていたから平気でしたけど、助手さんが素直になると言ったせいか助手さんの言葉にドキドキしてしまいます。
「シャーリーに問題」
「は、はい」
「誰が閉めたと思う?」
「それは鍵を持っている先生では?」
「じゃあ理由は?」
「理由ですか……」
私達を閉じ込める理由。
先生は私達が体育倉庫に居ることを知っているはずですから、閉める前に中を確認するか声をかけるはずです。
だけど閉められてしまったということは、わざとの可能性が出てきます。
「授業中なのに助手さんとお話してたからですか?」
「そんな理由で閉じ込めたらクビになるよ」
「そうですよね」
助手さんとのお話が楽し過ぎて授業中なのに沢山お話して怒られてしまったからもしかしてと思ったのですけど。
「クラスの方ではないですよね?」
「多分違うな。体育教師の持つ鍵を借りてる時点でバレるから」
「ですよね」
「まぁ誰かに借りさせて罪を擦り付ける可能性もあるけど」
助手さんはたまに思考が暗くなる時があります。
一つの可能性を言っているだけなのでしょうけど、なんだかとっても……。
「シャーリー何してる」
「頭を撫でてます」
「なんでだよ」
「なんででしょう?」
自分でもよく分からないですけど、助手さん頭を撫でたくなりました。
「ご褒美は褒められたことをした時だけだぞ」
「これは多分ご褒美じゃないです」
「じゃあ何?」
「それは分かりません」
分からないことを胸を張って伝えます。
「ほんとシャーリーはシャーリーだよね」
「助手さんの笑顔が貰えました、これはご褒美特大ですか?」
「うるさい」
助手さんにおでこを指で優しく押されました。
今の状況がずっと続けばいいのにと思ってしまいます。
「いや、駄目です」
「急に何」
「なんでもないです。それより誰が閉じ込めたかですよね」
「難しく考える必要ないよ」
「そう言われてもですね……」
誰が閉じ込めたか、これは先生であってるはずです。
だけどなんで閉じ込める必要があったのかが分かりません。
「別に閉じ込めた訳じゃないよ」
「え?」
でも今、私と助手さんは閉じ込められています。
「言い方変える。閉じ込めるつもりはなかったんだよ」
「でも……」
先生が私達にお片付けを頼んだのだから中に居るかの確認は取るはずです。
だから分からなくなったのですけど。
「俺達にパワハラしてる時に居なかった人いたでしょ」
「あ」
確かにあの時いなかった方がいます。
「じゃあこれって」
「そうだと思うよ」
「茜先生が私達に気づかないで閉めてしまったってことですか?」
「それが一番しっくりくる」
だけどそれだと困ったことがあります。
「つまり誰かが気づくか、雨が止んで体育倉庫を誰かが開けるまで出られないということですか?」
「そうだね」
助手さんがなんでもないようにしているので私もそんなに緊迫感がないですけど、とても大変な状況な気がします。
「助手さんのその余裕は出る算段がついているからですよね?」
「アイデア募集中」
「……」
助手さんのせいではないので何も言えないですけど、少し絶望してしまいました。
「俺が余裕あるように見えるなら、多分焦ってもいいことないのな本能で分かってるからってのと……」
「と?」
「不謹慎だけどシャーリーと二人っきりなのが少し嬉しいからかな」
「助手さんのバカ」
こんな状況なのにそんなことを言われたら私も嬉しくなってしまいます。
でも助手さんがいつも通りのおかげで私も焦らずにいられるのかもしれません。
「何箇所か出られるかなって場所が無くは無いけど」
「さすが助手さんです」
「期待するなよ。多分出られないから」
助手さんはそう言って、入口とは反対の方に歩いて行きます。
「窓ですか?」
「そうだけど、やっぱ無理か」
窓はありますけど、小さいので出られそうにありません。
「私、女子ですから無理したらいけませんかね?」
「シャーリーは絶対に無理」
「そ、そんなに太ってないですよ!」
確かに最近少し体重が増えていましたけど、見た目は変わってないはずです。
「違くてね。シャーリーはとある場所が高校生じゃないから無理なの」
「え?」
「気にしないで。要するに可愛いってことだから」
「今のは絶対に褒めてないですよね」
「俺の悪影響のせいでシャーリーが人を疑うようになった。良いのか悪いのか」
助手さんは可愛いって言えば私が喜んでなんでも許すと思っています。
まぁ嬉しいんですけど。許すんですけど。
「なんで鍵なのに中から開けられないんだよ」
「なんでなんでしょうね?」
「外で南京錠掛けてるからかな」
「なんでって言っておいて答えを知ってるのはいじわるです」
確かに思い出してみたら南京錠で鍵を掛けていました。
「ごめんて。大人しく待つしかないかな」
「そうですね」
私達が体育倉庫に行っていたことはクラスの方が知っているはずなので、次の休み時間に私達が居ないことに気づいた方が先生に言ってくれるかもしれません。
