不思議5 友達の関係
「お父さん、お母さん。潤がお姉ちゃんを虐めます。どうしよう」
姉さんが窓の外を眺めながらそう呟いている。
「姉さんはとりあえずほっといて、ちゃんと七不思議の話しようか」
「したいです!」
シャーリーがとても嬉しそうに答える。
「じゃあまず『消える隣人』の他になにがあるの?」
「えっと『半分階段』『体育倉庫の悲鳴』『失踪する本』『体育祭の神隠し』『裏生徒会』の六つだけが分かってます」
「最後の一つは?」
「それは六つを解明したら分かるみたいです」
「シャーリーはどこで七不思議を知ったの?」
俺は特に学校のことは調べずに、近いからという理由であの学校を選んだけど、学校の七不思議は調べたら出てくるものなのか疑問に思う。
「学校のパンフレットを読み解くと書いてあるんです」
「そんなの読んでないわ」
確か持ってはいた気がするけど、一度も開いてはいない。
「潤は卒アルも開かず捨てようとした子だもんね」
姉さんが現実に戻ってきたようで、今度は俺の隣にちょこんと座っている。
「卒アルって持ってていいことあるの?」
「私も必要かって言われても二度と見ることはないだろうけどさ」
「だって俺の場合集合写真とたまたま写り込んだだけのやつしかないし、あっても自分の写真とか興味ないでしょ」
そもそも俺は写真が好きではない。
「昔の……」
シャーリーが何か言おうとしたけど俺を見て口を閉ざした。
「気にしないで助手って呼んでいいから。姉さんが何か言ったら俺がちゃんと罰を与えるから」
「潤がお姉ちゃんを虐めることに快感を覚えた」
「反応が可愛いから」
「そういうこと真顔で言うし。お姉ちゃんの威厳が……」
姉さんはそう言ってうずくまる。
「では助手さんで。私、昔の助手さん見たいです」
「いや見ても面白くないよ?」
「助手さんが嫌ならいいんですけど……」
(そんな悲しそうな顔をするなよ)
俺としては別に見られたくない訳でもないけど、本当に見ても面白くない。
それに多分俺があれこれ考えてるうちに。
「何歳から見る? やっぱ生まれた時からだよね」
姉さんがいつの間にかアルバムを持ってきていた。
律儀に俺の卒アルまで。
「可愛いです」
「だよねだよね。この頃の潤はね、甘えたさんで私を離さなかったんだよ」
写真の下に『0歳』と書かれた写真を二人で見て楽しそうに話している。
この頃の俺はまだ純新無垢と言えた。
いつからだろうか、こんなにひねくれたのは。
「初めて立った時は一番に私のとこ来てくれたんだよ」
「この女の子がお姉さんですか?」
「私は見ないで」
そこには引き攣った笑いをしている姉さんが写っている。
「そういえば姉さんって俺のこと嫌いだったよね」
「そうなんですか?」
「嫌いって言うか、苦手だっただけだよ子供が」
俺も同じだから別に責めてる訳ではない。
ただ姉さんは俺が中二の時まで無関心だった。
「今しか見てないので想像出来ません」
「今は無理にブラコン演じてくれてるんでしょ?」
「違うよ! ほんとに苦手だっただけで嫌いな訳じゃないの。今だって弟としても男の子としても大好きだから」
姉さんは真剣に言っているけど、結構な問題発言をしている気がする。
俺も同じ気持ちだからいいのだけど。
「ほんとに仲良しさんです」
「てか七不思議の話してたんじゃん」
「そうでした」
「七不思議とか懐かしい」
姉さんがアルバムを見ながらそう呟く。
「姉さんの学校にもあったの?」
「あったよ。同じとこだって言ったじゃん」
そういえば姉さんも俺達と同じ高校だと聞いた気がする。
理由は俺と一緒で近かったから。
「聞いてた限りじゃ全部入れ替わってるけど」
「七不思議って変わるものなの?」
「私は友達いなかったからあんま知らない」
確か姉さんが高校生の時はバイトが忙しかったイメージがある。
あんまり記憶がないけど。
「俺も姉さんも母さんに似て人に興味なかったからね」
「ほんとね。お父さんだけだよ、人間観察が好きなぐらい人に興味があったの」
別に友達がいないからといって困ったことがないからわざわざ作りたいとも思わない。
「でも潤は出来たじゃん。とってもいい子の友達」
「シャーリー?」
「そうだよ」
友達を作ったことがない俺からしたら、どこからが友達なのかの基準が分からない。
シャーリーとは話していて楽しいし、ずっと話していたいとも思える。
