第14話 採用試験
中途採用就職試験当日、スーツを着て川口駅から電車に乗り、東京駅で降りたθは就職である「Verse」がある丸の内のオフィス街を歩くと、Verseがあるビルが見えた。
「ここがVerseのビルか…」
θは大学4年時の就職試験以来なので緊張していた。
ビルの中に入ると、そこは広いエントランスと店舗があり、真ん中にはエスカレーターがあった。
エスカレーターに乗ったθは「Verse」の就職試験会場へ向かった。
試験会場に着いたθは会場に入るが、その中にはフィリピンやベトナム、インドと言った外国人が数人いた。
(中途採用って外国人もいるんだ…)
そう思ったθは会場の席に座ると、試験官が入ってきた。試験官はスーツを着た女性だが、短髪であり、ハイヒールを履いていなかった。試験官はθ達に「パソコンを出して電源をつけてください」と言われ、θ達は自身が持っているパソコンを出した。
θ達に行われた試験は通信会社である以上、パソコンがどれだけできるか試す試験であった。θはガチャガチャキーボードを打ちまくっていたので、試験が終わった時はホッとしていた。
試験が終わると、お昼の休憩を挟んで面接が行われた。面接では控え室で待つように言われた。しばらく待っていると、名前を呼ばれたため、θは「失礼します」と言って面接する部屋に入った。なんとそこには明らかに外国人の面接官がいたのだ。国や地域も様々であり、中国、インド、ルワンダ、パレスチナ自治区と言った人達であった。また、よく見ると、SDGsやレインボーの旗、ピンクと水色の旗のバッジを付けていた。
(面接官も全員外国人?)
θは驚いた。何だこの企業は?外資系か?と思ったが、前に聞いた中途採用試験の企業説明会でも外資系では無いと言っていた。
それなのになぜか外国人の社員が多かった。
「それでは席に座ってください」
面接官に言われると、θは席に座った。
「それでは中途採用の面接を始めます。えーと川口市にあるスーパーのパート勤務をしている佐藤θさんですね。私は面接官の魚と申します。佐藤さんは現在のパート勤務以前にスーパーやコンビニでのパートやアルバイトの経験がありますね。後、その前には株式会社『pixtiv』や大手の『集雄社』にいましたね。
『集雄社』は2009年に退職し、『pixtiv』の方に転職していますが、『pixtiv』の方は2013年に会社を退職し、コンビニの方でアルバイトを始めていますね。それはなぜですか?」
面接官の魚からの質問に対し、θ「pixtivは第1子の出産を機に退職をしました」と答えた。
「なるほど。確かに現在の日本では産休はあっても復職したら昇進しにくい風潮がありますね」
「はい。私の前にいた職場もそういう風潮があったので、退職して当時住んでいた自宅近くのコンビニやスーパーでのアルバイトやパートをしていました」
「という事は『
魚がθの履歴書をみながら話した。
「はい。都内のコンビニでアルバイトをした後、2017年にスーパーのパートを始め、2019年に川口市に引越し、現在は川口市のスーパーでパートをしています」
「そうですか。ではなぜ、川口市に引っ越してきましたか?」
「第1子の小学校の入学がきかっけです。川口市は子育てがしやすい街だと聞き、夫と共に引っ越してきました」
「なるほど」
魚はθの話をメモしていった。
「私からいいですか?」
と質問して来たのはパレスチナ出身のサイードがθに質問をしてきた。
「はい」
「川口市は子育てがしやすい街と言いましたが、そこはクルド人が住んでおり、彼らの多くは私と同じイスラム教徒です。そんな彼らに対し、偏見を持ってはいませんか?」
サイードの質問に「?」と思った。イスラム教徒に偏見?そんなの無いはずじゃないか?そう思ったθは「はい。持っておりません」と答えた。
「そうですか。我が社では様々な差別を許さない風潮なので差別発言をする社員は1回で減給、あまりにもひどい場合は退職させていただきますので」
なんだこの会社は?とθは少し驚いた。
面接が終わると、θは変な事を聞かれたなと思いながら会社から去って行った。
結果が出るまでθはもやもやだったが、採用されていたらいいなと思っていた。
一方、「Verse」人事部の面接官達はθを採用するかどうか迷っていた。
「佐藤θは確かに仕事のスキルも高いし、優秀な成績で大学を卒業しているな・・」
サイードはθの履歴書を見ていた。
「でも、彼女はなんというか当たり障りのない事を答えていたから、採用された時、ボロがでないか心配だな・・」
インド出身のナンダム―リーがθが採用された時の事を心配してた。
「君はどうしてそう思うんだい?」
サイードがナンダム―リーに尋ねた。
「その、他の人達はみんなここで働くというだけではなく、個人の主義主張がはっきりしていたのに彼女だけ、主義主張があまり無い感じがするんだよな・・」
「そうか?Verseや取引先の日本人社員ならだいたいそうじゃないのか?」
「サイード、そこがマズイんだよ。右派や左派と言った主義主張がはっきりしている日本人ならまだしも、主義主張のはっきりしない人は無意識に差別を内在化させている事が多い。僕も小学生の時にインド人と言うだけで『タイガー・ジェット・シン』というあだ名を付けられ、よくプロレス技を掛けられていた。あだ名をつけたクラスメイトは右派でも左派でもないどこにでもいる『普通の日本人』だった」
「確かに・・ナンダムリーが言うように所謂『普通の日本人』は無意識に差別を内在化させている事が多い」
「
ルワンダ出身のニヨンゼンガはθの履歴書を見ながら「私も人の国の事を言えませんが」と言っていた。
魚はうーんと考えながら
「そうだな…今は保留としておくか…とりあえず、採用されたらここにいる日本人社員と同じように研修させないといけないな…」
魚はθの履歴書を取ると、採用するかどうか考えていた。
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