不思議6 可愛いと好き

「助手さん!」


「シャーリーは元気だよな」


「助手さんは元気無いですか?」


 助手さんはいつも寝ているか退屈そうにスマホを眺めています。


「元気だよ。それなりに」


「体調が優れないのなら保健室に行きますか?」


「それだと余計悪くなるから駄目」


「なんでですか?」


 保健室はベッドもありますし、具合が良くないのなら行った方がいいと思ったのですけど。


「シャーリーと話してる時が一番調子いいんだよ」


「それなら沢山お話しましょう」


 助手さんが元気になって私も助手さんとお話が出来るなんて、お互いいいことしかないです。


「じゃあ七不思議の話でもしようか」


「私色々と情報集めてきましたよ」


 この数日、私は残りの七不思議の情報を集めていました。


 先輩方や先生方に聞いてみたり、学校を探検して自分なりに探してみたりしました。


「結果は?」


「七不思議のことを知っている方はいたんですけど、お姉さんのように深くは知らないようでした」


「だよね」


「なので分かった七不思議は二つです」


 聞けたのは『半分階段』と『失踪する本』。


「『半分階段』はよくある七不思議と同じように上りと下りで段数が違うというものらしいんです」


「半分ってことは段数が半分になるってこと?」


「はい。でも一段なら分かりますけど半分になるなんてあるんでしょうか」


 一段なら数え間違えの可能性も考えられますけど、半分となるとそれはもう……。


「今『階段だけに怪談話』とか思った?」


「……思ってないですよ?」


「ちなみに俺は思ったけど」


「ほんとですか! 同じですね」


「思ったんじゃん」


「あ」


 つい助手さんと同じことを考えていたことが嬉しくて素直に答えてしまいました。


「シャーリーは可愛いな」


「助手さんの小さい時も可愛かったです」


「シャーリーは自覚がないのか、俺の自業自得なのか。それより七不思議に戻ろうか」


 助手さんとのお話は楽しくてつい脱線してしまいます。


「そうですね『半分階段』は決まった場所とかはないようで、どこの階段でもなるみたいなんです」


「なら次の休み時間にでも見に行く?」


「是非!」


 助手さんならそう言ってくれると思っていました。


「後は『失踪する本』?」


「はい。それは図書室にある本が一冊消えるというものらしいです」


「よく分かるな」


「図書委員さんが人が居ないので貸出履歴と本の数が合っているか数えてみたらしいんです。そしたら一冊足りないことに気づいたみたいです」


 高校生になると図書室の利用者が減るようで、そんなに量も多くなかったみたいです。


 だからこそ数えようと思ったみたいですけど。


「なるほどね」


「ちなみに助手さんは聞いただけで分かったりしますか?」


「まぁ分かったけど」


 助手さんにとっては不思議でもなんでもないということなんでしょうか。


「そもそも七不思議の正解ってどう判定するの?」


「と言いますと?」


「全部の謎が解明されたら願いが叶うってことはさ、答えがある訳じゃん。つまり合ってるかの答え合わせが必要でしょ?」


 確かにその通りです。


『消える隣人』も辻褄はあっていますけど本当にあっているのかは分かりません。


「でも私は助手さんの答えがいいです」


「それが答えと違ったとしても?」


「はい。それにですね、私のお願いはもうほとんど叶っているので」


 私のお願いは助手が欲しいというもの。


 それならもう(仮)ではありますけど叶っているので私は助手さんと一緒に七不思議を解明出来ればそれでいいです。


「あ、そうです。お願いの権利は助手さんにあげるので何か考えておいてください」


「俺の願いね。考えとく」


「はい!」


 助手さんは物欲があるように見えないのでどんなお願いをするのか楽しみです。


「助手さんの好きなものってなんですか?」


「ものとは言わないけど姉さんとシャーリー」


「欲しいものとかはないですか?」


「なんも思いつかない。逆にシャーリーはあるか?」


「私ですか?」


 欲しいもの……沢山あり過ぎてどれを言えばいいのか分かりません。


「思い浮かんだの全部言ってみて」


「えと、やっぱり虫眼鏡は欲しいですよね。それと変装道具や吸う気は無いですけどパイプとかも欲しいです」


 他にも探偵っぽいコートや色んな探偵っぽいものが欲しいです。


「探偵とは関係ないもので欲しいものとかあるの?」


「今だとスマホですかね」


「いきなり現代的な」


「だって助手さんと連絡取れないと大変ですし、お家でもお話したいです」


「シャーリーの無自覚って最強だよな」


 助手さんの言ってる意味は分かりませんけど、私はお家でも助手さんとお話がしたいです。


 そうすればお家でお話したくなったことを学校まで待たなくてよくなります。


「お母さんにお願いしてたんですよね」