「問題なのは俺とシャーリーって入学式の次の日に授業サボったから、それだと思われるかもなんだよね」
「ごめんなさいです」
あれは完全に私のせいです。
先生に軽く怒られただけで済みましたけど、しばらくクラスの方がざわざわしてたのを覚えています。
「あれがあったから女子が俺とシャーリーを付き合ってるとか言うのは分かるけど、シャーリーがフリーだと思ってる雄共はやっぱ狙ってんのか」
「なにをです?」
「なんでも無い。俺がシャーリーを守るってだけの話」
「ありがとうございます?」
何から守ってくださるのかは分かりませんけど、助手さんが守ってくれるのなら頼もしいです。
「あ、そういえば『体育倉庫の悲鳴』が分かったんですよね」
「分かったよ。今回は簡単だからヒントいらない?」
「頑張ります」
私はそう言って頭を捻ります。
「分かってると思うけど体育倉庫が悲鳴を出してる訳じゃないからね」
「その発想はありませんでした」
『体育倉庫の悲鳴』と言うなら確かに体育倉庫自体が悲鳴を出してるのが文字通りの意味です。
「ではやはり中に人が居るという状況ですよね」
「そう」
(まるで今みたいです)
「どういった状況で体育倉庫の中に入って悲鳴をあげたかですよね」
「そんな悩むことだった?」
「ご、ごめんなさい」
助手さんの反応からそんなに悩む必要はないはずです。
後は悲鳴をあげた理由を考えれば。
「悲鳴って多分比喩だよ。叫んだでもいいと思うけど」
「叫ぶですか」
「今の状況が悪いな。シャーリー、今ここにはシャーリーが一人だけしか居ないとしたらどうする?」
「私が一人……」
この薄暗い倉庫に一人。
その状況を想像したら……。
「泣くなよ」
「ご、ごめんなさいです」
あまりにも寂しくて涙が出てしまいました。
そんな私を助手さんが優しく抱きしめてくれます。
「今は俺が居るから。変な想像させてごめんね」
「わ、私の方こそごめんなさい。でも分かりました」
確かに簡単でした。
要は私達と同じ状況になった人が、中から助けを呼ぼうとして叫んだ結果、悲鳴に聞こえて七不思議になった訳です。
「前に問題起こしたって聞いたから多分そうだと思う」
「助手さんは一緒ですよね」
「今の話?」
「今もこれからもです」
助手さんが居ないで一人この倉庫に閉じ込められたのを想像したら、助手さんがいつか隣から居なくなるかもと思ってしまいました。
私はそんなの嫌です。
「俺はシャーリーが嫌だと言うまで隣に居る」
「嫌だって言ったら離れちゃいますか?」
私がそんなことを言うことはないけど、もしそれが助手さんに取っていい事だと思ったら言うかもしれないです。
「その時は理由を問い質して、どうにか隣に居られるようにする」
「ほんとですか?」
「ほんと。それともしシャーリーが一人で閉じ込められたら俺が絶対に見つけ出すから。まぁ、まず一人にしないけど」
助手さんのその言葉が嬉しくて、更に涙が溢れてきました。
「冷えてるなら言ってよ」
「今あっためて貰ってます」
「ほんと可愛いな」
助手さんがそう言って抱きしめる力を強めました。
助手さんの温もりをいっぱい感じます。
(出来るのならこのままずっと……)
なんてことを考えでいたら入口がガチャガチャ言い出しました。
「誰も居ませんよ……」
体育倉庫を開けた茜先生が私達を見て固まっています。
「これはもう少し来ない方が良かった?」
「は? それでシャーリーが風邪でも引いたらどうするつもりだ? もしそうなったら俺はあんたの一生をどうするか分からないぞ」
「高校生の迫力じゃない……」
助手さんがとても怒っています。
ずっとこのままがいいなんて思った私も一緒に怒られてる気分です。
「大変申し訳ありませんでした。ゴリ先生にあなた達に片付けを頼んだって聞いて『またやってないな?』って言われて急いで見に来たんですけど」
「つまり黙ってろと?」
「出来るのなら」
茜先生が腰が折れてしまうのではないかと心配になるぐらい頭を下げています。
「俺達は今の授業中にどこに居たんだ?」
「二人で逃避行とか?」
「お前中に入れ」
「はい」
助手さんが茜先生を倉庫の中に入れて私の手を引いて外に出ました。
「あの、まさか」
「少しは反省しろ」
助手さんはそう言って倉庫の扉を閉めました。
「私が悪かったです、出してください」
助手さんは無視して私の手を引いて歩き出します。
「鍵は掛けなかったんですね」
「だって鍵持ってんのあれだからほんとに出れなくなるでしょ」
助手さんは南京錠は掛けずに、開かないようロックだけしていました。
「ゴリ先生に伝えとくか」
「それ怒られますよ」
「言った奴もちゃんと伝えとくからいいんだよ」
助手さんは少し嬉しそうに私を手を引きます。
私と助手さんは雨上がりの空の下を仲良く歩きます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます