第7話 桜崎学園の説明会③


学食がある新校舎の1階につくと、そこは旧校舎とうって変わってオシャレな内装のバイキング形式の学食があった。


 そこには先ほど、一家と同じように説明会に来ていた親子連れの人達や櫻崎学園の教職員や生徒達が並んでいた。


「ホテルみたい。みんなで並ぼう」


 θはさっそく列に並ぶと、普段家では作らない魚料理やクロワッサンなどを選んでいった。


 βもθに続いてγやωと共に並ぶと、そこには洋食や和食を始め、中華料理や韓国料理、トルコ料理と言った世界の国々の料理が並んでいた。


 中にはアレルギーやベジタリアン、ヴィーガン専用の料理が並べられているブースもあり、βはそれを見て(ちっ、この学校はヴィーガン料理まであるのか・・)と不快な表情をしながらひたすら自分の好きな料理を入れた。


「ねぇねぇお父さん、お母さんの故郷の料理があるよ」


 γがβに声を掛けると、そこには「琉球料理」と「アイヌ料理」と書かれたブースがあった。ωはそれを見て「わーい」と喜び、「琉球料理」が多く並んでいるブースに駆け付けた。


「ω!」


 βはωを停めようとしたが、γがβに「お父さん『琉球料理』はわかるけど、『アイヌ料理』って何?」γは毎年夏休みになると、βの実家である北海道によく帰省するが、「アイヌ料理」の事は知らなかった。


「え?『アイヌ料理』?『アイヌ料理』って言うのは北海道に昔いたアイヌって呼ばれる人達が作った料理だよ。残念だけど


 βが「アイヌ」を「存在しない」と答えると、周囲にいた人達が不快な表情をしていた。βは「何でそんな表情をしているんだ?」と思っていたが、後ろにいた背の高いヨーロッパ系の男性が肩を置き、βにこう言った。


「アイヌは今も存在しますよ」


 男性は流暢な日本語でサラッと言うと、口と鼻にピアスをした黒髪の女性と共にアイヌ料理のブースへ行った。


 βは「なんだこいつ?」と思ったが、食べ物を取って先にθが座っている席に座った。γはωがいる琉球料理のブースに行き、シークワーサージュースを入れると、ωと共に両親がいる席に座った。


 佐藤一家は全員揃うと、「いただきます」と言って食事をした。てびち料理やサーターアンダギー、などが並んでいるωの料理を見てθは「ω、沖縄の料理はこっちじゃなくても食べられるじゃない」と言われたが、それでもωはサーターアンダギーを食べた。


 γも野菜や肉を食べたが、後ろを振り向くと、壁には帽子を被り、洋装をした2人の男女が写っていた。


「なんだこりゃ?」


 γは写真の下に書かれている説明書きを見るとこんな事が書かれていた。


「桜崎学園出身の著名人 石垣永一(ホクリ)と宮平(大濱)仁子(ジニー)。アルバース財団の創設者。戦後、廃校の危機にあった櫻崎学園を買い取る。2人はゲイとレズビアンであった」と書かれていた。


「なんだこりゃ?」


 γは写真を見たあと、家族と共に食事した。



 佐藤一家は櫻崎学園を見学した後、モダンな門をくぐりぬけてここから去って行った。βとθは櫻崎学園も悪くないなと思ったが、ポリコレが浸透しすぎて子供には勧める事はできないなと思った。θの兄夫婦が反対する理由もなんとなくわかる。


 佐藤一家は電車に乗って秋葉原から川口駅に降りると、一家が住むマンションへ歩いて帰って行った。


 θは自宅に帰ると、兄に櫻崎学園についてLINEで連絡した。θは学校の写真や学食の画像を送ると、兄から「電話しないか?」という返事が来た。


θは「わかった」と返事を送ると、兄に電話を掛けた。


「もしもしお兄ちゃん?θだけど、今日ね、βと子供達と一緒に櫻崎学園の説明会に行ったの」


「そうか」


「もうねーωがはしゃぎまっくって大変だったよー」


「そりゃ災難だったな・・・・γやβは櫻崎学園をどう思っている?」


「どう思っているって、γは『思ったより楽しそう』って言っていたけど、βは『思想が強すぎる』って言ってた」


「そう、そのβが言うように櫻崎学園は


θの兄がそう言うと、言われてみればLGBTの旗が立っていたり、ヴィーガン用の食事があったりと普通の学校と違う感じがした。


「思想が強い?それってどういう事?」


「その・・・ここでは言いづらい話だが、櫻崎学園は入学式や卒業式に日の丸も掲げないし、君が代も歌わない。まるで一昔前の沖縄の学校みたいなんだ」


θはそれを聞いて「え!」と驚いた。確かにθが小学生の頃は入学式や卒業式に君が代も日の丸も無かった。転勤族の両親はそれを見てかなり驚いていたし、当時は日の丸を下ろしたり、燃やしたりする不届き者がいたぐらいだ。θが小学校を卒業する頃には普通に日の丸も君が代もあったが、まさか櫻崎学園は未だにそういう事をしているのか?θは思わず耳を疑った。


「そうなの?」


「うん。λラムダφファイの入学式の時はそうだったし、第一、ここの校長は天皇陛下の悪口を言うぞ」


「天皇の悪口?」


θが見る限り伊作校長はバブル世代の人間に見えるが、そんな事を言うような人には見えなかった。


「本人曰く『その辺の乞食と変わらないってさ』」


θの兄が言うと、「酷い…」とθは言った。


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