「なんて言ってお願いしたの?」


「お話したい方がいるので買ってくださいって言いました」


「お話したい相手を誰とか言った?」


「お母さんに聞かれたので『男の方』とだけ」


 助手さんのことを話しても伝わらないので、仲のいい男の方ということだけ伝えました。


「反応は?」


「少し不安そうな顔をして保留になりました」


「でしょうね」


「だけどですね、お姉さんと助手さんに送っていただいた日にお母さんが許してくれたので今度一緒に買いに行くんです」


 何故かあの日お姉さんが車に戻った後に「思愛莉の仲のいい男子って綿利さん?」と言われて「はい」と答えたらスマホを買ってくれることになりました。


 どうやらお姉さんの律儀さを見て弟の助手さんもいい人だと言うのが伝わったようです。


「……」


「助手さん?」


「いや、ついにシャーリーもスマホを買って貰えるのかと。スマホの見すぎは駄目だよ」


「お母さんと同じことを言わないでください!」


 お母さんにも「目がもっと悪くなったらスマホは没収して中身も全部見るから」と言われました。


「スマホを買って貰ったら一番に助手さんの連絡先を登録していいですか?」


「家族のしないと不便だよ?」


「駄目でしょうか?」


 家族のを一番に登録した方がいいのは分かっています。


 だけど私はそれでも助手さんが一番がいいです。


「ほんと無自覚って最強」


 助手さんはそう言ってノートを切ってスマホを見ながら何かを書き出しました。


「これ打てば多分出来る。やったことないから知らないけど」


「助手さんの連絡先ですか?」


「そう。ちなみに俺のスマホには家族の連絡先しか入ってないからちゃんと交換するのはシャーリーが初めて」


「私が初めて……」


 なんだかとても嬉しいです。


 この紙はスマホを買って貰えるまで大切に保管します。


「ちなみに落としたら俺の連絡先が流出するからね」


「絶対に落としません」


 貰った紙を生徒手帳に挟んで鞄の中にしまいました。


「早く助手さんとお話したいです」


「今してるじゃん」


「そういう意味じゃなくてですね」


「分かってるよ」


 また助手さんにからかわれてしまいました。


「助手さんは私のこと嫌いなんですか?」


「いや、大好き」


「その割には私を馬鹿にして楽しんでませんか?」


「嫌ならやめる。でもシャーリーの反応見てるのが好きでついね」


「別に嫌ではないです」


 助手さんにからかわれるのは何故か嫌な気持ちになりません。


 ただ不安になるだけです。助手さんは私をからかって遊んでいるだけではないのかと。


「最初に嘘をついたのが悪いか。ほんとに違うからね。強いて言うなら小学生男子が好きな女子を虐めてるのと同じ感じ」


「それ聞きますけどなんで好きな相手を虐めるんですか?」


 そんなことをしたら嫌われて仲良くなれないと思います。


「実際そうなんだろうけど、男目線では好きだからって近寄って拒絶されるのが怖いから虐めて距離を近づけようとしてるんだよ」


「でも嫌われてしまいますよ?」


「ただ無関心ではないでしょ? 『嫌い』っていう感情を持って貰ってそこから大逆転するって感じ」


「出来るんですか?」


「普通は無理。たまに出来る奴いるけど、女の方がおかしい可能性もある。だけど男の方は本気で出来ると思ってるからやるんだろうね」


 私なら虐められた相手を好きになるなんてありえないです。


 実際中学校の時に私の夢を否定した人は好きになれなかったです。


「でもそれって助手さんのと違くないですか?」


「シャーリーからしたら同じじゃないか?」


「全然違いますよ。だって私嫌じゃないですもん」


 助手さんにからかわれるのは嫌な気持ちにならない。


 むしろその度に「可愛い」や「好き」と言って貰えて嬉しい気持ちの方が強いです。


 それが本心なのかは分からないですけど、嫌ではないです。


「ほんとごめんね。これからは出来るだけ素直に生きていきます」


「助手さんは助手さんでいいんですよ?」


「そんなシャーリーが好き」


 素直に生きると言った矢先にからかうんですから。


 だけどそんな助手さんが嫌いではないです。


「私もそんな助手さんが好きですよ」


 私もたまにはやり返さないとです。


「シャーリーは俺に好きって言うの禁止ね」


「なんでですか!」


「恥ずい」


 よく見たら助手さんの耳が赤くなっています。


「やっぱり助手さんは今も可愛いです」


「やめなさい」


 助手さんが机に伏せてしまいました。


(反応が可愛いってこういうことを言うんですね)


 ならやっぱり助手さんが言ってるのは冗談ということになります。


 私はこんなに可愛くありませんから。


 そして私は授業が始まるまで助手さんを眺めていました。

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