不思議7 ライバルと罪悪感

「可愛い助手さん」


「シャーリー、それ以上俺をからかったらどうなるか分かってるか?」


「どうなるんですか?」


「俺が死ぬ」


 助手さんが真剣な表情なのでやめることにします。


「それなら助手さんもやめてくださいよ」


「俺のは本気なんだけどな。まぁそれ言ったらシャーリーもだからやめる」


「やめる気あります?」


 助手さんは表情があまり変わらないから本気と言われても嘘の時との違いが分かりません。


 だから全部嘘ということにしてますけど、本当に嘘じゃなく、本気の可能性も考えないと失礼なのかもしれません。


「シャーリーの真面目モード入った。気にしないでいいよ。それより階段行こ」


「はい」


 私と助手さんは近くの階段に向かいました。


「まぁ普通だよな」


「普通ですね」


 助手さんはもう分かっているのについて来てくれているのですから、早く解明しなくては。


「来たようねぽんこ」


「どうするヒントいる?」


「まずは自分の力だけで考えてみます」


 何か聞こえたような気がしますけど、今は一刻も早くこの不思議を解明して助手さんと感動を分かち合いたいです。


「ねぇ聞い」


「ヒントが欲しかったら言ってな」


「はい」


「無視しないでよぉ」


「おいそこの助手、女の子を泣かすなよー」


 さすがに無視をするのも酷い気がしたので助手さんに目線を向けます。


「どうした? ヒントいる?」


「助手さんわざとですか?」


「わざと」


「わざと無視すんなー」


 階段の上から一段一段下を見ながら下りてくる女の方が助手さんに叫びます。


「全然気がつかなかった」


「あんた今『わざと』って言ったよね」


「言葉の綾だろ。イヤーコンナカワイイオンナノコヲムシスルオトコハイナイダロー」


「カタコトで言うな!」


 なんだかモヤモヤします。


 助手さんが誰かととても仲良しなのを見るといつもモヤモヤします。


(なんなんでしょうか)