だけどそれが一方通行の思いなら友達とは言えない気がする。
「北条さんは潤のことどう思ってるの?」
「いい人です」
「質問を変えよう。潤とは七不思議を解明するだけの関係?」
「違います!」
シャーリーが少し怒ったように否定する。
「私にとって助手さんは初めての理解者なんです。中学生の時に私が探偵を目指していることを知った人達はみんな私を馬鹿にしていました『絶対に無理だからやめとけ』とか直接言われたこともあります」
聞いてるだけで腹が立つ。
人の夢を赤の他人が否定していい訳がない。
「だけど助手さんは私が探偵だって言っても不思議そうな顔はしましたけど『無理』とか言わなくて、ほんとに嬉しかったんです」
あの時は確か探偵だからシャーリーと呼んで欲しいって言われてどういう理屈なのか分からなくてそんな顔をしていた気がする。
「そんな助手さんと七不思議を解明するだけの関係にはなりたくないです」
「じゃあ全部を解明したらどうするの?」
「一緒に謎探しをしませんか?」
シャーリーが俺に問いかける。
その顔は少し不安そうだ。
「俺は別に理由がなくてもシャーリーと一緒に居たいよ。でもそれはそれで楽しそうだからするよ」
「ほんとですか! やった」
シャーリーの顔が不安から一気に喜びに変わる。
「なんかいいものを見せて貰ったからお小遣いをあげる」
姉さんはそう言って自分の財布から千円札を二枚取り出した。
「生々しいな」
「貰えませんよ」
「ほんとはもっとあげたいとこだけど持ち金が無くて」
「そういうことじゃないから」
俺とシャーリーは姉さんに千円札を返す。
「いいネタにはお金を払いたかったんだけど。じゃあデートする時は言ってね。お金を全持ちするから」
「する予定ないし、姉さんから貰ったお小遣いが余ってるよ」
「いずれ来るから。それとお金を出す代わりにデートの話を聞かせて欲しいんだよね」
姉さんが冗談で言ってないのが真剣な顔で分かってしまう。
「あ、もちろんキスしたとかは隠していいよ。察するから」
「察するな。まぁもしその時がきたら考えるよ」
「北条さんもいい?」
「は、はい」
シャーリーの顔が少し赤くなっている。
「変なこと言う姉さんでごめんね」
「い、いえ」
「七不思議の詳しい話はその時その時にしようか。今日はもう暗くなるから」
もうカラスが鳴き始めている。
シャーリーの家は学校から遠いと言っていたので早く帰らせないといけない。
「潤が送ってく? 迎えは行くから」
「それなら姉さんが送ればいいのでは?」
「それだとラブコメが起きないじゃん」
ちょっと何を言ってるのか分からないけど、姉さんがシャーリーを送って俺が晩御飯とかの準備をすればいいと思う。
「姉さんは絶対に迎えに来るんでしょ?」
「潤を一人で帰らせるなんて嫌だよ」
姉さんは過保護過ぎる。
分からなくもないけど。
「私、一人で帰れますよ?」
「「それは駄目」」
「は、はい」
シャーリーのような可愛くて危なかっしい子を一人で帰らすなんて怖くて出来ない。
「それなら二人で送る?」
「つまり晩御飯は潤と二人で作るってことだね?」
「そうだよ」
「よし、それでいこう。二人は後ろでいちゃつかせて、帰りは潤と話して、帰ってきたら潤と晩御飯作れるとか一石三鳥じゃん」
なんか意味の分からないことも聞こえたけど姉さんだから別にいい。
「それじゃ行こう」
「行こ、シャーリー」
「あ、はい」
そして俺達は姉さんの運転でシャーリーの家に向かった。
シャーリーの家は確かに少し遠く、何より驚いたのは結構な豪邸だったことだ。
姉さんがシャーリーのお母さんに挨拶をしに行ってる間、俺は車内に居た。
姉さんに「異性が行くより同性が行った方がいいでしょ」と言われたからだ。
その時と帰ってきた時の姉さんが少し元気が無いように見えたけど少ししたらいつもの元気な姉さんに戻っていた。
家に着いたら一緒に晩御飯を作り、一緒に説教部屋に入った。
「北条さんに言わなくていいの?」
「なにを?」
「特別言うようなことじゃないけどさ」
そう、別に言う必要なんてない。
だから俺はシャーリーが気づくまで言うつもりはない。
そんなことを考えながら姉さんと一緒に父さんと母さんの遺影に手を合わせる。
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