第11話 ヒトガタロボット


 一方、γの教室では道徳の授業が行われた。授業で行う項目は「母さんの歌」というもの。第二次世界大戦前後の日本で女学生が小さな男の子に愛情を注ぐというもの一見すると美談にも見えるが、γはなんとなく彼らをここまで追い詰めた責任者がいるんじゃないかと思った。

前世の記憶がある妹のωから聞いた話によると、昔は道徳じゃなくて修身という授業で天皇崇拝が強めの授業だったとか。

その話を聞くと、この戦争の責任者は・・・って事になるのだが、今回の道徳の授業はそうじゃないらしい。

どうやら、感動とか畏敬の念とかそういうのがテーマだそうだ。

そしてクラスで議論する事になったが、γは感動とかそういうはどうでもいいとと思った。


「佐藤さん、この題材についてどう思っている?」


女子児童の高橋に聞かれると、γはこう答えた。


「うーん。俺はこいつらがここまで追い込まれたのは?」


「γ、あのおっさんって誰だよ?」


友人の土田が尋ねた。γは「うーん」と考えながら口を開いた。


「あのおっさんってのはお父さんもお母さんも誰も嫌っていない昭和天皇って人」


γが答えると、先生が「佐藤さん、授業の事を話してね」と注意された。γは「えっ、授業の事話しているじゃん」と口答えした。


「でも、佐藤さんは授業の話からずれていましたよ」


と教師に言われてつまらない表情をした。



放課後、γは教室から出ると、一体のロボットと出会った。それは一体のヒトガタロボットだった。見た目はのっぺらぼうのような黒いマネキンでそれにシャツを着せた不気味なロボットだった。


ロボットはγに近づいて挨拶をした。


「こんにちはあなたが、5年1組に在籍している佐藤γさんですね?話はLad nateから聞きましたよ。2組の早瀬さんを突き落としたと・・・」


人間のように話すロボットはγに話しかけた。


「うわぁ喋った。お前、何だよ!俺が犯人って証拠があるのか?」


「ええ、γさんが突き落としたという証拠はありますし、何よりまたγさんが学校で暴力事件を起こさないかどうか監視するためにLab Nateから派遣されましたロボット・・最近ではAIという呼ばれ方をされておりますね・・・・」


なんとロボットはγの監視のために派遣されていたのだ。


「派遣ってこぇーよ!俺を監視する気かよ!」


γは監視にかなりビビっていたが、ヒトガタロボットは淡々と話しを続けた。


「何を言っております。γさんは散々、暴力事件や差別行為をしたじゃないですか。クルド人の女子児童や在日コリアンの男子児童、トランスジェンダーの女子児童まで・・・・あれは立派な差別行為ですよ・・ふふふふ」


ロボットは表情は見えないが、不気味な笑いをしていた。



「なんだよ!俺を馬鹿にしているのか⁉」


とγは走って逃げたが、ヒトガタロボットは容赦なくγの後を追ってついって行き、最終的にはγが住む自宅までついて来たのだ。




 その夜、γ以外の佐藤一家は謎のロボットと対面する事になった。


「へへなんだこりゃ?」


「γが悪い事したから監視するロボットみたいよ。γ!悪ふざけだったとしても、階段から突き落とすのはやめさい!もし、その子が目覚めなかってらシャレにならないよ!」


θがγの行いを注意した。流石にθも日本人の被害者が出たγの暴力行為には注意せざる得なかった。


「ごめんさない。お母さん、俺、そんなつもりなかったんだ」


「そんなつもりなくてもだめでしょ!」



「ふーんこいつがロボットか・・・なんだろ・・・話すことができるのかな?」


βはヒトガタロボットに話しかけた。


「できますよ。佐藤βさん、あなたは1976年生まれの47歳。北海道出身。北星学園大学を卒業後、便通に就職し、2002年に退職。龍の穴の社員を得て現在は東京都中央区にある株式会社「ドブランゴ」のニタニタ事業本部企画開発部に勤務していますが、最近、人間関係が上手くいかない様子。転職を考えてみてはいかがでしょうか?」


ロボットはβに仕事を辞めるように勧めた。


「何言っているんだよ。待遇もいいし、せっかく昇進したばかりだから無理だよ」


「そうですか」


ヒトガタロボットにそう言われると、βは納得いかない表情でソファーに座った。


「佐藤θさん、あなたは1980年生まれの43歳。沖縄県出身。現在、スーパーでパートをしておりますが、沖縄トップの中高一貫校を卒業し、明治大学文学部を出ているあなたはもっといい仕事をした方がよろしいのでは?」



ロボットにそう言われると、θはβと対照的に新しい仕事を探そうかな?と思っていた。なぜなら、今の職場では満足がいかなかったからだ。


「では、おすすめなのがVerseバースという通信社です。ここは労働時間も長くないですし、ちゃんと休暇も与えてくれますよ」


ロボットが進めると、θはその会社に就職しようかな?と考えた。


「あなたロボット?私が生まれる前にはいなかったよ」


ωがロボットに話しかけた。


「あなたは佐藤ωさん。2015年生まれの8歳。小学2年生ですね」


「うん」


ロボットはωには優しく接していた。



「ねぇ、私の前世のこと知っている?」


ωがロボットに聞いた。


「その人はどんな人ですか?」



「うーんとね。お父さんが生まれる100年前の沖縄で生まれて東大まで行った人!」



「あー沖縄学の父と呼ばれた伊波普猷いはふゆうですね。確かに彼は1876年、那覇の西村で生まれ、東京帝国大学文科大学言語学科を出ております」


とロボットは丁寧に話した。


「そう!その人!その人ね私の前世なの!」


「そうですか。あなたは生まれ変わりですね」


ロボットはωに優しく接した。


「ロボットって私達もより物知りなのね」


「うん」


θとβは自分たちより知識があるロボットに驚いていた。






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