「飼い主、ペットのリードはちゃんと持っとけ」


「すまんね。うちのペットは一向に懐かなくて」


「何あんたペット飼ってんの?」


「そうそう、じゃじゃ馬なんだけど可愛いから許せちゃうんだよね」


「今度見せてよ」


「今見せてあげるよ」


 男の方はそう言ってスマホで女の方の写真を撮りました。


 そしてその写真を女の方に見せます。


「ほら可愛いでしょ」


「かわ、……ん?」


 一瞬女の方が照れたように見えましたけど、すぐに不思議そうな顔に変わりました。


「誰がペットだ!」


「可愛いで誤魔化せなかった」


「それも嘘でしょうが」


「本気だって」


 それを聞いた女の方が叩いていた手を止めました。


 そしてみるみるうちに顔が赤くなっていきます。


「ちょろい」


「うっさいバカー」


 女の方が男の方の肩を掴んで揺らします。


「助手さん」


「なんだ?」


「お知り合いですか?」


「いや全然」


 また嘘をつかれました。


 絶対に助手さんのお知り合いのはずです。


「知り合いではあるだろ。仲良くは無かったけど」


 男の方が揺らされながらそう言います。


「どういうことですか?」


「俺達三人は中学が一緒なんだよ。それでよく余り物の三人でグループになってた……そろそろやめろ」


 男の方が女の方にデコピンをして動きを止めました。


「痛い」


「そういえばよく一緒になってたぼっちが二人いたな」


「お前もだろ」


「そこの可愛いもどきと違って俺は友達作る気すら無かったんだよ」


 助手さんはそう言って女の方を指さします。


「もどきとか最低。怜文可愛いじゃん」


「俺の周りに本物が二人も居るんだから仕方ないだろ」


「北条さんだっけ」


 男の方が私をじっくり見てきます。


「確かに可愛い。でも怜文の方が可愛い」


「見た目だけで分かった気になるな。シャーリーは見た目だけじゃない」


「お前だって怜文のこと何も知らんだろ」


 なんだか助手さんと男の方の間に火花が見える気がします。


「やめなさいバカ亜嵐」


「痛い」


 女の方が男の方のお腹を蹴りました。


「仕方ないから自己紹介してあげる。私は」


守住もりずみ 怜文れもん世界一可愛い探偵を目指す高校いちね……」


「あんたほんと黙れ」


 守住さんが男の方の口を手で塞ぎました。


「まぁ言われたけど私は守住 怜文。名前は好きじゃないから呼ぶなら名字で呼んで」


「はい。守住さん」


「それでこれが司波しば 亜嵐あもん。そこの……」


「綿利 潤な」


「綿利と三人でよく余り物グループ組んでただけの関係。綿利とは話したこともないから」


 それを聞いて何故か安心する私がいます。


「守住さんと司波さんは仲が良かったんですか?」


「まぁ色々あってね。私が仕方なくこれの面倒見てあげてるの」


「司波さんって守住さんのことが好きなんですか?」


「違う違う。そう言って恥ずかしがる私を見るのが好きなだけ」


「助手さんみたいです」


 これを似た者同士っていうんでしょうか。


 やっぱり似た者同士は引き合う何かがあるんでしょうか。


「まぁ確かに似てるかもな」


「相手が鈍感なとことか」


 司波さんが守住さんの手を退けてそう言います。


「まぁそこがいいとも言えるけど」


「同感」


「男の友情ってやつ? あんたらはもうちょっと女子の気持ちを考えた方がいいよ」


「そっくりそのまま返すけど?」


「意味分かんないし」


 今度は守住さんと司波さんの間に火花が見えます。


「あの!」


「何?」


「私の自己紹介がまだでした。私は」


「北条 思愛莉でしょ?」


 司波さんが私の名前を知っていたのも気になりましたけど、守住さんまで知っているなんて思いませんでした。


「なんで私の名前を知っているんですか?」


「あんた七不思議を解明しようとしてるんでしょ?」


「はい」


「私もなの。だからいわゆる商売敵の情報も集めてる訳」


 全然考えていませんでした。


 私以外にも七不思議を解明しようとする人がいるなんてこと。


 もし先に全ての七不思議を解明されてしまったら助手さんにお願いを叶えて貰うことが出来ません。


「私はもう階段は解明したから。ぽんこつのあなたは私が全てを解明し終わるまで考えてなさい」


「ちなみに北条さんのことと二つの七不思議を解明したの俺だから」


「ちょ」


「親近感が湧きます」


 私も助手さんがいなかったら『消える隣人』は解明出来ていなかったので、守住さんと一緒です。


「私が解いたでしょ!」


「俺が全部説明した後に『分かった!』って可愛く手を挙げたのは誰だっけ?」


「分かってたけどあんたに解くチャンスをあげてただけだから」


「じゃあ残りは全部一人で解いてな」


「それは違うじゃん?」


 守住さんが少し慌てたように司波さんに言います。


「もっと可愛い顔してくれないと許さないから」


「い、いいし。一人で全部解明してやるし」


 守住さんがそう言って歩いて行ってしまった。


「結局なにがしたかったんだ?」


「北条さんに宣戦布告したかったんだって。だから階段解いた後に、休み時間の度にここに来て北条さん待ってたんだよ」


「律儀な奴だな」


「可愛いだろ?」


「まぁシャーリーには負けるけど」


「いずれ怜文の可愛さが分かる時がくるよ」


 司波さんはそう言ってほっぺたを膨らましてこちらを見ている守住さんの元に向かいました。


「負けられません」


「別にシャーリーに叶えたい願いがないならいいんじゃないか?」


「助手さんのお願いを叶えたいんです」


「なんも考えてなかった」


 助手さんがなんと言おうと、私は助手さんのお願いを叶える為に頑張ります。


「それはそれとして聞いていいですか?」


「なにを?」


「助手さんは守住さんのこと好きなんですか?」


「……は?」


 助手さんの表情が今までに見た事のないぐらいに怖くなりました。


「だ、だって守住さんにいっぱい可愛いって言ってたので。それに中学校も一緒で、仲も良さそうにしてたので……」


 言っていてどんどん寂しくなっていきます。


 私の知らない助手さんがいるのは当たり前なのに、それが自分に都合が悪いと寂しくなるなんて自分勝手です。


 だけど聞かないとモヤモヤが晴れそうにないから聞きます。


「俺がシャーリーに可愛いって言うのは無関心なのに守住に言うのは気にするんだね」


「だって……」


「自業自得だからいいんだけどさ。それより守住のことは可愛い子だとは思うよ。だけどそれだけ」


 可愛いと思ったら好きなのではないのかと思ってしまいます。


「ちなみにシャーリーは守住のこと可愛いって思わなかった?」


「思いました。可愛い方ですよね」


「それなのに俺が思うのは駄目なの?」


「それは……」


 駄目ではないです。


 ただお姉さんに言うのと同級生に言うのでは意味が違う気がしてしまうのです。


「分かったよ。これからはシャーリーの前では誰にも可愛いとか言わない。居ない時に姉さんに言うのは許して欲しいけど」


「ほんとですか?」


「ほんと。俺はシャーリーに嫌われたくないから」


「嫌うだなんて」


 むしろ私が嫌われても仕方ないぐらいにわがままを言っています。


「とりあえず授業始まるから帰ろっか」


「はい」


 私は罪悪感で七不思議どころでは無くなってしまいました。


 その日はモヤモヤが晴れなかったので落ち込んだ私を気にした助手さんがお家まで送ってくれました。


 そして何故かお母さんと助手さんがお話を始めてしまいました。

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